ハラカルラ 第50回

大福りす
『ハラカルラ 目次


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ハラカルラ    第50回




朱門の提案は、白門と対峙するに朱門だけ黒門だけというのは、時間という不要なリスクが出て来てしまう。 互いに手を組まないかというものだった。
ハラカルラのために動くのだ、互いが張り合っていても時間がかかるだけ。 一日でも早く白門を止めなければならない。

考える様子を見せている黒門の長。 もう一押しである。

「そちらも守り人が居なく困っているだろう」

黒門の長が何のことだと少し下がっていた顔を上げる。

「白門のことが解決した暁には、この戸田君を黒門に迎え入れるのはどうか」

「どういうことだ」

「こちらとしても手放したくはないのだが、それ以上早急に白門を止めたいということ。 条件は付けさせてもらうがな」

「条件?」

「戸田君が色々と水無瀬君から聞いていた話がある。 ずっと監視をされていたらしいな」

さっき雄哉が黒門がしてきたことを言っていた。 それは適当に言ったことではないのは誰よりも黒門が知っている。

朱門の長が人差し指を一本立てる。

「一つに、黒門は水無瀬君から手を引く」

水無瀬の言っていたことである。
雄哉を差し出すのだ、もう水無瀬が必要ではないのは分かっているが、念を押しておきたい。 水無瀬もそう考えて言ったはずである。

「・・・それから」

黒門の長の声に間をおいて朱門の長が中指も立てて続ける。 その指が一本づつ増えていく。

二つに、水無瀬の時のように見張など付けなく、雄哉は週に一度ハラカルラを訪れる。
三つに、黒門の村と雄哉のマンションまでの送迎は黒門がする。
四つに、雄哉を大学に通わせ、その後就職もさせる。
五つに、暴力は絶対に振るわない。

そして最後は上げていた手を下ろす。

「最後六つに、白門のことに黒門は朱門と協力し合う」

「週に一度? その程度でハラカルラを守れるとでもいうのか」

「あくまでも戸田君は学生だ、学業優先でなければどうする。 それにその後の就職も。 彼にはやりたいことがある、それを折ってまでとはこちらは考えていない。 そして当分は学業優先となり黒門の守り人になったとて、すぐに週に一度とはいかない。 いつから始められるかは戸田君が決める」

朱門の守り人となれば守り人個人の人生を尊重するということ。

「黒門は最初の守り人という矜持があるだろう、門によっての在り方というものがあるということは分かっている。 だが守り人自身の在り方を守るのも門の者たちのすべきことではないか」

即座に今までの考え方を変える決定など出来ないであろう。 黙ったままの黒門の長に間をおいて続ける。

「言っておくが、あくまでこちらは戸田君を手放したくはない。 その戸田君を黒門に差し出すほどに一日でも早く白門を止めたい、ハラカルラを守りたいと思っている。 明日、二十二時にこの山の向こうの道路で待っている。 来る来ないは自由だが、それを返事と受け取る」

朱門の長が腰を上げるのに続いておっさんたちも腰を上げる。 履物を履き建物を出ようとしたときに雄哉が「あ、そうそう」といって振り返る。

「壊した窓まだ壊れたままらしいから直しといた方がいいよ。 万が一にも水無瀬が黒門に戻って来た時の印象が違うでしょ。 ま、臆が一だろうけど」

カオナシの面の下で数人の男が顔を歪めている。
出て行く朱門を見送った黒門の男たち。

「長、どうします」

「簡単に飲める話ではない」

「ですが行方不明の水無瀬を探すのも、新しい守り人を探すのも簡単な話ではありません」

「分かっておる。 だが週に一日だけなどと」

「今の話を断っては年単位の話になります。 水無瀬は居所を変えるでしょう、そうなれば探すのは困難になり、何年先に守り人を見つけられるかは分かりません」

朱門が建物を出ると、外に居た男たちが一斉に建物に入って行き、中に入れなかった女たちが入り口に詰め寄っている。

朱門の男たちが黒門の村の中をゾロゾロと歩いていると、端を歩いていた雄哉に声がかかった。

「君(きみ)!」

朱門が村に入ってきて黒門の男たちが立ちはだかった時、最後列に居た男である。
雄哉が横を見るとカオナシの面を着けた背丈が同じくらいの男が立っていた。 声からするに青年だろうか。

「君、水無瀬君と一緒にいたよね? 十五人ほどでカラオケに行ってそのあと帰らないまま翌日にファミレスにも行ったよね?」

カラオケに行ったくらいではいつの時の話だろうと思うが、そのままファミレスに行ったと言われれば、そう遠くはないあの日のオールの時の話かと分かる。

朱門の男たちの足が止まる。

「あー・・・ちょっと今繊細な時だからその話内緒にしてくれる?」

水無瀬と雄哉の関係性はまだ伏せておきたい。

「え?」

「君の居るこの村にとって繊細な話になると思うんだけど。 ん? あれ? もしかして君の名前って “せ” から始まる?」

他の黒門の男たちと随分話し方が違い、声の張りの無さも水無瀬から聞いていた青年ではないだろうか。

「あ・・・」

「当たりってことかな? 誠司君だろ? 聞いてるよ。 もしかしてだけどヨロシクになるかもしれない、その時にはヨロシク。 あ、俺のことは絶対に黙っててな」

驚いた様子の誠司を置いて雄哉と朱門の男たちが歩き出し山を下りていく。 下りだからだろう、登りと違って雄哉が余裕で歩いている。
裾野の村から不審な視線を送られながら畦を歩き道路に出ると、すぐに迎えの車がやって来た。


「は? じゃあ、計画的にやったってことか?」

「まぁそんなところかな」

裾の村のお婆さんの様子が頑(かたく)なすぎた。 白門のことは身をもって知っているし、水無瀬から聞いた黒門の話、そして朱門の村の人たち。 そこにまつわる関係性。 どこをとっても雄哉にしてみれば聞いたことも見たこともない話であった。 それだけにお婆さんを怪しんでしまったということはあるが、軽トラが先を走らないというところにも引っかかった。 どうして後ろからついてくるのか。 そして水無瀬から聞かされていたその昔の黒門と青門の確執の話。

「で、これを見つけたと?」

助手席のおっさんが雄哉のスマホを手にしている。 そのスマホの画面には写真が写し出されている。 軽トラの荷台に置かれている農具の間にあるものが写っていた。
おっさんたちは雄哉が軽トラに乗り込んだ時、一言いっておけばよかったと後悔していたが、雄哉自身が判断をし軽トラに乗り込んだということであった。 おっさんたちも雄哉も軽トラがやって来た時、荷台にあるそれを目にしてはいたが、はっきりとは見えなかった。

「最初はそこに写ってる手拭いで隠してたんだろな、でもあの時急に呼ばれて慌てたってところかな」

写真の横に手拭いの端が写っている。 だが最初、雄哉やおっさんたちが見た時にはそれの四分の三ほどに手拭いが覆われていた。 雄哉が言うように最初は包んであったのだろうが、慌てて荷台に隠したときにわずかに解けたというところだろう。 そして雄哉が撮ってきた写真には全面が写っていた。

「ちゃんと包みなおしておいたから俺が気付いたとは思っていないはず。 ましてや写真を撮ったのなんてバレてないと思う」

「だがそんなぞんざいに扱うか? ましてや荷台に乗せるなんて」

「拾ってきたばかりだったとか?」

「・・・長」

長は既にその写真を見ている。

「青門かもしれんな」

そう考えると頑なに村に入らせなかった理由が分からなくもない。 おっさんが手にしている雄哉のスマホには、黒門の面であるカオナシの面が写っている。

雄哉が見たという白門が黒門を殴打した時、その時に面が飛んだ者が居たのかもしれない。 それを拾えるのはハラカルラを知っている門の者だけ。 黒門に行ったときに裾の村と黒門には繋がりがないと分かった。 そしてもし裾の村が青門だとすれば、黒門の入り口と青門の入り口はそんなに離れていないはず。 となれば黒門の穴の近くで倒れていたのだ、その面を拾っても可笑しくはない。 それに最初の守り人の話でも青門が暴れ黒門の穴まで入って来たと言うことだった。 それは互いの門が近いところにあったという可能性が高いということになる。

「ハラカルラ以外のところで面を落とすはずなどないのだからな」

朱門も然りだが、黒門が白門の村に足を入れた時には面など着けていなかった。 朱門とやり合う時にだけ着けていたはず。 それを考えるとあれから黒門とのやり合いはない。 水無瀬を探すのに懸命になっていて、面がないことに気づいていないのかもしれない。

「青門だったとして青門にも声を掛けますか?」

「それは難しいか・・・。 青門は黒門と接したくないと考えているかもしれんからな」

それにと言って続けたのは、そうなってくると青門黒門、互いの村の場所が判明するということになる。 後々何があるか分からないのだから、それは避けた方が良いだろうということであった。 そして黒門はどういう門のカラーかは昔から知っている、白門のカラーも今回のことでよくわかったが、青門がどのような考えを持っているのかは分からない。 分からないまま近付くのはリスキーなところがあるとも言った。

「そうか、結局、いま守り人が居るのはその青門だけってことか」

運転手であるおっさんがポツリと言う。 そんなことなど敢えて考えもしなかったが、まさにそうであった。


烏と共に水を宥めている水無瀬。 新しいことはまた今度教えると言っていた烏だが、黒烏も白烏も忙しそうにしている。 よって水無瀬は水鏡を見ている。

長には今朝、ライと共に朱の穴に行きたいと言った。 渋った顔を見せた長だったが、烏には借りがあると言った水無瀬を行かせないわけにはいかなかった。 その借りのお蔭で黒門と話をすることが出来たのだから。 だが今回は護衛という名のおっさん二人とナギもついてきていた。

「ねぇ、何でもよくご存知の烏さん」

黒烏が振り向く。 決して黒烏さんとは呼んでいないのに。

「なんじゃ」

返事までしてきて、ましてや何か訊けば答えてくれそうな返事。 やはり黒烏にヨイショは必要である。

「青門の守り人、俺の居ない間に来てました?」

「ああ、来たな。 アヤツも忙しいみたいで長くは居らんかったがな」

「以前、青門の守り人と話したって言っていらっしゃいましたけど―――」

「教えんと言っただろうが」

あ、ヤバイ。 機嫌を損ねただろうか。

「いいえそうではなく、青門の守り人と話がしたいなと思って。 烏さんから取り次いでもらえませんか?」

「話?」

「はい」

「気が向いたらな。 それより鳴海、どうして朱の穴から入ってきておる」

「あー・・・当分そうなるかと」

「どういうことだ」

「諸事情がございまして」

黒烏が半眼で水無瀬を見る。

「あら、可愛らしいお目目」

話をそらしたい。

「大ジジに可愛らしいとはな、鳴海もなかなか言うではないか。 それより雄哉は今日どうした?」

大ジジ言うな! と黒烏が決して大きくはない声で叫んでいる。

「あ、色々とありまして忙しいみたいです」

「何じゃお前、鳴海から雄哉に乗り換えか?」

「この色ボケ大ジジが、くだらんことを言うでないわ」

そんな時、水鏡に大きなざわつきが現れた。

「烏さん、大きいざわつきが現れました」

「ええい、この忙しい時に」

白烏が水鏡を覗き込み場所を特定すると、すぐに飛んで出て行く。

「うん? 終貝か。 そんなに離れておらんな、鳴海、取ってきてくれ」

それは困る。 白門にでも見つかっては元も子もない。

「すみません烏さん、こちらで複数のざわつきが出ていまして今手が離せません」

舌打ちが聞こえたような気がする。

「まぁ、仕方がないか」

一言残して黒烏が飛び立って行った。
白々しく水鏡に添えていた指を離す。 きっと烏はすぐに戻ってくるだろうが、千載一遇のチャンスかもしれない。 水無瀬がこの穴の入り口の青の穴の側に隠れるようにしゃがみ込む。 こうすればこの穴を見に来た守り人に見つからない。

烏の話からすると青は黒に会いたがっていないということだ、何度も黒の穴から出入りをしていた水無瀬をどこかで見ていたとしても、見ていなくとも青の守り人は白にも朱にも守り人が居ないことを知っているかもしれない。 そうなれば自分自身以外の守り人は黒の守り人だと判断し回れ右をするかもしれない。 そうされては困る。

暫く待ってみたが黒烏が戻ってくる前に青の守り人が姿を現すことは無かった。


朱門の村に戻ってくると長たちも戻ってきていたようで、雄哉がおっさんたちと話していたが、水無瀬を見ると「お疲れ」と言って腕を組んできた。

「え? それじゃあ、その裾の村って青門かもしれないってことか?」

「可能性として高いんじゃないかな」

「にしても無茶するなぁ、バレたらどうする気だったんだよ」

「俺がバレるようなことするわけないだろ、水無ちゃんとは違う。 どうせ水無ちゃんなら小心者丸出しでキョドリながらするだろうから、すぐにバレるだろうけどな」

「悪かったな」

「認めるんだー」

大笑いをしている。

「白烏が雄哉は? って訊いてきてたぞ」

「大学も気になるけど今はどうしようもないからな。 明日も行くんだろ? 俺も行く」

雄哉は水鏡のざわつきを見られないのが悔しいと言っていた。 再チャレンジするのだろうが「そう簡単には出来ん、焦ることは無い」と白烏に言われていた。 目を凝らして見るだけなのに、とついうっかりまた思ってしまっていたが、見ることが出来て宥められるようになるには何か月もかかると白烏は言っていたし、年単位もありえるとも言っていた。 やはり難しいのだろうか。


翌日、長に許可を得て水無瀬がハラカルラに向かう。 昨日と同じようにライを含む四人が護衛としてついている。 一緒に行くつもりだった雄哉は話が長引くかもしれないからあとで行くということで、教授と連絡を取っていた。

「みんな色々あるだろうから、昨日くらいの時間に迎えに来てくれたらいいから」

「だから、気にすんなって。 俺たちの仕事だって言ってんだろ」

「うーん、納得できないんだよなぁ」

「納得しろ」

ライたちに見送られて水無瀬が穴に入り、そのまま烏たちの居る穴に向かった。


「え? いいんですか? さすがは教授、教授に頼んでよかった。 あ、じゃそういうことで。 はい、有難うございます」

ライの家を出ると新緑と稲也、そしておっさんが二人待っていた。

「お待たせしましたー」

新緑たちに見送られ穴をくぐった雄哉。 一本道・・・一本穴である、迷うことなどない。 朱の穴まで来てもう一つの穴をくぐる。 穴をずっと歩いて行き穴から出た時に鉢合わせをした。

「あ・・・」

「え?」

水無瀬からどの穴が何門の穴かは聞いている。 朱門の左斜め前から男が出てきていた。

「・・・朱門?」

「そうです。 青門さんですか? 青門の守り人さん?」

男が頷く。

「えーっと明日、同じ時間にまたここに来られます?」

「え?」

「お話があるんですけど、今日は俺の方が都合悪くって」

「あ、ああ、いいけど、話って」

「色々です。 じゃ、お願いします。 あっちには黒門の守り人が居ますけどどうします? 行きます?」

青門の守り人が烏たちの居る穴に首を振る。

「いや、一人いるならそれで十分だろうから。 それじゃあ明日」

回れ右をして穴をくぐって行った。 やはり水無瀬の言っていたように青門の守り人は黒門を避けているようである。
雄哉が水無瀬達の居る穴に向かって歩を出した。