ハラカルラ 第16回

大福りす
『ハラカルラ 目次


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ハラカルラ    第16回




余所見をしている間に二人の位置が変わってしまっている。 もうどっちがどっちか分からない。

「これが盗聴器を見つけたモノ?」

生き物ではなかったようだ。 だがこの二人を見ていて誰が機械と発想できるだろうか。 どちらかというと、クマのぬいぐるみや小さな仔犬を抱いているような姿が目に浮かぶというのに。

「モノじゃない、ピーピー」

(いや、どう見ても機械じゃないかよ)

「モノなんて言ったらピーピーが可哀そう」

どうしてか、ふと、あいつの言ったことを思い出した。 『犬は物扱い』 警察署で会った時にそう言っていた。
犬を物扱いするのはどうかと思うが、機械は物扱いしても良いのではないのか? とは思うが、このまま言い合っていても勝てそうにない。 この二人はある意味、口がたちそうだ。

「わかった、じゃ、ピーピー。 このピーピーが盗聴器を見つけてくれたってわけ?」

「盗聴器を見つけたのは炭」

「え? そうなの?」

「ピーピーがライの部屋でピーピーって言って教えてくれたから」

何気に話が分からなくもない。
まずピーピーと言って教えてくれたということは、このピーピーはピーピーと鳴ることからそう命名されたということ。
そしてライの部屋、つまりは水無瀬の部屋の隣でこのピーピーが反応した。 そのことがあり、この二人は水無瀬の部屋に忍び込みこれを見つけた。 だがどうしてUSBスティックと確定したのだろうか。 他の物とは思わなかったのだろうか。 それとも確認のためにもう一度ピーピーを作動させ、ピーピーと音を鳴らせたのだろうか。 そうであるのなら向こうに、おじさん団体にもその音が聞かれていたはず。 不思議に思わなかったのだろうか。

「炭が見つけてから、ピーピーにもう一度訊いたら教えてくれた」

やはり鳴らしたようである。

「ちゃんと点灯して教えてくれた」

「え?」

点灯?

「ピーピーの音を出したら、向こうに聞こえるからね」

小さいなりにも分かっていたようである。

「点灯に切り替えられるようにピーピーの身体は出来てるからね」

これ、と言いかけて一度口を噤み、一呼吸おいてから疑問を投げかける。

「ピーピーは誰が作ったの?」

作ったと言っていいのだろうか、だが、誰が産んだのはおかしいだろう。 作ったと言ってしまったが、また突っかかって来るのだろうか。

「炭と煉」

良かった、ここは作ったで良かったようだ。 いったいどこに線引きがあるのか。

「え? ああ、じゃ、誰かに教えてもらったんだ」

「教えてなんてもらってなーい」

「煉と炭はお勉強してるもん」

勉強? 勉強してこんな・・・盗聴発見器が作れるのか? それもこんな小さな子に?
だが周りを見渡すと確かに色んな部品がある。 それに椅子の高さもこの二人に合わせてあるようだし、他に椅子は見当たらない。

「この盗聴器だって分解してもう盗聴できないようにした」

「見た目にはわかんないけどね」

「わかんないようにしたもんねー」

「ねー」

「そうなんだ・・・じゃ、これはもう盗聴器の役は果たせないんだ」

眩暈を起こしそうになりながらも水無瀬が二人の会話についていく。

「うん、バラバラにして部品取りしたいけど、一応、水無瀬のものだから駄目だって言われた」

なんだ、そのジトッとした目は。

「水無瀬のものは水無瀬が決めるって言われたから。 部品取りしたいけど」

いや、だからそんなに見られても・・・。 って、俺のもんじゃないし。
だからと言って、持ち主に返すのも間の抜けた話である。 それに確かに水無瀬の家にあったものなのだから、水無瀬が判断しても良いのではないだろうか。
少々の怨みがあるUSBスティックだが、分解されるほどの怨みはないし、分解などとはUSBスティックが可哀そうとも思うが、もう盗聴器の役を果たしていないのならば、単なる部品クズになっているだけ。 それなら新しく生まれ変わった方がいいだろう。
盗聴などという黒いものに手を染めるものではなく、もっと明るい製品に生まれ変われれば部品も喜ぶだろう。

「うん、いいよ」

「わーい、やったー!」

二人が喜んで手を合わせたが、すぐに水無瀬が付け足す。

「ただ、約束をしてほしい」

「なに?」

「なんでもする」

「このUSBスティックは盗聴という悪いことに使われていた」

「うん知ってる」

「ピーピーが教えてくれたもん」

「だから今度は、いいことに使って欲しい」

「いいこと?」

「炭も煉もいっつもいいことしてる」

「そうか、それは二人ともいい子だ。 じゃあ、このUSBスティックの部品を取ったら、いいことに使う物を作る時に使って欲しい」

「うーん・・・例えば?」

「そうだな、いつもはどんなものを作ってるんだ?」


煉炭と共に水無瀬が出て行くとワハハおじさんに続いて爺や男たちが集まって来ていた。

「長、水無瀬君は何と?」

「焦ることは無い」

「ということは、良い感じではなかったということですか?」

「いいや、そういう意味ではない。 ただ、あっちを良いように思ってくれているようだ」

あっちというのは長が言っていた水の世界ということである。

「そうかい、それが何よりもの返事だろうて」

一人の爺が顎に手を当てて頷きながら言う。

「ああ、それがなけりゃ、矢島も選ばんだろうて」

同じ顔をした爺が同じ仕草で答える。

「あとは煉炭に任せるしかなかろうな」

「煉炭に?」

「こういうことは無邪気な子供が一番だろうて」

煉炭の無邪気さは度が過ぎてはいないだろうかと、男たちが首を捻った。


煉炭の過去に作ったものを聞いて頭がくらくらしてしまった水無瀬であったが、にわかに信じられなくもない。 結局部品取りをしたもので何を作るかは二人で吟味して考えるということで、いま風呂に浸かっている。 何故か洗い場では煉炭がキャッキャ言いながら頭を洗い合っている。

(どうしてこうなる・・・)

煉炭と一緒に風呂に入るのもそうだが、何故、一泊する羽目になったのか。

「水無瀬も洗ってあげる」

「湯船から出て出て」

「いや、俺は―――」

腕を引っ張られた。
渋々湯船から出てスノコの上に座ると二人で背中を流し始めた。

「父ちゃんみたいに広くないね」

「でも母ちゃんより大きいね」

母ちゃんより小さいと言われたならば水無瀬は湯船に沈み込むだろう。
炭が水無瀬の前に回り込んできた。

「今度は頭。 下向いて」

湯桶で水無瀬の髪を流すとシャンプーをかけ、ゴシゴシとこすりだした。

「なー、炭」

煉炭はどういう字を書くのかはすでに聞いていた。 二人ともが「書ける」 と、自慢し合いながら教えてくれたのだった。 教えてくれた漢字はまさに “煉炭” だった。

「なにぃー?」

水無瀬の頭をこすりながら炭が応える。

風呂に入っている時は煉炭の見分けはつく。 今も水無瀬の前で小さな男の子の証明が、ゴシゴシとこする手と同じタイミングでプラプラと揺れている。
ザっと、背中を湯で流された。

「背中ゴシゴシ完了」 と煉の声が聞こえる。 炭さえ分かれば煉を見る必要はないし、ジロジロ見て変態と思われたくもない。
可愛い双子だとは思っていたが、敢えて性別まで考えてはいなかった。 脱衣所で服を脱ぎだした煉がまさか女の子とは思わず、思わず二度見してしまった。 あの失敗は繰り返してはならない。
煉もやってきて水無瀬の頭を炭と一緒にゴシゴシし始めた。 思わず水無瀬が目を閉じる。

「炭はあっちっていうか・・・なんて言ったらいいのかなぁ、長は水の世界って言ってたけど、行ったことあるのか?」

「お水ちゃぷちゃぷだ」

「ちゃぷちゃぷしちゃいけないけど、楽しいもんね」

何か勘違いされているようだ。

「プールじゃないぞ?」

「知ってるよー」

「お魚いっぱいのとこ」

分かっていたようである。

「じゃ、行ったことがあるんだな?」

「たまーに」

「怪我した時」

「すぐに怪我しちゃうけど」

「すぐに治るもんね」

「もんね」

「そう、か・・・」

「水無瀬は行ったことがないの?」

「ああ・・・うん、ない」

「んじゃ、明日一緒に行こー」

「怪我してないけど一緒に行こー」

「楽しいよ」

「きれいだよ」

「目、つぶって」

「流すよー」

じゃばっと、シャンプーの泡が流されていった。
そして用意されたスウェットに着替えた水無瀬は、何故か川の字になって煉炭と一緒に寝ている。

「痛て・・・」

この二人、かなりの寝相だ。


翌朝、誰よりも遅く起きてきた水無瀬の顔を見たワハハおじさんが「すまん」と手を合わせ頭を下げた。
水無瀬の顔の痣に気付いたからだろう。 さすがは親、我が子の所業に敏感である。

朝食を済ませると煉炭に手を引っ張られ長の家に向かった。 長は既に煉炭の父親から話を聞いていたようで、入口までの案内を長自らがした。 それについて来たのが、煉炭の見張り役ということでライが後ろから歩いて来ている。 そのライがやってきた時「どしたのその痣」 と顔を指さされ訊かれてしまった。 当の煉炭にも朝一番に訊かれたが、犯人は煉炭だ、とは言わなかったが顔を洗った時に鏡で見た。 かなり目立つ。

それほど長くは歩かなかったが少々の坂や階段があった。 木々に囲まれた中を歩いていると、ふいに長の声が聞こえた。

「歳をいくとここまでは簡単に来られなくなってしまう。 わしはまだセーフだがな、老爺になってしまうととてもじゃない。 だがな、それでいいと思ってる」

どういうことだろうかと、両手を煉炭と繋ぎながら歩いている水無瀬が長を見た。 煉炭はかなり嬉しいのだろうか、ずっと手を大きく振って歩いている。 それが為、水無瀬の身体は不規則に動いている。
斜め前を歩く長は前だけを見ている。

「いつまでもここに来ることが出来てしまっては身体が治ってしまう。 身体が老いるのを受けとめ、それに従うことが出来なくなってしまうからなぁ」

それでは来なければいいだろうと思うかもしれないが、人というものは痛みに弱い、病気にはなりたくない。 痛みを取ってもらえるのならば、病気が治癒するのならば、と考えてしまうのは避けられないこと、そう長は言った。

長の言ったそれは万人に対してのことではないと思った。 少なくとも長は身体が動けても来ないだろう、そしてこの村の人達もきっとそうだろう。 だが異分子はいつ生まれてくるかは分からない。

「これは?」

目の前に赤い鳥居がある。

「隠れ蓑のようなものだな、この先には稲荷神社があるという態をとっている。 稲荷神社は何処にでもあるからな、聞き慣れない神様をご祭神にして神社オタクにかぎつけられても困るということだ。 まあ、実際に稲荷の祠はある。 五穀豊穣は昔からの願いなもんでな」

長が足を進め赤い鳥居をくぐる。 横を見ると紙垂(しで)の巻かれる大木がある。

少し歩くと小さな祠があった。 石で作られたお狐様が祠の両端に座っている。 祠の中には砂埃が見えなく、水の入った湯呑が置かれている。 花も枯れてはおらず、無地の一輪挿しに佇んでいる。 毎日誰かが世話をしに来ているということだろう。
長が祠の前で手を合わせると、水無瀬の手を握っていた両方の手が離され煉炭がその手を合わせた。 思わず水無瀬も手を合わせる。

長が手を下ろし「行こうか」 と言って歩き出した。 煉炭がすぐに水無瀬の手を握る。

祠の後ろを歩いて行くと、今度は石で出来た狛犬が台座の上で左右に鎮座しているのが目に入った。 先ほどのお狐様とは比べ物にならないくらいの大きさであるが、神社で見かける狛犬サイズである。 お狐様が祠に合わせた可愛いサイズだったということだ。

「これは獅子と言ってな、ここを守っている」

「狛犬じゃないんですか?」

狛犬なら、邪気を払ったり、神聖な場所を守ったりということを聞いたことがあるし、見るからに狛犬ではないか。 それとも獅子という名のついた狛犬か?

「まぁ、見た目は狛犬だな。 だが狛犬ではない」

どういうことだ。

「お獅子はすごいの」

「力もあるし早いし」

珍しくもずっと黙っていた煉炭が口を開いた。

「それに飛ぶ!」 最後は二人で声を合わせる。

「え? 飛ぶって?」

「これ、煉炭、約束は?」

長に言われ二人が両手で自分の口を押さえる。 両手ということは水無瀬の手も引っ張られているということである。
どうやら煉炭は長と黙っているという約束をしていたようだ。

「獅子の詳しい話は控えよう。 ここを守ってくれているというのが一番重要なことだ。 進もうか」

長が獅子の間を歩いて行く。 それに続いて水無瀬も歩いた。 が、何か違和感を感じた。

(今・・・目が動かなかったか?)

足を止め獅子と呼ばれている狛犬を見るが、最初に見た時と変わりがあるようには見えない。

「水無瀬?」

「どうしたの?」

「あ、うん、何でもない」

後ろでライが笑いを堪えているのを水無瀬は知らない。
いくらか進んで行くとすぐに水を感じた。 それは水無瀬であるから分かった。 水無瀬や跡を継ぐ者でなければまだ気付く者はいない。

「矢島に言わせるとこの辺りから始まっているというんだが、水無瀬君はどうだ?」

「どういう風に言えばいいのか分かりませんが、単純な言い方をすれば水を感じます。 矢島さんの言っていることが分かる気がします」

「そうか」

後ろではライが口笛を吹く真似をしている。
長が足を進めていく。 すると水無瀬の目には段々と周りの景色が消えていき、完全に水の世界となった。

「あ・・・」

水無瀬が声を漏らした。 もう水無瀬の目には水の世界が見えている。 だが長にもライにも、もちろん煉炭にもまだ見えていない。 目の前には木々が広がっているだけである。

「あ・・・」

今度は煉炭が声を漏らした。
握っていた水無瀬の手がいつの間にかなくなっていた。

「うわぁ、もう入ったのかよ」

水無瀬の姿がどこにもない。

「ライ、追ってくれ」

ライがすぐに走り出した。 このまま走って行くとライもすぐに水の世界に入ることが出来る。

「長、炭と煉は?」

「ここまでということだな」

「えー!」

「行くー!」

「約束だろう? 水無瀬君の手を離さないことって。 離したらそこまでとわしは言ったな?」

「だってー、水無瀬が離した」

「煉も炭もちゃんと握ってた」

「駄目駄目、さ、帰るぞ。 ほれ、手を繋がんと。 これも約束したな?」

渋々二人が長の手を握る。

煉と炭の見張り役にライを付けていたが、結局長がお守り役となってしまった。