ハラカルラ 第39回

大福りす
『ハラカルラ 目次


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ハラカルラ    第39回




ワハハおじさんに続いてモヤと新緑が話す。

「俺も新緑も見回りと思われる男連れしか見かけなかった。 家の明かりもどこも灯っていなかったな」

ということは、ワハハおじさんたちの担当した場所に怪しい場所は一か所だけということになる。 それはモニターの置かれていた家。
モヤから目配せを受け次にキリたちが話す。 キリが泉水に目配せをする。

「こちらもナギと二人で回りましたが、見回りと思われるおっさん連れ一組を見ただけです。 その二人がモヤさんたちの方に行ったので、多分同じ二人連れを見たのではないでしょうか」

「村の中のあちこちを見回りが歩いているのか。 家の明かりはどうだった」

「特に点いている家はありませんでした。 点いていたのは多分、見回りに出るときに点けたくらいかと」

「そうか、キリは?」

「ああ、こいつらと反対方向に行ったんだが、人家がなくなってもまだ道がずっと続いていてな、なんかきな臭いものを感じてゆっくり歩いて行ったんだがその時に男が二人その奥から出てきた」

「夜中に?」

「ああ、で、奥まで行ってみようと思ったんだが、また奥から声が聞こえてきて諦めた。 足元が枯葉でいっぱいだったからな、枯葉を踏む音で下手を打ちたくなくてな。 ああ、最初に見かけたそいつらはシキミたちの見ている方向へ歩いて行った」

話が振られた、キリたちからの話はここまでということだろう。

「そいつらかどうかは分からないが」

シキミが話し始める。 稲也と茸一郎が確認した限り、料理に使うバットのような容器にワカメが入っていたという。 そして使えるのか、頭のいい人間が考えるだろう、この役は二度とごめんだ、後味が悪すぎると言っていたという。

「山の上から見た限りでは五軒に明かりが点いていた。 こっちが回った範囲にはどこも明かりは点いていなかった」

「その五軒ってのが俺の行った方角かもしれませんね」

水無瀬のいる場所に行くまでに間違いなく五軒の家の明かりが点いていた。

「単なる村とは考えにくい、か」

そんな夜に明かりが灯っている、そして夜の見回り。

「ですけど仕事が農作業だけとは限りません。 あそこは山の裾野ですから、どこかに勤めている可能性だってあります。 次の日が平日だからと言って有休がないわけではないでしょうし、そうなれば夜更かしもするでしょう」

「シキミたちが見たワカメってのはどうだ? それにキリが見た夜な夜な散歩。 もし同一人物だったとして、夜な夜な散歩にどうしてワカメが必要だ? それに聞いてきた会話」

「ああ・・・それは・・・」

どうしてだろうか。

「とにかくある程度の村の様子は分かった。 四日後もう一度行ってくれ、この先はそれからだ」

本日はこれで解散となった。


昨夜戻ってきていたワハハおじさん。 運転手でもあり、村に戻ると少しの仮眠で畑仕事に追われた。 その後、軽く夕飯を食べてすぐに寝てしまってからの夜の会合であったが為、練炭と顔を合わせていなかった。

「父ちゃん、おはよう」

練炭が声を合わせる。

「おう、おはよう」

「どうだった? 水無瀬と会った?」

会えなかったと言うと、練炭が心底残念な顔を作った。

「だが練炭からのプレゼントは置いてきた。 あとは誰にも気付かれず水無瀬君が気付くかどうかなんだがなぁ」

下手を打ったかもしれないという話は我が子には聞かせたくない。

「水無瀬が気付くかどうか?」

「ああ」

「あれに気付かないなんてあるわけない」

「うん、気付かなかったらやっぱり水無瀬はおバカ」

おバカは自分かもしれないと父ちゃんが大きなため息をつく。

「ああそうだ、まさかとは思うが、練炭は水無瀬君からユウヤって人の名前を聞いたことがあるか?」

「うん? あるよ」

二人が声を揃える。

「え?」

まさか、瓢箪から駒か?

「んーっと、お友達だって言ってたよね」

「うん、高校から大学まで一緒だって」

「え?」

「えーっと、戸田雄哉って言ってたと思う」

単なる同名かもしれないが、大学が水無瀬と同じで苗字まで分かった。 調べる価値はある。

「でかした、練炭!」

父ちゃんがその場を立ってすぐに家を出た。

「あれま、味噌汁が冷めるだろうに」

まだ手を付けていない味噌汁を鍋に戻し、ご飯の入った茶碗にはラップをかける。 ご飯はあとでレンチンだ。


ワハハおじさんの運転する車に泉水とナギが乗っている。

「なんでこのペアなんですか」

「だから俺をそこまで毛嫌いすんなって」

「言いたいことはお互い後で言ってくれ」

練炭から話を聞いたワハハおじさんはまずモヤの家を訪ねた。 そこで水無瀬の荷物であるスマホを開こうと思ったのだが、ロックがかかっていて開けることが出来なかった。
ナギには当たり前でしょう、という顔をされ、ましてや人のスマホを勝手に見ようなんてデリカシーに欠けているとまで言われてしまった。

取り敢えずモヤに事情を説明しモヤがそれをキリに言うと、それではこの二人を一度大学に連れて行けとキリに言われたのである。 むろん、ワハハおじさん自身そうするつもりだったが、それは泉水でもナギでもなく新緑だけのつもりだった。 第一に男のことを訊くのに女は必要ないだろうに。 というか、女が水無瀬や戸田雄哉のことを訊くとややこしい話にならないのか? ましてやこのナギ、ベッピンさんである。

「ん?」

そう思うと泉水も男前である。

(要らないことは考えないでおこう)

大学に着いたはいいが、まだ学校は始まっていないようだった。 だが休みと言っても事務所は開いているだろうし、ラフな格好をした数人の学生だろう人物も学内を歩いている。 門には守衛がいるが、そんなことはお構いなしである。 まず門をくぐることなどしないのだから。
学内の様子は分かった、大学の前を通過する。

「このままどこかのパーキングで待っててください」

ナギは事情を既に知っていて泉水は車内で聞いた。 とるべき行動は分かっている。
え? と言ったワハハおじさんがブレーキを踏むと泉水がインナーハンドルを持つ。

「んじゃ、俺は女子な」

「せいぜい頑張ってきて」

「何言ってんだ、ナギは男子だろう」

「おいおい、なんで俺がハブられるんだよ」

「なんで私が男子なのよ」

「学生のことを訊くのにおじさんが訊いてきたら、それって事件性あり? このおじさん刑事? とかってなったら後がややこしいでしょ、就活頑張りたいって言ってた水無瀬君に迷惑がかかるかもしれないです。 ナギ、ここまで来て何言ってんだ、ほら行くぞ」

「もぉー、最悪」

バタンバタンと二枚のドアが閉められた。

「泉水の想像力半端ないな」

ゆっくりとアクセルを踏むとパーキングを探しに出た。 ここに新緑が居れば口ナビがあっただろうに。

学内に入り込んだ泉水とナギ。 学生はそんなにいないがそれでも居ないわけではない。 事務所に訊く前にまずは学生に訊く。

「まぁね、事務所も個人情報を簡単に教えてくれないでしょうし」

「だろうな、おっ、女子見っけ。 んじゃ、ナギは男子の方頼んだ」

泉水の後姿を見ながら「普通男子が男子のことを訊くでしょう」とボヤいてみたものの既に走って行った泉水には聞こえていない。

「ねぇ、君たち」

振り返った二人の女子の目が見開かれる。

「知ってたら教えてほしいんだけど」

辺りを見回していたナギに声がかかった。

「どこの学部の子? 誰か探してるの?」

「ええ、知ってたら教えてほしいんですけど」

身体を少しくねらせると風にワンピース揺れる。 嫌がりながらも準備を怠らなかったナギである。

「知らなくても協力しますっ」

「知ってなくても俺たちが知ってるやつ探す、任せて」

にこりと微笑む泉水とナギに、女子男子それぞれ四人が釣られた。


モヤの家である。

「ってことは、練炭の言っていた戸田雄哉ってのに間違いないってことか」

男子が雄哉のことを知っていてすぐに連絡を取ってくれた。 雄哉の顔の広さがここで発揮されたということである。
ナギに訊かれたことを男子たちが訊くと、今、水無瀬と一緒だと言っていたという。 そして山の中で虫捕りをしているとも。 男子たちがこの時期にどんな虫が捕れるんだよ、と突っ込んでいた。

「はい、高校も一緒だったということは、水無瀬君の行っていた高校は黒門とかけ離れた場所になりますから、黒門の者ではない可能性は高いでしょうね」

なんとか自分のやっちまったことを塗りつぶしたい。 塗りつぶせる可能性にかけたい。

「ですけど親戚が黒門に居て、親戚の協力をしていることも考えられます」

「それか元黒門の村に居て引っ越して出たとかってのもありね」

「おいお前ら、これ以上俺を落ち込ませるなよ」

「まぁ、すべての可能性を頭に入れておく方がいいだろうが、黒門でない可能性50%泉水の言ったこと25%ナギの言ったこと25%ってとこか」

黒門でない可能性が50%と聞いて喜びかけたワハハおじさんだが、最終的に黒門関係者であることも50%である。 戸田雄哉のことを聞くことはできたが、聞く前と何も変わっていないということである。

「まぁ何も分からなかったよりはマシだろ、そう落ち込むな。 二日後に期待しよう」

その二日後。

「ねぇー水無ちゃん、いい加減に機嫌直してよ」

水無瀬はそっぽを向いている。

「もぅ・・・」

安定した生活ができるとか、高給になるはずだとか、少なくとも大学を卒業できるように広瀬に頼むから、と、何を言っても水無瀬はそっぽを向いたままである。
窓の外に広瀬が歩いているのが見えた。

「あ、広瀬さんだ」

ガラリと大きく窓を開け広瀬を呼び止める。

「広瀬さーん」 そういったかと思うと水無瀬に向き直る。

「もう春学期が始まるから俺も大学行きたいし、水無ちゃんのことも交渉してくる。 期待して待ってて」

雄哉がどたばたと部屋を出て行った。 広瀬が色々とお膳立てしてくれていると言っても自力で卒業したいのだろう。

「開けた窓くらい閉めろよ」

だが閉めないのが雄哉である、何故だかクスリと笑ってしまう。

(どっこも変わってないんだよな)

雄哉は雄哉なんだ。
それなのにどうして。
立ち上がり窓に手をかける。 広瀬に駆け寄る雄哉の姿が見える。
見たくない。
窓の桟(さん)に手を置き下を向くと、見慣れたキャラクターの袋が目に入った。
それは二枚の窓の桟の間に仕込まれ、窓を開けることによって下の桟に落ちるようになっていた。

「え・・・」

思わず顔を上げ雄哉の様子を見る、まだ広瀬と話している。 その雄哉がこちらを見て手を振っている。 雄哉に気取られないよう、そっと袋を手の中に入れる。 まだ雄哉は戻ってこないはず、すぐに中を見ようと窓を閉めかけた時、初めてハラカルラで会った白門の男が外に現れた。 『こんにちは、水無瀬君』と声をかけてきた男である。

「水無瀬君まだご機嫌斜めなんだって?」

「あなたに何か言われる謂(いわ)れはありませんから」

「わぁー、キツイなぁ。 ああ、俺は明日から大学院に行くから当分顔を合わせないで済む、それで機嫌を直してくれないか?」

「あなたは行けるのに俺は行けない、それって逆撫ででしょう」

「んー、あれ? そうなるのかな? でもまぁ、俺からの助言としては諦めることだな。 諦めた方が楽しく暮らせる」

「この山ん中で楽しく? それもしたくないことをしながら。 あなたたちは白門としてのプライドはないんですか、ここで生まれ育ったんでしょうが。 守り人が何をするか、門の人間がどうあらねばならないかを分かってるでしょう、代々教えられてきたんじゃないんですか」

「プライドかぁ・・・それって黒門で教えてもらった? 黒門はそんな風に考えてんのか。 まぁ、門それぞれが同じ考えとは限らない、それに時の流れってやつがある、時代に合わせないと置いてかれるだけだぞ」

「あなたに説教される覚えはない!」

バチンと窓を閉めた。 しっかりと鍵もかけてやる。 その鍵をかけようとした時、広瀬と別れてこちらに戻ってくる雄哉の姿が目に入った。

(アイツのせいで見損ねた)

だがここで袋を開けていればモニタリングをされていて、水無瀬が不審な動きをしていると判断されたことだろう。
トイレにでも行って見てみよう。 そのまま廊下に出て行くと丁度雄哉が玄関に入ってきた。

「ん? 水無ちゃんトイレ?」

放っておけ、などというと本当の喧嘩になってしまいそうな気がした、だから無視を決め込む。

「水無ちゃん・・・」

雄哉が広瀬との話がどうだったのか口にしなかった。 それは広瀬が首を縦に振らなかったということだろう。
トイレに入ると手を広げジッパー付きの袋を開ける。 やはり中には見覚えのあるメモが入っていた。 だが内容は練炭からのものではなかった。

『意向を知りたい そこを出る助けが必要か? 返事は下のどちらかを破る、残った方を返事とみる 四日後の夜に回収に来る、同じように窓に挟んでくれ』

そう書かれていて日付とその下に間隔をあけて〇と×が書かれていた。

「え・・・四日後って、今日」

今日が回収日だ。
回収に来る、そして返事はこのメモでする。 ということは手渡しではないということ。 来た時にそれとなく窓から落とすということでもない。

「もしかして・・・雄哉の存在を知ってる?」

返事も書くではない、雄哉がいては返事も書けないし、偶然にも今はトイレでメモ見たが、返事を書くのにペンを持ってトイレに入るのは不自然だ。 雄哉に怪しまれないようにという手段をとっているということだろうか。
助けが必要であるのならば、そのままメモを元の位置に置けばいい。 そして必要でないのならば返事をしなくてもいい、無かったことにすればいいという形をとれるというのに、助けが必要でも必要で無くとも返事を必要としている。 それはこれを雄哉が見たとして勝手に無かったことにされるのを避けたのだろうか。 いや、それなら雄哉は〇を切り取って必要としないとしたかもしれない。

さっきのアイツの言葉が思い出される。 『それって黒門で教えてもらった?』
違う、似ているけど違う。 自分の言いたかったことはそうじゃない。

「そっか・・・」

手元のメモを見て三つほど数えるとビリビリと切り取る。 切り取ったのは小さな紙片である、トイレットペーパに包(くる)んでそのままトイレに流した。


深夜になりワハハおじさんの運転の元、モヤと新緑、シキミと一緒にやって来た。 車は既にパーキングに停めてある。
ワハハおじさんが先頭を切って走り出す。 そのあとに新緑、シキミ、モヤと続く。 今回シキミが参加したのは、もし水無瀬が〇を選んでいたら、一人でも多く水無瀬のいる家の位置を把握しておくためのものであった。 だからと言って大人数で押し掛けるわけにはいかないということで、水無瀬のいる家に近い方を見て回っていたシキミだけの参加となった。

村の中を静かに走っているとやはり前回来た時と同じように、数軒の家の明かりが点いているだけで変わった様子は見られない。
ワハハおじさんの足が止まった。 すぐに全員が足を止めワハハおじさんを見る。 そのワハハおじさんが一軒の家を指さし、手を動かしモニターと示す。 あの明かりの点いている家にモニターがあるということである。
シキミがすぐに走り出すと新緑とモヤも続き全員が窓の下に屈み込む。 ワハハおじさんが辺りに気を配りながら近づいていく。

三人がそっとレースのカーテン越しに中を覗き込むと、四台のモニターが目に入った。 その四台ともが暗い中を映し出していて鮮明ではない。 男二人がソファーにかけている。

「ああ、目が疲れる」

「っとだよ、いつまでこんなことしなくちゃいけないんだよ、夜回りのほうが楽だっての」

「夜回りはどうか分からんけど、あの水無瀬がウンと言うまでだろうな」

何のことだ? 三人が眉間に皺を寄せる。

「あー、疲れた、交代まだかよ」

交代が来るのか、部屋の中は確認できた。 ここはもういいだろう。 振り返ったモヤがワハハおじさんに顎をしゃくる。 水無瀬の居るところへ行くということである。

ワハハおじさんが水無瀬の居る家の窓の下に身を隠す。 やはり素人のすること、窓の桟からこちらにはみ出てジッパー付き袋が顔を出している。 水無瀬もそれを危惧して暗くなってから桟の間に差し込んでいた。
他の三人は家の周囲を見て歩いているが狭い家である、すぐに四人が合流する。 ワハハおじさんが水無瀬からのメモを受け取ったと、袋を軽く上げてみせる。 これで今回の目的は果たせた、長居は無用、引き上げる。