ハラカルラ 第52回

大福りす
『ハラカルラ 目次


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ハラカルラ    第52回




雄哉がピロティで朱門の穴を出たところに座っている。 そこへ青門の守り人が穴から姿を現した。

「お早うございます、わざわざすみません」

「いや・・・話って」

雄哉に腰を上げる様子が見られない。 青門の守り人が歩を出す。 五歩六歩と雄哉に近づいていく。

「お話があるのは俺じゃなくて」

雄哉が青門の守り人を指さしたかと思われたが、その指をほんの少し横にずらした。 どういうことだと顔をしかめた青門の守り人がゆっくりと振り返る。

「く、黒門」

水無瀬は黒烏の文句を後頭部に受けながら、烏たちの居る穴に入って待機をしていた。 そして雄哉の声で見つからないように出てきたということである。 青門の穴に逃げ込まれては追うことが出来ない、そこで水無瀬自身の身体で青門の穴を塞いでいる。

「初めまして青門の守り人さん。 先に言っておきます、俺は黒門ではありません」

「え?」

そんなはずはない、何度か黒門の穴から出てくるのを見た。

「それに今はどこの門でもありません。 ですから逃げないでください」

「どこの門でもないって・・・その、君は優秀なんだろう? 烏から聞いている」

「まぁ、自画自賛するわけではありませんが、そうみたいです」

烏から聞いているのだ、こんな時に謙遜しても何も生まれない。

「だったらどうして」

「色んなことが絡んでしまっていて一言では言えないんですけど、とにかくお話を伺わせていただけませんか?」

青門の守り人は五十代と思われる。 少なくとも六十には手が届いていないだろう。 矢島よりは若いが、水無瀬や雄哉と比べると矢島の方が歳は近い。 矢島はこの青門の守り人と話したことはあるのだろうか。

水無瀬が名乗ると青門の守り人も高崎健吾(たかさきけんご)だと名乗った。
まず最初に青門の守り人が見ていたように、初めの頃は黒門の穴からここに入っていたと説明をしたが、それは決して黒門の人間であったからではないと言った。 そこのところを念押ししなければ、隙を突いて穴に戻るかもしれないからである。
高崎がどうしてだという風に首を傾げる。

「魚に案内されて黒門の穴に入ったんです。 魚が俺を黒門と判断したってところです」

「魚に?」

「それが間違いの始まりだったのかもしれませんが、だからと言って決して魚は間違ってはいません正しい判断でした。 そこのところは烏に確認済みです。 ただ魚と人間との間に認識の違いがあった、人間側にはあっちの世界でそれぞれ背景があったってところでしょうか」

あっちの世界と言われて分からないわけではない。 ハラカルラではなく人間側の世界でそれぞれの事情があったということだろう。

「ですから俺は決して黒門ではないんです」

「じゃあ、どうやってここまで入って来てるんだ?」

ここまで入るにはどこかの門の穴を通らなくてはいけない。 それを勝手に通って来たと言うのだろうか。

「朱門の穴からです。 俺と雄哉は今、朱門の世話になっています。 朱門の許しを得て朱門の穴を使わせてもらっています」

あくまでも今は、と付け加えたかったが、今はまだ要らないことを言わない方がいいだろう。
十秒ほど視線を下げていた高崎だったが、その視線を上げて水無瀬に合わせる。

「分かった。 話を聞こう」

高崎が言うには、水無瀬が思っていたように、青門黒門共にその門の村で生まれていた者は互いの門を意識しているという。 黒門で言うなら千住が言っていた『みんなでオテテを繋いでか? 反吐が出る』というところだろうし、高崎も青門で生まれ育ったということで、黒門を意識して顔を合わせないようにしていたということらしい。

「では黒門の守り人である矢島さんとも話さなかったんですか?」

高崎が水無瀬を避けていたように、矢島が黒門出身ではないということを知らなければ話をしていないはず。

「ああ、矢島さんね。 白門と話しているところを偶然聞いてね、それで彼が黒門の村出身でないことを知って、それからは顔を合わせると少し話をした程度ならある」

「矢島さんは黒門か白門のことで何か言ってませんでしたか?」

「うーん、特に門の話はしてないかなぁ。 守り人としての話くらいで・・・あ、でもそういえば」

ここ、コアで話したわけではなく、ハラカルラの中を歩いている時だったという。 顔色を悪くしていた矢島を見かけ、思わず肩を貸したということであった。 ハラカルラに居る以上はそこで体力が回復するのだが、矢島はそれを選ばなかったという。

「選ばなかった?」

「ああ。 少し歩いたところで矢島さんは岩にもたれたんだけど、どこか楽に座れるところはないかと辺りを見回しているうちに矢島さんは居なくなった」

ダイブをしたということだ。 やはり矢島はダイブを繰り返していたのかもしれない。

「矢島さんはハラカルラ以外で、言ってみれば人間の世界で何をしていたかとか話されていませんでしたか?」

黒門は毎日矢島を穴まで連れて行っていた。 だが烏は毎日来ていなかったと言っていた。 ということは人間の世界に行っていた、若しくは烏の居るところまではいかなかったが、黒の穴の中にいたかもしれないということになる。 だがそうなると烏が黙っていなかっただろう。

「どうだろ、跡を探しているとは聞いたけど、それはどこの守り人も同じだからなぁ。 とくに他には聞かなかったかな」

矢島は白門と黒門から逃げながら跡を探していただけということか。 “だけ” と言っても簡単なことではないと分かっている。

「黒門の先代と先々代の守り人のことは聞きませんでしたか?」

「いや? 何も聞いてないけど」

「そうですか」

「今日、これからどうするんですか?」

いつの間にかやって来ていた雄哉が高崎に問う。

「二人で入るんだよね?」

烏の居る穴に。

「はい」

「それじゃあ、僕は要らないかな」

「そんなこと言わないで一緒にやりましょうよ、せっかくお知り合いになれたんだから。 って、俺なんにもできないけど」

「え?」

「優秀な水無ちゃんとは大違いで」

自虐を言っているのは雄哉だろが、と水無瀬が心の中で言ったのには雄哉は気づいていないだろう。


朱門に指定されたSA近くのファミレスの駐車場に黒門の車が五台停まっている。

「ちっ、いちいち朱門の道案内なんていらないのによ」

黒門は白門に襲撃をかけたくらいである、白門の位置は既に知っていたが長がそれを口に出さなかった。
白門のことを知らぬ存ぜぬで通すつもりであるようだが、それが通じるとは思えない。

駐車場に車が入って来た。 黒門の男たちが入ってきた車を見る。 キツネの面を着けている。 朱門の車だ、すかさず黒門の男たちもカオナシの面を着ける。
カオナシの面を確認した朱門の車から、ついてこいと合図を送られた。

「エラそうに」

一言いった運転手がエンジンをかけた。


朱門黒門それぞれの車二台がパーキングに向かい、残りの六台が白門の村の中に入って行く。 話し合いをするのだ、必要以上の人数で押し掛けるわけにはいかない。
パーキングに停めた車から降りると白門の山の裾で待機する。 何かあればすぐに加勢することが出来るようにである。
村の中に入り面を着けた男たちが次々と降りていく中、白門の村人が集まって来た。

「こちらが白門の村だということは分かっている。 朱門と黒門から話がある。 長は居らんか」

「何を言っているのか訳が分からんが?」

「惚けていても無駄な時間を取るだけ、長は」

「惚けるも何もなんのことだかな。 それに惚けているのはそっちだろう、面など着けてどういう了見だ」

「水無瀬君を逃がしてしまったことは知っている」

水無瀬の名前を出したくはなかったが、そう言わなければ惚けられるだけである。
驚いた顔をする者、口を歪める者、こぶしを握る者、それぞれがそれぞれの反応をしている。 朱門はずっと黒門とやり合ってきた、包帯を巻いているのは黒門にやられた者だろうことは一目瞭然である。

「その水無瀬君から白門が何をしようとしているのかを聞いた。 そのことで話がある。 長は」

白門の前では決して雄哉の名前を出すわけにはいかない。 黒門とてそれを不自然には思っていないはず。 朱門の長は雄哉が水無瀬から聞いたと言っていたのだから。
一人が目配せをすると男が一人走って行く。 その様子を見ていた朱門の長。 あとは待つだけと判断をし口を閉じた。

「長が出てくるようです」

「では降りようか」

朱門に任せっきりになるようでこうはしたくなかったが、初っ端から争いごとになっては車椅子ではどうにもならない。 様子を見てから出るつもりで黒門の長は車の中で待機をしていた。
車から降りガタガタと揺られながら地道を車椅子で移動する。 黒門の長が朱門の長の隣についた時、正面から数人の男たちに囲まれた爺が歩いてくるのが見えた。 その爺が長たちの前に立つ。

「キツネ面は朱門、白い顔の面は黒門、それで間違いないか」

長二人が頷き「朱門長」「黒門長」と自分たちが長であることを口にした。 あくまでも長同士で話し合いたいということである。

「わしは白門長」

一言いった白門の長が二人の長をねめつけるように見ると踵を返す。 ついて来いということである。
一室に通された。 そこは朱門や黒門のような集会場のようなところではなく、六畳ほどの畳部屋が一つの建物であった。 黒門の長には椅子が用意され、建物の外では朱黒白の男たちが控えている。

「ハラカルラに乱れを作る気か」

開口一番、黒門の長が言った。
白門の長の眉がピクリと動く。 呼ばれた時には朱門黒門ともに水無瀬から何もかも聞いていると聞かされていた。 何を言いたいのかは分かっている。 惚(とぼ)けたところで話は収まらないだろう。

黒門の長は面を着けていて明らかではないが、その姿から白門の長とそう歳は変わらないであろう。 そして声の艶からしても朱門の長が一番若いということになる。

「乱れ? 誰もが海産物を食べているだろう、獲っているだろう、それとどう違う」

「ハラカルラがこちらの海や川とは別だと分かっているだろう、そこに生きている魚や貝も」

「黒門の」

白門の長が言い、一つ間を置いて続ける。

「先刻、こちらの村に押し入ったのは黒門か」

「なんのことだ」

白門に押し入った時には面を着けていなかったし、今回は万が一を考えて押し入ったメンバーは外している。 面を取ったとしても白門から見て見覚えのある顔はない。

「シラを切るか。 それとも朱門か」

白門の長がカオナシ面からキツネ面に視線を移す。

「訳の分からん作り話で話を逸らす気か」

作り話と言ってしまえば朱門は何も知らないと言っているようなものだが、それを真に受けるかどうかは分からない。 だがこの話はここまでにしたい。 そうでなければ雄哉の名前が出てくるかもしれない。

「作り話ぃ? 何をっ―――」

「朱門も黒門も必ず面を着ける。 その時、このどちらかの面だったか」

「面は外していた、どこの門か分からんようにだろうが」

「それはあり得ない、黒門の、そちらはどうか」

朱門は何も知らないようであると判断をした黒門の長が朱門の話に乗る。

「あり得んな。 こうして話し合いの場でも着ける。 面は取らん」

「では青門と言いたいのか」

「白門は押し入られたことを言いたいようだが、この場ではそれは二の次。 そのことをはっきりさせたいのであれば、その場を別に設けるが筋というもの」

「村に押し入った門と話など出来んと言っている。 それに水無瀬から聞いたと言っていたそうだが、それはどういうことだ。 水無瀬がどちらかの門に居るということか。 そうであればその門が押し入ったということだろう」

「どちらの門にも水無瀬君は居ない。 黒門の、そちらもそう言い切っていいな」

「無論」

「ではどうして」

「水無瀬君から手紙が送られてきた」

水無瀬は数日朱門に居たと話し、その関係から朱門に告発の手紙を送ってきた。 だがそれだけではなく水無瀬自身が白門に追われている。 姿を現し朱門に迷惑をかけたくないとも書かれていたと朱門の長が言う。
黒門の長が訝(いぶか)しむ顔をしている。 どうして雄哉の名を出さないのか。 そう思うとどうしてここに雄哉を連れてこなかったのか。 雄哉に証言させれば済む話だというのに。 それに手紙の存在など聞いていない。

「こちらが水無瀬を追っていると? 怪しい手紙話だ」

「水見のDNAを追っているそうだな」

白門の長の手がピクリと動く。

「残念ながら手紙であるが為、こちらからの質問は出来ないが色々と書かれていた」

白門の長の顔が歪んでいく。
そんな話など事前に聞かされていなかった黒門の長が朱門の長を見て疑問を呈する。

「水見のDNA? それは何のことだ」

「そこまでは書かれてはいなかった。 水無瀬君と水見という人間は親戚ではないとは書かれていたがな、どういうことか全く分からない。 白門は何を考えている」

あくまでもシラを切り手紙の存在を成り立たせる。

「今はそんな話ではなかろう」

「そう、ハラカルラの話」

白門の長がキツネ面をねめつける。

「嘘八百を並べおって、朱門に水無瀬が居るのだろう。 そうか、全て分かった、押し入ったのも朱門だな」

黒門である可能性の方が高いことは分かっている。 取られた水無瀬を取り返しに白門の村に押し入った、そう考える方が話が成り立つ。

黒門の長が面の下でほくそ笑んでいる。 このまま押し入った疑いが朱門に向けられればいい。

「先ほども言ったが作り話に付き合う気はない。 ハラカルラのことで話し合いたいと言っている」

「こちらも先に言った、押し入った門と話す気などない」

「そうか、穏やかな話にしたかったのだがな、そちらに聞く耳がないのであれば烏に言うまでのこと」

最初は何度でも足を運ぶ気でいたが、この白門の長はまっとうではなさそうである。 足を運ぶだけ無駄なだけである。

烏を巻き込む? そんな話など聞いていない。 それに烏を巻き込んではどういうことになるか分かったものではない。 面の下で黒門の長が驚いた顔をしている。

「烏に? 水無瀬は居ないと言っていた朱門に守り人は居ないのは分かっている、それに黒門にもな。 はったりばかりかましおって、どうやって烏に言うというのか」

驚いてばかりではいられない、話が進んでいく。 鼻で笑うように言う白門の長に向かって黒門の長が口を開く。

「他の門の守り人のことをよく知っているな。 ああそういうことか、うちの守り人を攫ったのは白門だと断言しているのか?」

カオナシの面の下で笑っているのが透けて見えるようだ。 白門の長が顔を歪め、やはり押し入ったのは間違いなく黒門だと断定する。

「あくまでも朱門の守り人ではないが、守り人は朱門に居る。 まだ守り人になったところだが、朱門の穴から入り今日も烏の元に行っている」

朱門の長は朱門の守り人だとは言わなかった。 あくまでも雄哉は今フリーの状態だと言っている。 それを聞いて黒門の長が面の下で口の端を上げる。 それは先刻言っていたことを覆さないということ。

「前代未聞の事態、烏が直接手を入れ門を閉じるか、白門にも獅子が居よう、獅子を動かすかどうするかは烏が決めること。 人間が口を挟める範疇ではない」

「そ、それは・・・」

まさか烏に言うなど、言える状況にあるなどとは思ってもいなかった。 もしそんなことをされて門を閉じられるか獅子によって村が襲われでもしたら。

「白門はハラカルラのことをどう思っている、どう考えている、代々どう聞かされてきた」

烏に言うなどとそんな気はさらさらない。 水無瀬から烏が知ればとんでもないことが起きるかもしれないと聞かされている、単に匂わすだけで良い。 だから話を烏から根本に戻したが白門はどう考えるだろうか。

「お前たちには関係のないこと」

「朱門はハラカルラを守りたいと思っている。 烏に言ったことで朱門も閉められるかもしれんが、それでもいいと思っている。 それでハラカルラを守れるのなら。 黒門の、そちらはどう考える」

まだ白門に口を挟ませない、このままハラカルラへの思いに話を移す。

「朱門の、ハラカルラを守りたいと思っているとは肚に力のないことよ。 黒門はハラカルラを守ると言い切る。 烏もそれを分かろう、それに初代守り人は黒門。 こちらの門が閉められることはない」

「何を勝手なことを」

「勝手? 何を言うか、知っていよう守り人が生まれた順を。 黒青朱白の順。 烏から見て最後の白を切ったとてどうということは無い。 それとも今の場所を変え新たな門を作るかもしれん。 その可能性は大きいか、のぅ、朱門の」

「さぁ、さっきも言ったが烏がどう判断するかは人間の知る範疇ではない」

「烏任せとは朱門は考えが浅いことだ」

話を根本に戻したかった朱門の長だが黒門が烏から離れそうにない。 だがそれは効き目があったかもしれない。 白門の長の顔がだんだんと下がってきている。