国津道  第34回

大福りす
『国津道(くにつみち)』 目次


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- 国津道(くにつみち)-  第34回



曹司と薄(すすき)が社の外に出ていた。 腰付き格子戸の前である。

朱葉姫と曹司、一夜以外の者が社から出るのは滅多にないことである。 薄にしてはこの千年以上の間にこれで二度目ではないだろうか。

一度目は浅香と瀬戸の会話を聞いた曹司が様子をおかしくしていた時だ。 社に戻ることの無かった曹司を心配して薄が社から出てきた時である。
その薄が社の外に出ようと言った。 あまり誰にも聞かれたくない話になるのだろうか。

腰付き格子戸の前に立っていた二人の姿が消えて行くのを、丁度社の中の世界の外から社の中に入ってきた一夜がその姿を見た。

「まぁ、薄が。 珍しいこと」


「どうして花生様のことを訊きたいの?」

社の前から身を隠すように、ほんの三、四歩先を歩いた薄が足を止め、ゆっくりと振り返り訊ねた。

「わたしにはお優しい方でした」

「ええ、そうね。 誰にでもお優しい方だったわ」

今の曹司は二十七歳の頃の姿をしている。 薄は三十五歳ほどの姿。 薄のその姿は朱葉姫が亡くなった時の姿であるが、曹司も同じく朱葉姫が亡くなった時の姿をしていれば、薄と曹司は親子に見えたかもしれない。

だが曹司は朱葉姫が亡くなった頃の姿ではなく、二十七歳の頃の姿をしている。 今はまるで歳の離れた姉弟のように見えるだろう。

「花生様は・・・どうしてこの社に来られなかったのでしょうか」

「それは・・・花生様にしか分からない事ね」

「どんな理由がおありだったか見当はつきませんか? あれほどに朱葉姫を可愛がられていたのですから」

薄が後ろを向いた。 歩を出す気配はない。 歩き進めるのではなく、曹司に背中を向けただけのようだ。

「曹司」

「はい」

「花生様は誰にでもお優しかった。 ・・・一人を除いて」

最後の言葉は小さかった。 曹司に聞かせるように言ったのではなく口の中で呟くように言ったようだった。 だが曹司の耳には届いていた。

「・・・え」

「どうして急に花生様の話を訊きたがるの?」

「あ、いえ、その。 社のことで・・・瀞謝、ええ、瀞謝のことが気になって」

「相変わらず嘘をつくのが下手なのね」

「嘘などと」

薄が曹司に向き直り数歩曹司に近寄る。 その薄の手が曹司の頭の上に伸びる。 手を上に伸ばさなければいけない。

「いつの間にかこんなに大きくなっていたのに、相変わらず嘘をつくのが下手」

曹司の頭を軽く撫でてやる。

「小さな頃からそうだったわ。 つけない嘘をつこうとして民の失敗を隠そうとばかりして」

撫でていた手を下ろした。

「そのような昔の話は・・・」

誰しも小さな頃の話をされるのは気恥ずかしい。 肉体を捨てたとは言え、曹司もまたそうである。

「・・・花生様に、会ったの?」

「あ? え? ・・・あの」

「そう・・・」

曹司の強張った顔が会ったのだと言っている。

「そう・・・、花生様もこの世にいらっしゃるのね」

「あの、決してそのような事は・・・申し上げておりません」

俯いた薄だったが、曹司の言いように暫くして顔を上げた。
曹司、と呼ぶと薄が微笑む。

「朱葉姫様の願いを叶えましょう。 それがわたし達の願いでもあるのですから」

「・・・はい」

薄に話を終わらされてしまった。
薄の言うように、社が朽ちる前に亨と瀞謝は大蛇のことを調べられるだろうか。 そしてその後にどう動くのだろうか。
薄が言った『一人を除いて』 それは誰のことなのか・・・教えてはもらえなかった。

「この場所・・・こんなに寂しくなっていたのね」

人気が無いということもあるが、どこか雑然として寂れた感じがする。 社の中の世界は当時のままの風景を残しているというのに。

「それにお社・・・」

薄が視線を上げたのにつられて曹司も振り仰いで社を見た。
もういつ朽ち果ててもおかしくない。 いや、よくも今までもってくれていたものだ。
朱葉姫が守ってきたこともあるが、朱葉姫にもうその力は残されていない。

「このお社のどこに大蛇が居ると言うのでしょうね・・・。 どうして民はそんなことを信じたのかしら」

曹司が朱葉姫に言った話は一緒に聞いていた一夜から他の者達に伝えられていた。
薄は大蛇や民のことを言っているが、何もりも悲しいのは朱葉姫が民を見られなくなったことを言っているのだろう。

薄の足が社に向いて出された。



電車に揺られて浅香と詩甫が座席に座っている。 もう乗り換えは済んだ。 この電車で浅香と分かれる。 浅香の降りる駅は普通電車しか止まらない。 急行から普通電車に乗り換えていた。

ここまでに詩甫は一言も話さなかった。 急く話ではないが、あまり悠長にも構えていられないのが現実だ。 ましてや二人で会って話を進めて行くのには取れる日が限られている。

何度か浅香から話しかけようとしたが、詩甫が何をどう考えているのかが分からない。 それを聞くためにも話しかけなければいけないということも分かってはいるが、大婆の部屋で涙した詩甫を見てしまっては簡単に話しかけることなど出来ないでいた。

「じゃ、気を付けて帰って下さいね」

浅香の降りる駅のホームに電車が入った。

「あ・・・」

詩甫は全く気付いていないようであった。

浅香のジャケットのポケットの中でバイブの音が聞こえた。 スマホをポケットから取り出すと『瀬戸さん』 と表示されていた。
スマホを持ったままドアの前に立つ。 電車を降りてすぐに出るつもりだ。

「あの、今日は有難うございました」

「今日は一日ゆっくりとしてください」

電車が止まるとドアが開いた。

「じゃ」

ドアから体を出すとすぐにスマホに出る。

「浅香です」

その声がまだ開いているドアの向こうから詩甫の耳に聞こえる。

「え? あ、はい。 じゃ、今すぐ行きます」

ドアが閉まりかけたと思ったら、浅香が身を滑らせて入ってきた。
詩甫がキョトンとして見ている。

「出戻りです」

「え?」

詩甫の座る前に立って吊革を持つと、反対の手でスマホをポケットに戻す。
ドアの閉まる音がするとガタンと電車が走り出す。

「今の電話、瀬戸さんからでした」

「瀬戸さん?」

瀬戸のことは知っている。 会ったことは無いが、瀬戸のお蔭で今日があったのであるし、次へのステップが出来るのでもある。

「ええ、次の駅のカフェで待っているそうです」

次の駅というのは詩甫の降りる駅でもある。

「瀬戸さんにしても大蛇のことが気になっているんでしょう。 今日あちらに寄せてもらうことは連絡していましたから、その報告を聞きたいんでしょうね」

「どうお話しされるんですか?」

大蛇が誰なのかどうして存在したのか。 それをどう話すのか。
大婆の話はそれこそ大昔の話になるが、花生のことは内密にしておきたくて、本家である大婆の家が呪者に言われるがままになったと言っていた。
浅香はそれをどう判断するのだろうか。

「花生のしたことは話せませんね。 今でも長治さんの所ではその昔にあったことを秘密にしたいようですから。 それに今更何を言っても始まりませんし。 ですが何も分からなかったというのは、申し訳ない気がしますし」

瀬戸の話やファイルがあって大婆の家に辿り着いたことは詩甫も分かっている。

「ま、大蛇の話はします」

「どんな風にですか?」

「タクシーの運転手さんの話を頂きましょうか。 朱葉姫があまりにも綺麗だったからそれを妬んだ女が居たとでも」

嘘つきとは言わないが、浅香は話しを立てるのが上手い。 決して誰かを傷つける嘘も言わないであろう。

「あの、お礼を申し上げたいので同席させてもらってもいいですか?」

先ほどまでの考え込むような顔ではない。 少しはショックから立ち直ったのだろうか。 それならこのまま部屋に帰して一人の時間になり、また考え込むようなことをさせるくらいなら疲れていてもカフェで話でもしている方が健康的だろう。

「歓迎します」



カフェのドアを開けると以前に会った時のようなファッションをした瀬戸をすぐに見つけた。
ショート丈のジャケットの下にはハイネックのニット。 ジャケットに色を合わせたカラーのスリムパンツ。 頭の上にハンチング。

瀬戸も浅香をすぐに見つけて片手を上げたが、その手が生命力を失くしたように止まった。 浅香の後ろについてやって来た詩甫を見たからである。
瀬戸が立ち上がり二人を迎える。

「もしかして行った帰りでした?」

浅香から今日、詩甫と一緒に行くと聞いていたからである。

「ええ、丁度部屋に戻ろうと電車を降りたところでご連絡を頂いて、すぐに電車に乗り直しました」

どういう意味なのだろうか、瀬戸が首を傾げる。 その瀬戸が詩甫に向かって視線を向けると僅かに頭を下げる。

「初めましてということにしましょうか。 瀬戸朝霞と申します。 お傷、跡が残らなくて良かったですね」

詩甫にとっては会ってはいたのだろうが、気を失っていたから初めましてだが、瀬戸はしっかりと詩甫を見ていたのだろう。 そして傷というのは顔の傷ということだろう。

「初めまして。 野崎詩甫と申します。 その節はお世話になりました」

あ、そっか。 と浅香が思った。 詩甫は電車の中でお礼を言いたいと言っていた。 それはてっきり今日のことでと思っていたが、そうではなかったようだ。

(結構、野崎さんの心を読めてるつもりだったけど、そうでもなかったか・・・)

「仕事ですから。 座りましょうか」

浅香が詩甫を奥に座らせその隣に座り、二人分のコーヒーを注文した。 瀬戸の前にはレモンの浮いた紅茶が置かれている。

「浅香さんの後輩だとお伺いしましたが。 社サークルの」

「はい」

「少しはお役に立てたでしょうか?」

「少しだなんて。 瀬戸さんのファイルが無ければ何も分からず仕舞いでした。 あの、本当に有難うございました。 どうしてもお礼を申し上げたくて浅香さんについてきてしまいましたけど、ご迷惑ではないでしょうか」

(あ、やっぱり当たってたのか)

「迷惑だなんてとんでもない。 んー、お二人はお付き合いをしてないんですか?」

え? っと浅香と詩甫から声が漏れる。

詩甫を救急車に乗せた時には浅香は詩甫の生年月日すら知らなかった。 その時は付き合ってはいなかったのだろうが、今もなのだろうか。

「いえね、さっき浅香さんが電車を降りようとしていたと仰っていたから」

それがどういう意味なのだろうかと、二人が首を傾げる。

「野崎さんが此処の地域の住人だということは浅香さんから聞いています。 お二人が付き合っているのなら、普通、野崎さんを家まで送るでしょう?」

あ! っと浅香が声を上げる。

「うわぁー、野崎さんすみません。 その、付き合ってる否かにかかわらず、一度も家まで送ったことがありませんでしたぁー」

慌てて詩甫が首を振る。

「そんなことをしてもらっては困ります。 それに夜遅くなった時には送っていただきました」

浅香がまだ嘘をついていた時、残業で遅くなった詩甫を送ったし、初めて朱葉姫に会いに行った時も祐樹の心配をしながら送ってくれた。

「ふむ、充分他人行儀ですね。 じゃ、お付き合いはないということで、僕が野崎さんに目を合わせても浅香さんに怒られるということは無いということで宜しいですか?」

「もちろんです」

少しは戸惑ってくれてもいいのに、と浅香は考えたが、当の詩甫が即答する。

(野崎さん、好きな人が居るのかなぁ・・・)

大婆に触発されたのだろうか、それとも詩甫の手料理を食べたからだろうか、朱葉姫のこととは別にどこかで詩甫のことを気にしている自覚はあった。

「浅香さんも?」

どうして敢えて訊いてくるのだろうか。

(あ、もしかして僕の心読まれてた?)

だが今ここで否とは言えない。 詩甫は是と即答したのだから。

「ええ、そんなことはありませんよ」

にこりと微笑んだ瀬戸が背もたれに背中を預ける。 湯気を上げたコーヒーが運ばれて来たからだった。

「失礼なことを訊いて悪かったですね。 いえね、以前そのパターンでこっぴどく怒られまして」

「目を合わせただけでですか?」

浅香の前をコーヒーカップを持ったウエイトレスの手が詩甫の前まで伸びていく。

「ええ、それも単なる患者の彼氏ですよ? 普通、隊員は患者の目を見て意識の具合を見るでしょう?」

続いて浅香の前にもコーヒーが置かれると、詩甫と同じように浅香が小さく頭を下げる。

「うわっ、信じられませんね。 色んな家族や人間関係には当たりましたが、いや、まだそんなのに当たったことはありません」

「そうそう居てもらっては困りますよ。 殴りかかって来そうになって、他の隊員が止めてくれたりで、その悶着のお蔭で搬送に遅れをとりましたし」

瀬戸は詩甫から見ても男前の部類に入るだろう。 部類に入るどころか先頭に立っていると言ってもいい。 今この服を着ているからモデルにさえ見えるが、救急隊員としての制服を着てマスクをしていても出している目だけでも男前だろう。

患者の彼氏というのは男前の瀬戸に警戒をしたのかもしれない。 いや、殴りかかってきたということは警戒以上だろう。

「それって搬送妨害・・・になるんでしょうか」

浅香と瀬戸は暫く隊員同士の話をしていた。 詩甫にとっては聞くことの無い世界である。 退屈どころか耳を大きくして聞いていた。

「それで、どうでした?」

隊員同士の話が終わり、今日のことを切り出したのは瀬戸の方だった。

「ええ、さっきも野崎さんが仰ってましたけど、瀬戸さんのお蔭でかなり分かりました」

「かなり?」

全てという訳ではないのか。

「お社のことを調べるのに終わりなんてありませんから。 それにあそこのお社はかなり古いものですし」

そういう意味か。 そうだった、この二人は社サークルであったのだった。

「でも瀬戸さんの疑問は解けました」

「あの家が話してくれたということですか?」

背もたれに預けていた背を前に屈める。

浅香が言っていたように、疑問を持ったら突き進むという特殊人物なのだろう。 今は突き進んでいるわけではないが、かなり気にかかっているようだ。

「ええ。 瀬戸さんが持ってらした疑問、どうして大蛇が居て何故とぐろを巻いているのか」

瀬戸が無言で頷く。

「まず第一に、大蛇はお社にとぐろを巻いていません。 とぐろすら巻いていませんし、お社にも居ない。 大蛇が居るのは山です」

瀬戸が深く息を吸い、吐きながら腕を組む。

「第二にどうして大蛇が居るのか」

腕を組んだままの瀬戸が再度頷く。

「大蛇というのはその昔生きていた女性。 朱葉姫の美しさや器量に嫉妬した、とでも言えばいいのでしょうか。 その怨念のようなものがあの山に残っていた。 それがいつの時代からか大蛇の目として言われるようになった。 まぁ、怨念なんて不気味なものですからね、大きな蛇の目として例えたんでしょうね。 そこに不幸が重なった。 それで昔語りとして残っている、ということです」

瀬戸が何度も頷く。 瀬戸とてそれを考えなかったわけではない。 昔話によくあるパターンだ。 だがそんな昔語りが今もなお残ってあの地域の者は山に入りたがらない。

「その怨念というのはまだあの山に残っているということですか?」

「そうだと聞きました」

詩甫が驚いた目をしかけたが、ここで瀬戸に覚られては困る。 浅香が何を考えているのか分からないのだから。

「その女性とは?」

「残念ながらそこまではご存知ないようでした」

「怨念が今も残っているのだとしたら・・・」

チラリと詩甫を見る。

「ああ、野崎さんが落ちたのは違います。 あの日は雨が残って足元がかなり滑りやすくなっていましたから。 僕が気を付けなくちゃいけなかったのに」

「いいえ、私が悪いんです。 浅香さんから足元に気を付けるように言われていたのに」

二人の話に割り込む気はなかったが、この話の流れで黙っていては不自然だろう。

「そうですか・・・。 野崎さんは社まで行かれたのに睨まれることは無かった。 怨念が残っているというのに」

「ええ、それで僕たちが社に行ったことを話しました。 その時には野崎さんには何もなかったと言いましたら、きっとあの地域の人間ではないからだろうと言われました」

「え?」

「怨念っていうのがどういうものなのかは僕には分かりませんが、その女性は朱葉姫の美しさや器量に嫉妬していたわけです。 だがそれだけでは無い、誰もが朱葉姫を愛さなければ、怨念など残さなかったでしょう。 朱葉姫はその地域に住んでいた姫様。 誰からも愛された姫様です。 今の時代のように遠方から朱葉姫を訪ねてくる人は居なかったでしょうから、怨む対象とでも言いましょうか、それは朱葉姫を愛したあの地域の方たち。 そんな風に教えて頂きました」

そういうことか・・・と口の中で言いながら背もたれにもたれると上を向いた。

瀬戸のそんな姿を見ながら、全く浅香という男は、と思った。 練習をしたわけではないし、こうして話すまでに考える時間もなかったはずだ。 それなのに言い淀むことなく、一番大切な真実を言うことなく、だからと言って大きな嘘など言ってもいない。

こんな場面では頼れる相手だが、浮気をしても簡単にかき消してしまうのではなかろうか。 奥さんや彼女は簡単に言いくるめられるのではないだろうか。

「ん? なんですか?」

「あ・・・」

知らない間に浅香を凝視していたようだ。

「いえ、何でもないです」

もうぬるくなってしまっているコーヒー。 今から砂糖を入れても溶けないだろう。 フレッシュだけを入れて一口飲んだ。
豆を挽いたコーヒーに無糖。
苦い・・・。

「ではあの山には、あの地域の者はこれから先も入ることが出来ないということですか?」

上を向いていた顔を戻した瀬戸が言う。
怨念があるのだから。

瀬戸の質問に浅香も詩甫も思い出した。 ファイルに書かれていたことを。

『おれはこの地で生まれ育った。 この地にずっと居たいと思ってる、 でもあのお山には誰も入らない。 入ることを代々許されていない。 社があるのに誰も入ろうとしない』
そのことを言っているのであろう。

「今日の話を聞くまえから野崎さんと話していたんです」

瀬戸が眉を上げて浅香を見てから詩甫を見る。
こちらを見られても浅香が何を言おうとしているのかが分からない。 取り敢えず微笑んでおくしかない。

「僕たち社サークルは色々な社を見ましたけど、あの紅葉姫社はちょっと悲しいなって。 あまりにも寂れているっていうか、人気が無さ過ぎるって言うか」

「そうでしょうね、誰も行かないんですから」

「ですから手を尽くそうかと」

「手を尽くす?」

「ええ、昨日の今日どころか、さっきのさっきその女性の話を聞いたところですから、立ち消えになるかもしれません。 ですがもし、何かの解決策が見つかるようでご協力が欲しいと思いましたら、お手を貸して頂けませんか?」

この二人は色んな社を見てきたのだろう。 そこと比べてあの紅葉姫社がどれだけ寂れているのかを感じたのだろう。 社サークルという珍しいサークルに入っているくらいだ。 社のことを大切に想っているのだろう。

――― 何かが変わるのかもしれない。

有難いことだ。
瀬戸が笑った。 顔だけで。

「喜んで」