--- 映ゆ --- 第118回
『---映ゆ---』 目次
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週末、駅で待ち合わせた。
「渉!?」 久しぶりに見る渉が前にも増して痩せている。 それに顔色も悪い。
「どうしたの!?」
「どうって?」 渉には他から見る程、痩せてしまったということも顔色が悪いということも自覚がない。
「どうって・・・」 カケルが今にも泣きそうな目で渉を見る。
「姉ちゃん、そこんところは静かにしておいてあげようよ。 ね、渉ちゃん神社に行ったらみんなで楽しく食事をしようね。 ほら、電車が来ちゃう」
翼は以前、渉を見ている。 渉の父親に勘違いをされたときである。
確かにあの時は驚いたが、顔にも声にも出さなかった。 だから心配でデートという名目で渉に逢おうとして電話を入れた。 もちろん渉の身体のことが心配であったが、同時にカケルが今日のことで渉を誘うと思ったからだ。 カケルが渉を見る前に渉の具合を確認したかった。 でなければカケルが驚いて心配をし過ぎると思ったからだ。 もし、渉がデートに応じていたら、今日渉をカケルに会わせなかっただろう。
(渉ちゃん・・・どうしちゃったの・・・) 前を歩く小さな渉の背中が痛ましい。
「翔ちゃん有難う。 来てもらえて嬉しいわ。 でも大丈夫?」
何故カケルがずっと神社に来ていないのか、はっきりとした理由は知らないが、奏和からは身体の具合が悪いから実家に帰っていると聞かされている。
「大丈夫です。 ヒマにしてますから」
「具合が悪くなったらいつでも言ってよ」
「はい。 でも、全然平気ですから。 小母さん心配しないで。 結婚式は明日ですよね?」
「ええ」
「じゃ、準備してきます」
「ちょっと休んでからにしましょうよ。 あとで一緒に準備しましょう。 ねっ、渉ちゃんも翼君もまだ来てないんだから。 てっきり一緒に来ると思ってたわ」
「あ、一緒に来たんです。 今は階段の下で二人で話してるみたいです。 私だけ先に階段を上がってきちゃったの」
「え? あら、そうなの? なぁに? あの二人、本格的に?」 雅子が嬉しそうに言う。
「残念ながらまだ翼が一方的にです。 でも、今は違うんです。 小母さん、渉が前に見た時より痩せていますし、顔色もよくないんです」
「え?」
「見て驚かないでください。 渉が傷つくかもしれないから。 私、驚いちゃって翼に注意されちゃったんです」
「やっぱりどこか悪いの?」 前に来た時も会社を休んでいたと、メールが入ってきていたことを思い出す。
「うーん・・・。 本人は至って元気だって言うんですけど・・・。 話していてもどこか悪そうなところがあるわけじゃなさそうですし。 それに渉の小父さん小母さんも毎日一緒にいて渉のことは分かっているでしょうから」
「そうね・・・渉ちゃんは実家暮らしだから、真名さんたちが分かっているはずだものね。 何かあったら病院に行ってるでしょうし」
「翼がみんなで楽しく食事をしようって言ってました。 そしたら少しでも食欲も出るだろうって」
「そうね。 それじゃあ腕を振るわなくっちゃね」
「お手伝いします」
先に階段を上がっていくカケルの後姿を二人で見送った。
「珍しいね。 カケルが翼君と二人っきりにさせるなんて」
「そうだね」
(姉ちゃん、渉ちゃんを見てかなり傷ついてるな。 分からなくもないけど)
「渉ちゃん、大丈夫? 階段上がれる? 俺が抱っこしようか?」
「会社でイヤって言うほど階段を上り下りしてるわ」 翼を見て言う。
「じゃなくて、俺が抱っこしたいんだけど?」 言い方を変えたが、本心はもちろん渉を心配してのことだ。
「もう!」 プクッと頬を膨らますと表情を変えて翼を見た。
「なに? 抱っこ?」
「違う。 ・・・翼君」
「うん? なに?」
「どうして私に優しいの?」
「好きだからじゃん」 腰を折って膝に手をつくと渉の目線に合わせて言った。
「ば・・・バカ。 そうじゃなくて・・・じゃあ、言い方を変える。 どうして好きなの?」
勇気のいる質問だった。 翼が自分のことを好きと認めたことになるから。
渉の質問に翼が両眉を上げた。
「前に言ったじゃん。 姉ちゃんから俺を守ってくれてたって」
「それは小さな頃の話でしょ? それに言ったけど、カケルは翼君を虐めてたわけじゃないって」
「虐めてたよ。 渉ちゃんが守ってくれてた。 今度は俺がありとあらゆるものから渉ちゃんを守るの」
「守るって・・・そんなこと今まで言わなかったじゃない?」
「今までって?」
「小さい頃も言わなかったし、翼君は高校に入って寮生活でしょ? その時も一切連絡とってなかったし、偶然大通りで会ってから連絡とるようになったくらいだし」
「あは。 そう言われればそうだね」
「でしょ?」
「初めて大通りで会った時、渉ちゃんは俺に気付かずに通り過ぎようとしたもんね」
「4年? それくらい会ってなかったんだよ。 それにこんなに変わっちゃって気付くはずないじゃん」
「俺はずっと遠くから歩いてくる渉ちゃんに気付いてたよ」
「私は・・・そんなに背も伸びてなかったし、あんまり変わってないから・・・」
「渉ちゃんも変わってたよ。 おチビには変わりないけど」 茶化すように言う。
「おチビって・・・」 渉が口を尖らせる。
「渉ちゃんスーツ着てお化粧してたんだよ。 薄化粧でもあの頃と全然違ったOLのお姉さんだったんだよ。 渉ちゃんも変わってたよ」 小首を傾げると続けて言う。
「それでも俺は分かったよ」 上目づかいに翼を見ている渉に念を押すかのように言った。
「ホントはね・・・」 渉から目を外して腰を伸ばすと空を見た。
渉がつられて空を見る。
「小さい頃から想ってたことは本当だよ。 でも・・・」 上を見ていた顔を渉に向ける。
「あの大通りで会った時から大人として渉ちゃんのことを考えるようになったの。 久しぶりに二人で神社に来たじゃん?」
「えっと・・・翼君が中学以来きた日?」
「うん。 二人で電車に乗ってバスに乗って。 あの日から渉ちゃんへの想いがどんどん膨らんでいった」
「私が色んな毛をした子たちに絡まれたときの話を聞いて笑ってたじゃない」
「いや・・・さすがにあれはウケたから。 渉ちゃんが無事でいてくれたから言える話なんだろうけどね。 でもね、これだけ白状したんだもん。 これからはウケる話でも渉ちゃんを困らす奴はぶん殴る。 俺が渉ちゃんを守る」
「・・・分かんない。 翼君、彼女も沢山いるのに・・・。 ほら、いつも一緒に歩いてる女の子たちみんな綺麗じゃない?」
「うん、そうだね。 どうしても姉ちゃん見てるから、美人にしか目がいかないけど、それは遊び」
「遊びって・・・」
「大学生だよ。 今遊ばなきゃいつ遊ぶの? 誘ってくるんだもんラッキーじゃん」
「遊び人なんだ」
「まぁね。 美人は好きだよ」
「じゃ、私は論外じゃない」
「渉ちゃんは目の中に入れても痛くないほど可愛いの」 また膝に手を付き渉の顔を覗く。
「それって・・・父親のセリフじゃない?」
「俺は渉ちゃんの男の全部になるの」
「どういうこと?」
「父親、彼氏、兄貴、友達、そして夫」 翼がニコっと笑う。
「なにそれ?」
「誰一人、他の男に介入させない」 さっきと違って真顔になっていう。
「パパが聞いたら怒り出すわ」
「あ・・・小父さんが敵か。 それは厳しいな」 膝から手を離し腰を伸ばした。
「それに兄貴って・・・弟の間違いじゃないの?」 戸籍上の生年月日では翼が年下だ。
「そうだね、弟も含もうか? でも、渉ちゃんって子供じゃない? 兄貴の方が適役だと思うんだけど?」
「子供って・・・んなわけないしっ! 翼君よりお姉さんだしっ!」 ずっと真っ直ぐに立っていたが、片足に体重をかけた。
「そうかなぁ?」
「そうだよ」
翼の言うことが分からない。 言葉の意味は分かる。 でも腹に落ちてこない。 どうして? ずっと小さなころから遊んでいた翼のことなのにどうして分からないの?
シノハのことは言わずともわかるのに。
「渉ちゃん?」 渉の様子がおかしい。
「あ・・・え? なに?」
「大丈夫?」
「うん。 全然大丈夫」
「渉ちゃん、好きに理由なんてないんだよ」 渉が翼を見上げた。
「好きなものは好き。 好きだから守りたい。 大切にしたい。 傷つけない。 誰にも傷つけさせない。 泣かせない。 分かる?」
「泣かせない?」
「うん、そうだよ。 俺は渉ちゃんを泣かせることなんてしない。 誰かが渉ちゃんを泣かせたら俺はそいつをぶん殴りに行く」
「殴る?」
もし、シノハのことがバレたら、シノハが翼に殴られるのだろうか。
「うん。 だって許せないでしょ? 渉ちゃんを泣かすなんて」
「ハハハ、翼君が手を上げるなんてことあるのかなぁ?」 取って付けたような言葉になってしまった。
・・・シノハも翼と同じように考えてくれているのだろうか。 渉が泣いているのをシノハは知っているのだろうか。 うううん、それ以前。 シノハは共に居たいと言ってくれた。 それなのにこけかけた時に手を添えてくれなかった。
「聞いていい?」 今度はもう一方の足に体重をかけた。
「うん。 何でも聞いて」
「先に言っておく。 誘ってっていってるんじゃないよ」
「え!? あらヤだ。 渉ちゃんったら、はしたないことを」
「ば! バカ! そんな意味じゃないよ!」
「あら、残念」 そうは言いながらも顔が笑っている。
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週末、駅で待ち合わせた。
「渉!?」 久しぶりに見る渉が前にも増して痩せている。 それに顔色も悪い。
「どうしたの!?」
「どうって?」 渉には他から見る程、痩せてしまったということも顔色が悪いということも自覚がない。
「どうって・・・」 カケルが今にも泣きそうな目で渉を見る。
「姉ちゃん、そこんところは静かにしておいてあげようよ。 ね、渉ちゃん神社に行ったらみんなで楽しく食事をしようね。 ほら、電車が来ちゃう」
翼は以前、渉を見ている。 渉の父親に勘違いをされたときである。
確かにあの時は驚いたが、顔にも声にも出さなかった。 だから心配でデートという名目で渉に逢おうとして電話を入れた。 もちろん渉の身体のことが心配であったが、同時にカケルが今日のことで渉を誘うと思ったからだ。 カケルが渉を見る前に渉の具合を確認したかった。 でなければカケルが驚いて心配をし過ぎると思ったからだ。 もし、渉がデートに応じていたら、今日渉をカケルに会わせなかっただろう。
(渉ちゃん・・・どうしちゃったの・・・) 前を歩く小さな渉の背中が痛ましい。
「翔ちゃん有難う。 来てもらえて嬉しいわ。 でも大丈夫?」
何故カケルがずっと神社に来ていないのか、はっきりとした理由は知らないが、奏和からは身体の具合が悪いから実家に帰っていると聞かされている。
「大丈夫です。 ヒマにしてますから」
「具合が悪くなったらいつでも言ってよ」
「はい。 でも、全然平気ですから。 小母さん心配しないで。 結婚式は明日ですよね?」
「ええ」
「じゃ、準備してきます」
「ちょっと休んでからにしましょうよ。 あとで一緒に準備しましょう。 ねっ、渉ちゃんも翼君もまだ来てないんだから。 てっきり一緒に来ると思ってたわ」
「あ、一緒に来たんです。 今は階段の下で二人で話してるみたいです。 私だけ先に階段を上がってきちゃったの」
「え? あら、そうなの? なぁに? あの二人、本格的に?」 雅子が嬉しそうに言う。
「残念ながらまだ翼が一方的にです。 でも、今は違うんです。 小母さん、渉が前に見た時より痩せていますし、顔色もよくないんです」
「え?」
「見て驚かないでください。 渉が傷つくかもしれないから。 私、驚いちゃって翼に注意されちゃったんです」
「やっぱりどこか悪いの?」 前に来た時も会社を休んでいたと、メールが入ってきていたことを思い出す。
「うーん・・・。 本人は至って元気だって言うんですけど・・・。 話していてもどこか悪そうなところがあるわけじゃなさそうですし。 それに渉の小父さん小母さんも毎日一緒にいて渉のことは分かっているでしょうから」
「そうね・・・渉ちゃんは実家暮らしだから、真名さんたちが分かっているはずだものね。 何かあったら病院に行ってるでしょうし」
「翼がみんなで楽しく食事をしようって言ってました。 そしたら少しでも食欲も出るだろうって」
「そうね。 それじゃあ腕を振るわなくっちゃね」
「お手伝いします」
先に階段を上がっていくカケルの後姿を二人で見送った。
「珍しいね。 カケルが翼君と二人っきりにさせるなんて」
「そうだね」
(姉ちゃん、渉ちゃんを見てかなり傷ついてるな。 分からなくもないけど)
「渉ちゃん、大丈夫? 階段上がれる? 俺が抱っこしようか?」
「会社でイヤって言うほど階段を上り下りしてるわ」 翼を見て言う。
「じゃなくて、俺が抱っこしたいんだけど?」 言い方を変えたが、本心はもちろん渉を心配してのことだ。
「もう!」 プクッと頬を膨らますと表情を変えて翼を見た。
「なに? 抱っこ?」
「違う。 ・・・翼君」
「うん? なに?」
「どうして私に優しいの?」
「好きだからじゃん」 腰を折って膝に手をつくと渉の目線に合わせて言った。
「ば・・・バカ。 そうじゃなくて・・・じゃあ、言い方を変える。 どうして好きなの?」
勇気のいる質問だった。 翼が自分のことを好きと認めたことになるから。
渉の質問に翼が両眉を上げた。
「前に言ったじゃん。 姉ちゃんから俺を守ってくれてたって」
「それは小さな頃の話でしょ? それに言ったけど、カケルは翼君を虐めてたわけじゃないって」
「虐めてたよ。 渉ちゃんが守ってくれてた。 今度は俺がありとあらゆるものから渉ちゃんを守るの」
「守るって・・・そんなこと今まで言わなかったじゃない?」
「今までって?」
「小さい頃も言わなかったし、翼君は高校に入って寮生活でしょ? その時も一切連絡とってなかったし、偶然大通りで会ってから連絡とるようになったくらいだし」
「あは。 そう言われればそうだね」
「でしょ?」
「初めて大通りで会った時、渉ちゃんは俺に気付かずに通り過ぎようとしたもんね」
「4年? それくらい会ってなかったんだよ。 それにこんなに変わっちゃって気付くはずないじゃん」
「俺はずっと遠くから歩いてくる渉ちゃんに気付いてたよ」
「私は・・・そんなに背も伸びてなかったし、あんまり変わってないから・・・」
「渉ちゃんも変わってたよ。 おチビには変わりないけど」 茶化すように言う。
「おチビって・・・」 渉が口を尖らせる。
「渉ちゃんスーツ着てお化粧してたんだよ。 薄化粧でもあの頃と全然違ったOLのお姉さんだったんだよ。 渉ちゃんも変わってたよ」 小首を傾げると続けて言う。
「それでも俺は分かったよ」 上目づかいに翼を見ている渉に念を押すかのように言った。
「ホントはね・・・」 渉から目を外して腰を伸ばすと空を見た。
渉がつられて空を見る。
「小さい頃から想ってたことは本当だよ。 でも・・・」 上を見ていた顔を渉に向ける。
「あの大通りで会った時から大人として渉ちゃんのことを考えるようになったの。 久しぶりに二人で神社に来たじゃん?」
「えっと・・・翼君が中学以来きた日?」
「うん。 二人で電車に乗ってバスに乗って。 あの日から渉ちゃんへの想いがどんどん膨らんでいった」
「私が色んな毛をした子たちに絡まれたときの話を聞いて笑ってたじゃない」
「いや・・・さすがにあれはウケたから。 渉ちゃんが無事でいてくれたから言える話なんだろうけどね。 でもね、これだけ白状したんだもん。 これからはウケる話でも渉ちゃんを困らす奴はぶん殴る。 俺が渉ちゃんを守る」
「・・・分かんない。 翼君、彼女も沢山いるのに・・・。 ほら、いつも一緒に歩いてる女の子たちみんな綺麗じゃない?」
「うん、そうだね。 どうしても姉ちゃん見てるから、美人にしか目がいかないけど、それは遊び」
「遊びって・・・」
「大学生だよ。 今遊ばなきゃいつ遊ぶの? 誘ってくるんだもんラッキーじゃん」
「遊び人なんだ」
「まぁね。 美人は好きだよ」
「じゃ、私は論外じゃない」
「渉ちゃんは目の中に入れても痛くないほど可愛いの」 また膝に手を付き渉の顔を覗く。
「それって・・・父親のセリフじゃない?」
「俺は渉ちゃんの男の全部になるの」
「どういうこと?」
「父親、彼氏、兄貴、友達、そして夫」 翼がニコっと笑う。
「なにそれ?」
「誰一人、他の男に介入させない」 さっきと違って真顔になっていう。
「パパが聞いたら怒り出すわ」
「あ・・・小父さんが敵か。 それは厳しいな」 膝から手を離し腰を伸ばした。
「それに兄貴って・・・弟の間違いじゃないの?」 戸籍上の生年月日では翼が年下だ。
「そうだね、弟も含もうか? でも、渉ちゃんって子供じゃない? 兄貴の方が適役だと思うんだけど?」
「子供って・・・んなわけないしっ! 翼君よりお姉さんだしっ!」 ずっと真っ直ぐに立っていたが、片足に体重をかけた。
「そうかなぁ?」
「そうだよ」
翼の言うことが分からない。 言葉の意味は分かる。 でも腹に落ちてこない。 どうして? ずっと小さなころから遊んでいた翼のことなのにどうして分からないの?
シノハのことは言わずともわかるのに。
「渉ちゃん?」 渉の様子がおかしい。
「あ・・・え? なに?」
「大丈夫?」
「うん。 全然大丈夫」
「渉ちゃん、好きに理由なんてないんだよ」 渉が翼を見上げた。
「好きなものは好き。 好きだから守りたい。 大切にしたい。 傷つけない。 誰にも傷つけさせない。 泣かせない。 分かる?」
「泣かせない?」
「うん、そうだよ。 俺は渉ちゃんを泣かせることなんてしない。 誰かが渉ちゃんを泣かせたら俺はそいつをぶん殴りに行く」
「殴る?」
もし、シノハのことがバレたら、シノハが翼に殴られるのだろうか。
「うん。 だって許せないでしょ? 渉ちゃんを泣かすなんて」
「ハハハ、翼君が手を上げるなんてことあるのかなぁ?」 取って付けたような言葉になってしまった。
・・・シノハも翼と同じように考えてくれているのだろうか。 渉が泣いているのをシノハは知っているのだろうか。 うううん、それ以前。 シノハは共に居たいと言ってくれた。 それなのにこけかけた時に手を添えてくれなかった。
「聞いていい?」 今度はもう一方の足に体重をかけた。
「うん。 何でも聞いて」
「先に言っておく。 誘ってっていってるんじゃないよ」
「え!? あらヤだ。 渉ちゃんったら、はしたないことを」
「ば! バカ! そんな意味じゃないよ!」
「あら、残念」 そうは言いながらも顔が笑っている。