ハラカルラ 第48回
『ハラカルラ』 目次
『ハラカルラ』 第1回から第40回までの目次は以下の 『ハラカルラ』リンクページ からお願いいたします。
『ハラカルラ』 リンクページ
畑仕事をしながらおっさんたちが話している。
「長の話じゃ、朱門のしたことを許してくれたということだが、結局この先をどうするか水無瀬君はまだ決めていないようだ。 っていうか、長に何も言わなかったらしい」
「そうか・・・」
「まぁそうだろう、朱門に居なくてはならない理由なんてないし、元の生活に戻るに戻れないってとこもあるからな」
「あの戸田君ってのは?」
「戸田君も戻れないだろう、水無瀬君と一緒に逃げたんだから。 それに白門の考えていた話を知っているんだ、白門から追われるだろう」
「ああ、あの話な、とんでもないことを考えやがって」
「若い者たちはその話を知っているのか?」
「ああ、ライが話しただろう」
「そのことで水無瀬君は今日烏に会いに行ったのか?」
「どうだかな。 長も聞いていないと言っていたがな」
「稲也が見てきたアレだってその実験に使うんだろう」
稲也が見たのはバットに入っていたワカメであった。 そしてその白門二人の会話を聞いていたのは茸一郎。
「一郎の話じゃ、白門の在り方に納得をしていない者が居るってことだ、少なくともその時の二人はな」
「水無瀬君の話では白門の誰もがその計画に賛成してるって聞いたらしいがな、雰囲気的に反対出来ないってとこだろうな」
「そういえば朱の守り人はどうした」
「ん? そうであったな、どこへ行った?」
「吾が知るか」
「よっ、お疲れ」
「待たせた」
「だからそんなことは無いって言ってんだろ。 俺のお仕事、お仕事」
「さんきゅ」
「筋肉痛なくなっただろ」
「あ・・・」
昨夜はライの母親が出してくれた湿布を貼りまくって寝たが、到底一日貼ったくらいでは治ることは無かった。
「ハラカルラって凄いな」
ライがチラリと水無瀬を見て相好を崩すと前に向き直る。
「気になることを烏に訊くって言ってたけど、納得できた?」
「あー、うん。 些細なことだったんだけどな、それでもはっきりさせたくて訊いた。 納得は出来たかな」
だが訊たいこと以上の話を烏から聞かされた。 まさか自分が最初の黒の妹と同じ力を持っているなんて考えもしなかった。 烏の話を丸々信じるとは思ってはいないが、白烏が教えてくれたことは特に難しく感じたわけではなかったし、反対にこんな簡単なことと思っていたくらいだ。 信じないわけにはいかない。
「そっか」
「ん? あれ・・・雄哉?」
「ああ、泉水がシキミさんに言われて筋肉痛解除に連れてきた。 戸田どうすんの? 大学」
「俺のせいで巻き込んじゃったからなぁ。 留年されても困るけど、いま戻ったら白門に捕まるだろうし」
「留年って、まだ一年あるだろ。 ん? 単位全然足りないのか?」
「そうみたい」
「ふーん」
その夜。 ライの家に世話になっている水無瀬と雄哉。 昨日は二人ともバタンキューで寝てしまったが、今日は二人ともハラカルラで筋肉痛が取れ体力も戻している。
布団が二枚敷かれていて、その布団にゴロゴロなりながら大学の話をしている。
「え? んじゃ履修提出は既に終わってるってこと?」
白門の村に居た時にはそんなことを言っていなかった。
「あったりまえよ、根回しは完璧に終わらせてからあそこへ行ったからな」
雄哉は日頃から学生だけではなく、教授たちともよく話をしている。 広瀬から聞き出した教授の名前、その教授を知っていたし、反対派閥の教授ともよく話していた。 そこで反対派閥の教授に履修の提出を頼んでおいたということであった。 対抗勢力派閥の教授が何か言ってきても、それを聞かなかったということにしてほしいとも言ったそうであった。 そして『ご内密に』と添えて言ったという。
「んじゃ、一日も早く講義受けなきゃだな」
「うん。 でも現実的にはキツイかなぁ、広瀬さん大学に残るって言ってたから顔も合わすだろうし」
「いや、白門の内情を知ってるんだから、広瀬さんに会う会わないの前に速攻連れ戻される。 だからマンションにも戻れない」
「ちぇー、せっかく先手打ってきたのに。 モテモテは水無ちゃんだけじゃなく俺もかぁ。 ん? 俺は白門ってとこだけか。 やっぱ水無ちゃんだけがモテモテってことか」
大学の話をする前に水無瀬の身に降りかかったことをすべて話した。 その時に雄哉が言ったのが『水無ちゃんモテモテじゃん』だったのであった。
「なぁ、ちょっと相談があるんだけど」
「ん?」
雄哉はハラカルラが見えているかもしれない。 雄哉と水無瀬は同い歳。 ハラカルラの異変は同じ時に感じているということになる。 烏に聞いたところによると異変を感じても開眼する時期は人それぞれだと言っていた。
雄哉に分かるようにハラカルラの異変の話をする。
「ってことは、俺と水無ちゃんが一歳の時と二十一歳の時ってことか」
胡散臭い話と横目で見られるかと思ったが、あっさりと聞いてくれた、信じてくれた。
「雄哉の症状が俺の最初の時と似てるんだ。 光るものが見える感じがしたり、何かが動いていくのが見えたりってしてないか? 俺は最初、目の端に見えてたんだけど」
「あー・・・うーん、そんな感じかなぁ」
「よく考えてくれ、雄哉はハラカルラに行った。 そこと似た感じがしないか?」
「いや、そこま・・・。 あ、もしかして水無ちゃんよく目をこすってたよな、あの時がそれ?」
水無瀬が頷く。
「もし雄哉にハラカルラが見えるんだったら、頼みたいことがある」
見えるだけでは足りないのは分かっている。 それでも可能性にかけてみたい。
「見えなくても頼まれよう」
「いや、まず見えなきゃ頼めない」
「聞くだけ聞かせろ」
翌日も朱門の穴に向かった。 長からは再々反対する声を聞かされたがそれでも試してみたいことがある。
今日はライだけではなく稲也も一緒である。 なぜ稲也が一緒なのか。
「ここ」
穴の前に立った水無瀬が隣に立つ雄哉に言う。 稲也は雄哉の護衛の立場であった。 万が一にも何かあった時、ライ一人で水無瀬と雄哉を守るには負担が大きすぎると長が稲也を付けたのである。
「ふーん、黒門? あそこと随分高さが違うんだ」
「入ると上り坂になってる」
「へー、ま、行こうか」
ライも稲也も水無瀬がどうして雄哉を連れてきたのかは聞かされていない。 水無瀬は何をしようとしているのだろうか。
穴に入ると水無瀬の後に雄哉が続きながら「うす暗~い」などと言っている。
穴を抜け水から出る。 そして烏たちの居るところに続く穴の前までやって来た。
「ここ、この穴がくぐれるかどうかが一番のミソになるんだけど」
「うん? 穴があるんだからくぐれんじゃね?」
水無瀬が先に穴をくぐり振り返って雄哉の様子を見てみると、雄哉の手が止まったままになっている。 まるでそこに見えない壁でもあるかのように。
(くぐれないか・・・)
「うん? 朱だの」
「そのようだな。 お前見てこい、昨日みたいに分からんままじゃ気味が悪い」
「まぁ・・・そうだの」
水無瀬がもう一度穴をくぐり雄哉の隣に立つ。 雄哉が宙で手をペタペタとしている。
「なんか・・・見えない壁でもあるのかな」
「そっか・・・」
そういえば水無瀬も霊を入れられた時、間違って他の穴から帰ろうとして何もないのに壁にぶつかったようになった。 それと同じ感覚なのだろう。
(考え直さなきゃ、か)
その時、羽の音がしたかと思うと黒烏が穴から飛び出してきて地に降り立った。
「んー? なんじゃぁ? 鳴海ぃ?」
「こんにちは烏さん」
「どうして鳴海が朱の穴に居る」
「色々と事情がありまして」
「それにコヤツは見たことがないのぅ、と言っても朱は長く見ておらんがな」
「水無ちゃん、俺の幻聴? 烏が喋ってるみたいなんだけど」
まさか烏が来るとは思ってもいなく、烏の説明はしていなかった。
「いや、それ正しい、幻聴じゃない。 それと烏さんと呼び敬語を使うように」
雄哉が嫌われては困る。
「あーっと、俺の知り合いで戸田雄哉って言います。 開眼をしたはずなんですけど穴を通れなくて」
「うーん?」
烏が雄哉をじっと見る。
「水無ちゃん、どうなってんの?」
「開眼はしきっておらんな」
「しきってない、それはどういうことでしょうか?」
「まだ途中ということじゃ。 なんじゃ、しきっていない者の案内をしてきたということか?」
「そういうわけではないんですけど・・・あの、烏さんから見て開眼をしきった暁には雄哉は穴を通れそうですか?」
「そうじゃなぁ・・・無理」
無理。 完全に否定されてしまった。 いや待て、さっき考え直さなくてはと思ったが根本から変える手もあるではないか。
「烏さんの力をもってしても?」
「何を言うか、わしの力は偉大じゃ」
「では偉大な烏さんの力で通してもらえないでしょうか?」
烏がジロリと水無瀬を見る。
「力はあれど、決められたことを変えるようなことは無い」
「すんごい色々と事情があるんですけど」
「変えん」
「そっかぁ・・・。 変えられませんかぁ。 それなら今後ここに俺が来ることは無くなるかなぁ」
「どういうことじゃ」
「いえ、単にそういうことです」
「昨日も今日も忙しいというのに昨日は昨日で働きもせんと帰るは、今日も今日とて朱の穴に居って今後来られんと言うは、昨日話しただろうが鳴海には力があると。 忘れたのか、ったく何を考えておるのか」
「だからすんごい事情があるんです」
「ほぉー、その事情とやらによっては考えなくもないが?」
「そうですねぇ・・・簡単に言ってしまえばハラカルラを守るため? ってところですか」
「何を言っておるか、鳴海がハラカルラに居って水を宥めておればそれで良い話だろうて」
「いやぁ、雄哉が奥まで入れなきゃ、それが出来なくなったんです」
「ということは、この雄哉というものが完全に開眼するまでは来られんということか? まぁ、完全に開眼しても奥には入れんがな」
「ですよねー、そうなっちゃいますよねー。 だから忙しくされている烏さんには申し訳ないんですけど、早急に雄哉の開眼を促してもらって尚且つ奥まで入れるようにしてほしいんですよねー。 お忙しいんですよねー、それさえしていただければ今日からでもすぐにお手伝いが出来るんですけどねぇー」
「・・・鳴海、わしを脅しておるのか」
「とんでもない、偉大な烏さんのお力添えをいただいてハラカルラを守りたいだけです。 それに脅すわけではありませんが、このままだともっとお忙しくなっちゃいますよ? 今までのお忙しいとは比べ物にならないくらい」
「また人間どもが戦争でもするということか」
「戦争ではありませんけど・・・もっと酷いことになります」
「・・・」
「どうですか? あんまり考えていると待っていらっしゃる烏さんに怒られますよ?」
「アヤツなどどうでもいいわ」
黒烏が大きくため息をつくと嘴(くちばし)を開く。
「仕方あるまい」
「さすがは器の広い烏さん、有難うございます」
「ユウヤと言ったか、ユウヤは穴には入れんのだから、ここに道具を持って来んといかん。 鳴海が運べ」
翌日。 長と水無瀬が向かい合って座っている。 その水無瀬の隣には雄哉が居る。
「ということで、雄哉を黒門に紹介したいと思います」
長が水無瀬から雄哉に目を転じる。
「戸田君、本当にそれで良いのか?」
水無瀬から頼みたいことがあると言われ『聞くだけ聞かせろ』そう雄哉が言った時に聞かされたのがこの話だった。 そして過去の話もその時に聞いた。 聞かなかったのは烏の話だったが、雄哉は水無瀬ほど頭が固いわけではない。 烏を簡単に受け入れ、ましてや奥の穴に入ると白烏と意気投合しすぐに水鏡の説明を受けていた。 だがやはり水無瀬のように簡単には出来なく、烏はスーパー守り人にはしてくれなかったようで、ギリギリ穴をくぐれる程度にしたと言っていた。
「はい、楽しそうですし」
「あ、雄哉は結構柔軟に何でも受け入れられる性格なんです」
「そっ、だから子供が好きなんですよねぇ。 突拍子もないことをしてくれるし、子供と居ると楽しくて仕方がないです。 そう思うとこれも楽しそうだし。 ああ、守り人の仕事って言うんですか?」
「本人も了承しています。 ですのであとは黒門との交渉を長にお願いしたく」
朱門だけで白門と対峙するには心もとない。 少なくとも二つの門で白門を攻めればどうにかなるかもしれないと考えた。 四つある中の門の半分に攻められれば白門とて間違った歩みを一時でも止めるはず。 永久に止めてくれるに越したことはないが、それは不可能な話だろうことは分かっている。 だから永久でなくてもいい。 考える時間、策を講じれる時間を作れるだけでいい。
交渉を長に願うに、黒門への六つの交換条件を提示する。
一つ、黒門は水無瀬から手を引く。
二つ、水無瀬の時のように見張など付けなく、雄哉は週に一度ハラカルラを訪れる。
三つ、黒門の村と雄哉のマンションまでの送迎は黒門がする。
四つ、雄哉を大学に通わせ、その後就職もさせる。
五つ、雄哉に暴力は絶対に振るわない。 拘束もしない。
六つ、白門のことに黒門は朱門と協力し合う。
最後の六つ目が無ければ、雄哉は朱門の守り人になればいいと思っていた長だが、それは悪い言い方をすれば雄哉を人身御供として黒門に差し出し、白門の暴走を止める為の協力を得る策を講じているということ。
「白門は俺にこだわっていますけど黒門はそうではありません。 それに俺が黒門に行くより雄哉の方が黒門に合ってると思うんです」
黒門には直感型の雄哉の方が合っている。
「水無ちゃんはすぐに要らないことを色々考えるからな。 ちゃんと黒門ってところの話は水無ちゃんから聞きました。 水無ちゃんじゃ荷が重いと思います」
「重いって・・・そこまで言わなくてもいいだろ」
「いや、そうだろ。 いちいち人が何を考えてるかとかって考えるだろが。 必要以上に」
「まぁ・・・な」
「やったことをやり直すだけならまだいいけど、考えすぎて馬鹿みたいに後悔するし。 後悔するくらいなら初めからやんなきゃいいのに」
「分かった、分かったからそれ以上言わないでくれ」
雄哉にはあったことをすべて話した。 勿論、水無瀬がライに言ったことも。
「ご協力していただけるのであれば、すぐにでも雄哉を大学に戻したいんです。 一日でも早く黒門に交渉していただけないでしょうか」
ライから黒門の村の位置は把握していると聞いている。 村を特定するに時間は必要ない。
「協力などと。 白門を止めなくてはならないのは各門がしなくてはならないこと。 逆に協力してくれているのは水無瀬君と戸田君じゃないか」
稲也からの報告は聞いている。 あくまで推測の域だがワカメを使って実験をしている可能性がある。 魚たちと違って逃げることの出来ない貝や藻をこれ以上獲らせるわけにはいかない、このままにしておくわけにはいかない。 水無瀬の言うように一日でも早く白門を止めなくては。
そしてハラカルラに手を出させない為にということは勿論だが、水無瀬と雄哉がどうにも動けないという事態を解除しなければ。 この二人を巻き込んでしまったのだからその責任は取らなければ。
「いいえ、そんなことはありません。 白門から助けていただきましたし、俺もハラカルラを守りたいですから」
翌日。 おっさんや爺と話し合った長と共に、雄哉とおっさんたちが車五台に乗り込み村を出発した。 水無瀬の消息は今はまだ曖昧にしておきたいと留守番をすることにした。 白門のことを考えると雄哉も水無瀬と同じ危険性をはらんではいるが、黒門を説得するに雄哉の存在を見せなくてはならない為、雄哉だけは連れて行ってもらった。
水無瀬の話からすると、朱門の話す白門の話を信じさえすれば黒門は必ずハラカルラを守るということであったが、まずそう簡単にその話を信じないだろう。 だが雄哉の存在を見せればこちらの本気度が伝わるはずである。 守り人を差し出すのだから。
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ハラカルラ 第48回
畑仕事をしながらおっさんたちが話している。
「長の話じゃ、朱門のしたことを許してくれたということだが、結局この先をどうするか水無瀬君はまだ決めていないようだ。 っていうか、長に何も言わなかったらしい」
「そうか・・・」
「まぁそうだろう、朱門に居なくてはならない理由なんてないし、元の生活に戻るに戻れないってとこもあるからな」
「あの戸田君ってのは?」
「戸田君も戻れないだろう、水無瀬君と一緒に逃げたんだから。 それに白門の考えていた話を知っているんだ、白門から追われるだろう」
「ああ、あの話な、とんでもないことを考えやがって」
「若い者たちはその話を知っているのか?」
「ああ、ライが話しただろう」
「そのことで水無瀬君は今日烏に会いに行ったのか?」
「どうだかな。 長も聞いていないと言っていたがな」
「稲也が見てきたアレだってその実験に使うんだろう」
稲也が見たのはバットに入っていたワカメであった。 そしてその白門二人の会話を聞いていたのは茸一郎。
「一郎の話じゃ、白門の在り方に納得をしていない者が居るってことだ、少なくともその時の二人はな」
「水無瀬君の話では白門の誰もがその計画に賛成してるって聞いたらしいがな、雰囲気的に反対出来ないってとこだろうな」
「そういえば朱の守り人はどうした」
「ん? そうであったな、どこへ行った?」
「吾が知るか」
「よっ、お疲れ」
「待たせた」
「だからそんなことは無いって言ってんだろ。 俺のお仕事、お仕事」
「さんきゅ」
「筋肉痛なくなっただろ」
「あ・・・」
昨夜はライの母親が出してくれた湿布を貼りまくって寝たが、到底一日貼ったくらいでは治ることは無かった。
「ハラカルラって凄いな」
ライがチラリと水無瀬を見て相好を崩すと前に向き直る。
「気になることを烏に訊くって言ってたけど、納得できた?」
「あー、うん。 些細なことだったんだけどな、それでもはっきりさせたくて訊いた。 納得は出来たかな」
だが訊たいこと以上の話を烏から聞かされた。 まさか自分が最初の黒の妹と同じ力を持っているなんて考えもしなかった。 烏の話を丸々信じるとは思ってはいないが、白烏が教えてくれたことは特に難しく感じたわけではなかったし、反対にこんな簡単なことと思っていたくらいだ。 信じないわけにはいかない。
「そっか」
「ん? あれ・・・雄哉?」
「ああ、泉水がシキミさんに言われて筋肉痛解除に連れてきた。 戸田どうすんの? 大学」
「俺のせいで巻き込んじゃったからなぁ。 留年されても困るけど、いま戻ったら白門に捕まるだろうし」
「留年って、まだ一年あるだろ。 ん? 単位全然足りないのか?」
「そうみたい」
「ふーん」
その夜。 ライの家に世話になっている水無瀬と雄哉。 昨日は二人ともバタンキューで寝てしまったが、今日は二人ともハラカルラで筋肉痛が取れ体力も戻している。
布団が二枚敷かれていて、その布団にゴロゴロなりながら大学の話をしている。
「え? んじゃ履修提出は既に終わってるってこと?」
白門の村に居た時にはそんなことを言っていなかった。
「あったりまえよ、根回しは完璧に終わらせてからあそこへ行ったからな」
雄哉は日頃から学生だけではなく、教授たちともよく話をしている。 広瀬から聞き出した教授の名前、その教授を知っていたし、反対派閥の教授ともよく話していた。 そこで反対派閥の教授に履修の提出を頼んでおいたということであった。 対抗勢力派閥の教授が何か言ってきても、それを聞かなかったということにしてほしいとも言ったそうであった。 そして『ご内密に』と添えて言ったという。
「んじゃ、一日も早く講義受けなきゃだな」
「うん。 でも現実的にはキツイかなぁ、広瀬さん大学に残るって言ってたから顔も合わすだろうし」
「いや、白門の内情を知ってるんだから、広瀬さんに会う会わないの前に速攻連れ戻される。 だからマンションにも戻れない」
「ちぇー、せっかく先手打ってきたのに。 モテモテは水無ちゃんだけじゃなく俺もかぁ。 ん? 俺は白門ってとこだけか。 やっぱ水無ちゃんだけがモテモテってことか」
大学の話をする前に水無瀬の身に降りかかったことをすべて話した。 その時に雄哉が言ったのが『水無ちゃんモテモテじゃん』だったのであった。
「なぁ、ちょっと相談があるんだけど」
「ん?」
雄哉はハラカルラが見えているかもしれない。 雄哉と水無瀬は同い歳。 ハラカルラの異変は同じ時に感じているということになる。 烏に聞いたところによると異変を感じても開眼する時期は人それぞれだと言っていた。
雄哉に分かるようにハラカルラの異変の話をする。
「ってことは、俺と水無ちゃんが一歳の時と二十一歳の時ってことか」
胡散臭い話と横目で見られるかと思ったが、あっさりと聞いてくれた、信じてくれた。
「雄哉の症状が俺の最初の時と似てるんだ。 光るものが見える感じがしたり、何かが動いていくのが見えたりってしてないか? 俺は最初、目の端に見えてたんだけど」
「あー・・・うーん、そんな感じかなぁ」
「よく考えてくれ、雄哉はハラカルラに行った。 そこと似た感じがしないか?」
「いや、そこま・・・。 あ、もしかして水無ちゃんよく目をこすってたよな、あの時がそれ?」
水無瀬が頷く。
「もし雄哉にハラカルラが見えるんだったら、頼みたいことがある」
見えるだけでは足りないのは分かっている。 それでも可能性にかけてみたい。
「見えなくても頼まれよう」
「いや、まず見えなきゃ頼めない」
「聞くだけ聞かせろ」
翌日も朱門の穴に向かった。 長からは再々反対する声を聞かされたがそれでも試してみたいことがある。
今日はライだけではなく稲也も一緒である。 なぜ稲也が一緒なのか。
「ここ」
穴の前に立った水無瀬が隣に立つ雄哉に言う。 稲也は雄哉の護衛の立場であった。 万が一にも何かあった時、ライ一人で水無瀬と雄哉を守るには負担が大きすぎると長が稲也を付けたのである。
「ふーん、黒門? あそこと随分高さが違うんだ」
「入ると上り坂になってる」
「へー、ま、行こうか」
ライも稲也も水無瀬がどうして雄哉を連れてきたのかは聞かされていない。 水無瀬は何をしようとしているのだろうか。
穴に入ると水無瀬の後に雄哉が続きながら「うす暗~い」などと言っている。
穴を抜け水から出る。 そして烏たちの居るところに続く穴の前までやって来た。
「ここ、この穴がくぐれるかどうかが一番のミソになるんだけど」
「うん? 穴があるんだからくぐれんじゃね?」
水無瀬が先に穴をくぐり振り返って雄哉の様子を見てみると、雄哉の手が止まったままになっている。 まるでそこに見えない壁でもあるかのように。
(くぐれないか・・・)
「うん? 朱だの」
「そのようだな。 お前見てこい、昨日みたいに分からんままじゃ気味が悪い」
「まぁ・・・そうだの」
水無瀬がもう一度穴をくぐり雄哉の隣に立つ。 雄哉が宙で手をペタペタとしている。
「なんか・・・見えない壁でもあるのかな」
「そっか・・・」
そういえば水無瀬も霊を入れられた時、間違って他の穴から帰ろうとして何もないのに壁にぶつかったようになった。 それと同じ感覚なのだろう。
(考え直さなきゃ、か)
その時、羽の音がしたかと思うと黒烏が穴から飛び出してきて地に降り立った。
「んー? なんじゃぁ? 鳴海ぃ?」
「こんにちは烏さん」
「どうして鳴海が朱の穴に居る」
「色々と事情がありまして」
「それにコヤツは見たことがないのぅ、と言っても朱は長く見ておらんがな」
「水無ちゃん、俺の幻聴? 烏が喋ってるみたいなんだけど」
まさか烏が来るとは思ってもいなく、烏の説明はしていなかった。
「いや、それ正しい、幻聴じゃない。 それと烏さんと呼び敬語を使うように」
雄哉が嫌われては困る。
「あーっと、俺の知り合いで戸田雄哉って言います。 開眼をしたはずなんですけど穴を通れなくて」
「うーん?」
烏が雄哉をじっと見る。
「水無ちゃん、どうなってんの?」
「開眼はしきっておらんな」
「しきってない、それはどういうことでしょうか?」
「まだ途中ということじゃ。 なんじゃ、しきっていない者の案内をしてきたということか?」
「そういうわけではないんですけど・・・あの、烏さんから見て開眼をしきった暁には雄哉は穴を通れそうですか?」
「そうじゃなぁ・・・無理」
無理。 完全に否定されてしまった。 いや待て、さっき考え直さなくてはと思ったが根本から変える手もあるではないか。
「烏さんの力をもってしても?」
「何を言うか、わしの力は偉大じゃ」
「では偉大な烏さんの力で通してもらえないでしょうか?」
烏がジロリと水無瀬を見る。
「力はあれど、決められたことを変えるようなことは無い」
「すんごい色々と事情があるんですけど」
「変えん」
「そっかぁ・・・。 変えられませんかぁ。 それなら今後ここに俺が来ることは無くなるかなぁ」
「どういうことじゃ」
「いえ、単にそういうことです」
「昨日も今日も忙しいというのに昨日は昨日で働きもせんと帰るは、今日も今日とて朱の穴に居って今後来られんと言うは、昨日話しただろうが鳴海には力があると。 忘れたのか、ったく何を考えておるのか」
「だからすんごい事情があるんです」
「ほぉー、その事情とやらによっては考えなくもないが?」
「そうですねぇ・・・簡単に言ってしまえばハラカルラを守るため? ってところですか」
「何を言っておるか、鳴海がハラカルラに居って水を宥めておればそれで良い話だろうて」
「いやぁ、雄哉が奥まで入れなきゃ、それが出来なくなったんです」
「ということは、この雄哉というものが完全に開眼するまでは来られんということか? まぁ、完全に開眼しても奥には入れんがな」
「ですよねー、そうなっちゃいますよねー。 だから忙しくされている烏さんには申し訳ないんですけど、早急に雄哉の開眼を促してもらって尚且つ奥まで入れるようにしてほしいんですよねー。 お忙しいんですよねー、それさえしていただければ今日からでもすぐにお手伝いが出来るんですけどねぇー」
「・・・鳴海、わしを脅しておるのか」
「とんでもない、偉大な烏さんのお力添えをいただいてハラカルラを守りたいだけです。 それに脅すわけではありませんが、このままだともっとお忙しくなっちゃいますよ? 今までのお忙しいとは比べ物にならないくらい」
「また人間どもが戦争でもするということか」
「戦争ではありませんけど・・・もっと酷いことになります」
「・・・」
「どうですか? あんまり考えていると待っていらっしゃる烏さんに怒られますよ?」
「アヤツなどどうでもいいわ」
黒烏が大きくため息をつくと嘴(くちばし)を開く。
「仕方あるまい」
「さすがは器の広い烏さん、有難うございます」
「ユウヤと言ったか、ユウヤは穴には入れんのだから、ここに道具を持って来んといかん。 鳴海が運べ」
翌日。 長と水無瀬が向かい合って座っている。 その水無瀬の隣には雄哉が居る。
「ということで、雄哉を黒門に紹介したいと思います」
長が水無瀬から雄哉に目を転じる。
「戸田君、本当にそれで良いのか?」
水無瀬から頼みたいことがあると言われ『聞くだけ聞かせろ』そう雄哉が言った時に聞かされたのがこの話だった。 そして過去の話もその時に聞いた。 聞かなかったのは烏の話だったが、雄哉は水無瀬ほど頭が固いわけではない。 烏を簡単に受け入れ、ましてや奥の穴に入ると白烏と意気投合しすぐに水鏡の説明を受けていた。 だがやはり水無瀬のように簡単には出来なく、烏はスーパー守り人にはしてくれなかったようで、ギリギリ穴をくぐれる程度にしたと言っていた。
「はい、楽しそうですし」
「あ、雄哉は結構柔軟に何でも受け入れられる性格なんです」
「そっ、だから子供が好きなんですよねぇ。 突拍子もないことをしてくれるし、子供と居ると楽しくて仕方がないです。 そう思うとこれも楽しそうだし。 ああ、守り人の仕事って言うんですか?」
「本人も了承しています。 ですのであとは黒門との交渉を長にお願いしたく」
朱門だけで白門と対峙するには心もとない。 少なくとも二つの門で白門を攻めればどうにかなるかもしれないと考えた。 四つある中の門の半分に攻められれば白門とて間違った歩みを一時でも止めるはず。 永久に止めてくれるに越したことはないが、それは不可能な話だろうことは分かっている。 だから永久でなくてもいい。 考える時間、策を講じれる時間を作れるだけでいい。
交渉を長に願うに、黒門への六つの交換条件を提示する。
一つ、黒門は水無瀬から手を引く。
二つ、水無瀬の時のように見張など付けなく、雄哉は週に一度ハラカルラを訪れる。
三つ、黒門の村と雄哉のマンションまでの送迎は黒門がする。
四つ、雄哉を大学に通わせ、その後就職もさせる。
五つ、雄哉に暴力は絶対に振るわない。 拘束もしない。
六つ、白門のことに黒門は朱門と協力し合う。
最後の六つ目が無ければ、雄哉は朱門の守り人になればいいと思っていた長だが、それは悪い言い方をすれば雄哉を人身御供として黒門に差し出し、白門の暴走を止める為の協力を得る策を講じているということ。
「白門は俺にこだわっていますけど黒門はそうではありません。 それに俺が黒門に行くより雄哉の方が黒門に合ってると思うんです」
黒門には直感型の雄哉の方が合っている。
「水無ちゃんはすぐに要らないことを色々考えるからな。 ちゃんと黒門ってところの話は水無ちゃんから聞きました。 水無ちゃんじゃ荷が重いと思います」
「重いって・・・そこまで言わなくてもいいだろ」
「いや、そうだろ。 いちいち人が何を考えてるかとかって考えるだろが。 必要以上に」
「まぁ・・・な」
「やったことをやり直すだけならまだいいけど、考えすぎて馬鹿みたいに後悔するし。 後悔するくらいなら初めからやんなきゃいいのに」
「分かった、分かったからそれ以上言わないでくれ」
雄哉にはあったことをすべて話した。 勿論、水無瀬がライに言ったことも。
「ご協力していただけるのであれば、すぐにでも雄哉を大学に戻したいんです。 一日でも早く黒門に交渉していただけないでしょうか」
ライから黒門の村の位置は把握していると聞いている。 村を特定するに時間は必要ない。
「協力などと。 白門を止めなくてはならないのは各門がしなくてはならないこと。 逆に協力してくれているのは水無瀬君と戸田君じゃないか」
稲也からの報告は聞いている。 あくまで推測の域だがワカメを使って実験をしている可能性がある。 魚たちと違って逃げることの出来ない貝や藻をこれ以上獲らせるわけにはいかない、このままにしておくわけにはいかない。 水無瀬の言うように一日でも早く白門を止めなくては。
そしてハラカルラに手を出させない為にということは勿論だが、水無瀬と雄哉がどうにも動けないという事態を解除しなければ。 この二人を巻き込んでしまったのだからその責任は取らなければ。
「いいえ、そんなことはありません。 白門から助けていただきましたし、俺もハラカルラを守りたいですから」
翌日。 おっさんや爺と話し合った長と共に、雄哉とおっさんたちが車五台に乗り込み村を出発した。 水無瀬の消息は今はまだ曖昧にしておきたいと留守番をすることにした。 白門のことを考えると雄哉も水無瀬と同じ危険性をはらんではいるが、黒門を説得するに雄哉の存在を見せなくてはならない為、雄哉だけは連れて行ってもらった。
水無瀬の話からすると、朱門の話す白門の話を信じさえすれば黒門は必ずハラカルラを守るということであったが、まずそう簡単にその話を信じないだろう。 だが雄哉の存在を見せればこちらの本気度が伝わるはずである。 守り人を差し出すのだから。