僕と僕の母様 第56回

日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように
僕と僕の母様 第56回
僕達は演奏が終わると ゾロゾロと席を立ち 重い防音扉の外に出ていった。
「ロビーの方に行こう」 先生が言う。
みんなシーンとしている 電車の中での遠足気分は どこに行ったのだろう。 ただ足音だけが聞こえる。
ロビーに集合すると
「いいか、しっかりと音を合わせていくんだぞ」 そう言った先生の声に続いて 部長が言う。
「き、きょ、・・・今日までの練習の成果を ここで・・・ここで出すんだ」 声が引っくり返っている 相当緊張しているようだ。
それから暫らく みんなでロビーに座っていた。 ふと気づくと 先生は知らない間に どこかに消えていた。
顔が強ばるとよく言うが 多分僕の今の顔は その言葉以上だろう。
そして顔だけではない 指もずっと強ばった感じで 動かしづらい。
ピアノの発表会も 同じ大きさの会場でやってきたが あの時は 指が強ばった感じがするというのではなく 緊張から指先が冷たく ずっと震えていた。 足も震えていて ペダルを踏む足が ペダルを上手く踏めない。 そんな感じだった。
何がどう違うから 緊張の感じ方が違うのかは分からない。 でも緊張している事に 違いはないようだ。
いらないことばかり考えている。
「よし、リハーサル室に移動だ」 先生がそう言って やってきた。
リハーサル室・・・そんな所があるんだ。
みんなでゾロゾロと 移動を始めた。 立派なリハーサル室だ。 みんなそれぞれに 楽器を出し始めた。 それを見て僕もあわてて サックスを出した。
「音、合わせるぞ」 部長が言う。
みんな無言だ。 音に集中しなくちゃ。 音を合わせる。
「まだ次って言う訳じゃないから 焦らなくて良いぞ。 焦らなくて良いから しっかり合わせろよ」 そう言われても そう言う部長自身が かなり焦ってるから こっちにまで焦りが伝わってくる。
チューニングが一通り終わった。
そうなると みんな少しでも 自分の苦手なフレーズを 練習したく思っているようで それぞれが色んな所を吹き出した。
僕も最初から吹いていく。 ある程度して
「それじゃあ、曲、始めるぞ」 先生が言った。
通しをするのだ。
隣にいる クラリネット先輩と目を合わせる。 アイコンタクトのようなものだ。
先生の持つ タクトを見て そして通しが始まった。
何回かやって 何とか最後までミスなく 吹き通せたような気がするが 実際はどんな音を出していたのかは 僕自身分からない。
耳が聞こえなくなったのかと思うほど サックス君の音が聞こえないのだ。
曲が終わっても みんな何も話さない。 それどころか またまた自分の苦手なところを 吹き始めている。
僕も慌てて 何処からでもいい、何でもいいから サックス君の音を聞けるように 吹き始めた。
そして少したって先生が「そろそろ良いか? 気が済んだか?」 そう聞いてきた。
まだ少し決心が付かないけれども といった感じで 口々にボソッと「はい」 と答えている。
「よし、じゃあ そうだな もう少し待ってたら 呼ばれるだろうから それまで控え室で待ってろ」 そう言って先生が消えていった。
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