僕と僕の母様 第57回

日の元 大和の民が 一つの大きな和になりますように
僕と僕の母様 第57回
控え室に入って これから始まるって時に こんな事を聞いても良いのかな と思いながら 同級生フルートの横に座って 聞いてみた。
「さっきの色んな学校の演奏聞いて どう思った?」
「ああ・・・凄かったよね。 うちなんかとは 全然比較にならないって感じ。 まるで雲泥の差だよね」
「そうだよね・・・違いすぎるよね・・・ねぇ、これから演奏する勇気ある?」
「はぁ? 何言ってんの?」 さっきより 少し声が大きくなってます。
「イヤ、しない なんて言ってないよ。 ただあの演奏を聴いて 自分たちの演奏が・・・ね・・・」
「だから言ったじゃない、楽しむのが 第一なんだって。 男でしょ! 自分のしてきた練習の成果を みんなに聞いてもらうだけで良いのよ。 なーにビビってんのよ」 すごく大きな声です。 みんなに丸聞こえだ。
「何? 陵也君これから演奏だっていうのに お説教されてるわけ?」 近くに座っていた 先輩フルートが聞いてきた。
「お説教じゃないですよ。 陵也君が ビビったみたいなこと言うから・・・」 声が小さくなった。
「何? ビビってんの?」 先輩が僕の方を 覗き込んで聞いてきた。
「ビビってません」 先輩の方を向かず、まっすぐに前を向いて言った。
「ふーん」 フルート二人が声を合わせて言う。 こんな時に ハモらなくてもいいだろう っていう感じでだ。
「ビビってないんだ。 私の勘違いなんだ。 ふーん、そうなんだ」 少し喧嘩腰だ。
僕は喧嘩をしたいわけじゃない。 取りあえず謝ろう。 不本意でも謝る事は 母様に鍛えられている。
「ビビってないよ。・・・ごめん変なこと聞いて」
「謝んなくて良いよ。 こっちこそ大きな声出してごめん」 まだ少し言葉がトゲトゲしい。
「謝んなくて良いよ。 それに大きな声出させたの 僕だから」 わざと 同級生フルートの言葉を 繰り返して言ってみた。
するとそれがウケたようで クスっと笑いながら
「よし、忘れよう、忘れよう、もう目の前まで 来てるんだから。 やろう!」 ご機嫌が直ったみたいだ。 無駄に母様に 鍛えられている訳では なかったようだ。 それに僕も 開き直ることが出来た。
「そうだよね、やるっきゃないだったよね」 開き直る切っ掛けをくれた 同級生フルートに 感謝を込めてそう言った。
「そうそう、やるっきゃない! よ」
「あら、仲直りしたの?」 ずっと様子を見ていた 先輩フルートが言う。
「もともと、ずーっと仲良しです。 ね、陵也君」 ずっと黙っていた 他の先輩達の クスッという笑い声が聞こえた。
「はい」 何で僕はここで「はい」 なんだ・・・。
この一件で 僕の強ばった顔や、指が直ってきた。
勿論外から色んな音はするけど 誰も何も言わない ここだけの静かな時間が流れていた。
どれ位経っただろう。 僕の中で全くという程 時間の感覚というものが 無くなってしまっていた。
静かな時間を感じて いい意味での時間が 無くなっていればいいのだが 今はいい意味ではない。
早く時間が過ぎればいい、時間が来なければいい 相矛盾した時間のことばかりを 考えていたから 時間を考えることによって 時間の感覚が無くなってしまったのだ。
控え室のドアを バンと開けて 先生が顔だけを覗かせて「おーい、みんなこっちに来い。 移動だ」 そう言った。
僕と同級生フルートは お互い目を合わせた。 勿論 言葉は無い。
先生の誘導で 僕達がステージの裾の方に向かって 廊下を歩いていくと 受付のように机が置いてあり そこに一人の女の人がいた。 係りの人だろう。
先生がその係りの人の方に歩いて行った。
「えーっと、次の次の出場校ですね ナンバーが・・・」 プリントを見ながら 係りの人が先生に確認をとっている。
「それでは このままここでお待ち下さい。 今演奏の学校が終わったら ステージ横に入って 待機して下さい」
みんな無言だ。 当たり前か。 こんなところで喧嘩や、遠足まがいなんかしたら 即刻退場だろう。
演奏が聞こえる。
耳を澄まして 目をつむって聞き入る。
相変わらずどこの学校も上手い。 そして長い演奏が続き やっと終わったようだ。
大きな拍手が聞こえる。
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