虚空の辰刻(とき) 第98回
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訊きたい事というのが、トウオウからの質問である北の領土のことであろうとなかろうと、トウオウは答えてくれるはず。
「ア、アマフウさん・・・」
「へっ!?」
どんな質問にも答える気でいたが、それにしてもアマフウの事? 思わず間の抜けた声が出ても仕方がない。
「アマフウが? なに?」
組んでいた足を解いて両肘をテーブルに乗せ手の指を組むと、その上に顎を乗せた。
「ア・・・アマフウさんはどうして・・・じゃない、アマフウさんって気に入らなければすぐに切るって・・・あっちに居る時に、ヒオオカミが現れればその身を二つに切るだろうなとか、それまでにも馬とか野犬とか切ったって・・・」
「それが何?」
「・・・それって本当なんですか?」
「ふぅーん、オレが嘘を言ってるってか?」
組まれた手の上に乗っていた顎を傾げる。
「いえ! 決してそういう意味じゃなくて・・・あの、セキちゃんが・・・」
「セキ?」
「はい、その・・・」
「どうしてここでセキの名前が出てくるのかな?」
「え? トウオウさんはセキちゃんを知っているんですか?」
「勿論。 領土の人間だからな、知ってるよ。 ついでにアマフウもね」
「え? アマフウさんはセキちゃんのことをよく知らないみたいだったけど・・・」
「そんなことはないだろ。 セキが小さい時に野犬に喰われそうになったのを助けたのはアマフウなんだから」
「え?」
「その時に野犬を切った。 その血を浴びてしまったセキの身体をすぐに洗ったのもアマフウだし。 まぁ、そのお蔭でっていうか・・・アマフウが冷血漢の鬼のように言われるようになったんだけどな」
「セキちゃんを助けたのに?」
「うー・・・ん。 人それぞれなんだろうね。 ほら、シユラ様は今の話を聞いてアマフウのことを冷血漢の鬼とは思わなかったから、そうやって言うんだろ? まぁ、現場に居合わせたかどうかで違ってくるのかもしれないけど。 ほら、狩りって男が行くだろ? それは分かるよな?」
「バカにしてます?」
「してない、してない」
組んでいた手を解くと片手を軽く振って続ける。
「じゃさ、そう考えると分かんない?」
紫揺が首を傾げるのを見て小さく笑う。
「女が見るのは狩りをしてきた後の血抜きをされた息のない動かない鳥だったり獣だったりだろ?」
トウオウが何を言いたいのかまだ分からず、返事の代わりにコクリと小さく頷くだけ。
「さっきセキが小さな時だって言っただろ? ってことは、女たちが周りにいた。 どんな年齢層が居たかまではオレも知らないけど、野犬に襲われるってことは外に居るわけだよな。
北の領土の中心では女たちが外仕事をしている時は、こっちで言う小学校低学年くらいが小さな子の面倒を女たちの近くでまとめて見てるんだ。
その輪からセキが離れたのかどうかまでは知らないけど、目の前で獣が真っ二つになるところを見てごらんよ、どう思うか分かるだろ? 女たちも子供たちも男たちが狩りをしてきた動かない生き物しか見ないんだから、それに真っ二つになんてなってないし、血を出し切って蔵物も出してある。 それだけでも刺激が大きいのに、それだけじゃなく、獣そっちのけでセキを抱えて井戸まで洗いに行ったんだから、冷血漢と思われても仕方がない」
にわかに納得できないが、これ以上、贓物とか真っ二つとか聞きたくない。 犬のことは分かったことにする。
「じゃ・・・馬の時は?」
「馬? ああ、あの時は放牧されてた馬が何か良からぬものを食べたみたいだったんだ。 それを偶然見ていたアマフウがその馬を注視してたら、馬が暴れ出して馬番を蹴りそうになったから切った」
「良からぬもの?」
「うん、外に出てないんだったら分からないだろうけど、あっちって色んな茸や草が生えてんだよね。 こっちで言うところのいい気持にさせるものとか、凶暴にさせるものとか色々。 ヤクってやつの元ね。 馬にも影響を与える草もあるわけ」
「・・・」
「他に訊きたいことは?」
「・・・」
「無ければ話を戻していい?」
「・・・アマフウさんは」
「うん?」
「誤解を受けているんですか?」
「誤解? 誰から?」
「少なくともセキちゃんから」
それどころではない。 五色も北の領土の人々から誤解を受けているのではないだろうか。
「うーん、ま、あんなアマフウだからね。 誤解も本当だったりするんじゃないか? それにあったことは一つでも、理解する人の数だけ事は運ばれるだろ? 二人が同じものを見ても理解の仕方で、ことは二つに分かれるだろ? それが極端だったら正反対に理解される」
そういう事じゃない? と、首を傾げながら眉を上げる。
「納得できません」
「そう言われてもなぁ」
「アマフウさんはそれでいいんですか?」
「いいんじゃないか? いいから放っているっていうか。 そうだな、少なくとも今はいいんだと思うよ。 アマフウが分かっていて欲しいって人間は分かってるから」
「トウオウさんだけじゃなくて?」
「ここじゃ、セノギもアマフウのことを分かってるよ」
「え? でもアマフウさんが外に居るとセキちゃんに動かないようにって、角を曲がるとアマフウさんが居るからジッとしているようにって・・・」
セキからそう聞いた。
「ああ、あれはアマフウが居る自体を言ってるんじゃなくて、どっちかって言えばセイハだよ」
「え?」
「セイハがアマフウにちょっかいをかけてくるから、それに巻き込まれないようにってこと」
「え?」
「ついでに言うと、アマフウが必要以上にセキにキツク言うだろ? 目の前に出るなとか。 あれってセキに甘く言うと、セキがセイハに必要以上にやられることを懸念してるわけ」
言ってから、これからのことを思うと言い過ぎたかと思った。 失敗した。 アマフウから言われた増えた願い事を潰してしまうかもしれない。
「それじゃ! 余計にセキちゃんの誤解を!」
今にも席を立ち上がろうとする勢いで言うのを、背もたれにもたれながらトウオウが応える。
「いいんだよ。 いつかは分かる事かもしれないし、分からないかもしれないけどアマフウがそれでいいんだから」
あ、これも失敗かと、言葉を継ぎ足した。
「それにさ、あんなアマフウだろ? いつヘソを曲げるかわかりゃしないしね。 そこんところもセノギは分かってるからじゃない?」
「そう言われれば分からなくもないですけど」
心当たりが無いわけではない。 だがそんなことを聞けば、アマフウはいきり立つだろう。
「なに? アマフウのことがそんなに心配なの?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「あら、残念」
おちょくるように言うと腕を組み、最初と同じように足を組んだ。
「他に質問は?」
「・・・今のところは」
急に言われて思い出すことも難しい。 宿題じゃないけど、いついつ質問を受け付けますから、それまでに質問をまとめておくこと。 などと先触れを出していて欲しかった。
「んじゃ、オレの話していいかな?」
「・・・はい」
何を言われるのだろうと、眉根が寄る。 それを見たトウオウが薄く笑うと一呼吸置き、さっきまでと声音を変えて口を動かした。
「単刀直入に言う」
異なる双眸が紫揺を捉える。
「シユラ様、まだ自分の力を分かってない?」
「え?」
「今日も花を咲かせたよな?」
「え、だって・・・それは―――」
単刀直入とは言われたが、余りにも唐突な話。
「シユラ様が咲かせたんだよ。 花を咲かせたのは、今回だけじゃないのは分かってるよな?」
その問いにハッキリと言い返せない。 枯れた色の芝生が緑を増したり、花を咲くところを少なくとも二度は見たのだから。
「・・・花が咲いたところは見ましたけど、私が咲かせたとは限りません」
「シユラ様が咲かせたんだよ。 それはね、シユラ様の青の力なんだ」
「青の力?」
何のこと?
「アマフウって、白目じゃないだろ? 白目が青だろ? それと、セイハの瞳が青だろ? セイハが風を操れるのも、アマフウが破壊を操ることも、その青の力があるから。 そしてシユラ様も同じ青の力を持っている。 青だけじゃないんだけどな」
何を突然に言うのか? たしかに、再度思うが単刀直入とは聞いた。 だが意味が全く分からない。 前置きか何かをしてもらいたい。
「待って下さい。 意味が全然分かりません。 何の話ですか?」
「シユラ様が花を咲かせたって話」
「私がそれをしたっていうんですか?」
「そう。 だからこうして話に来てる」
「それって有り得ないんですけど・・・」
次の言葉が出てこない。
「有り得なくってなに?」
「いえ・・・」
トウオウの言うことを否定したい。 だからまずトウオウの話す事を飲もう。 そして否定しよう。
「もし、もしその青っていう力で私が花を咲かせたならば、同じ青の力を持つセイハさんの風を操れるとか、アマフウさんの破壊とかとはかけ離れています」
「青の力はね春なんだよ。 春であり雷であり風であり破壊である。 ね? セイハは青の力で風を操ることが出来る。 アマフウは雷も風も破壊も操ることが出来る。
ちなみに言うとアマフウの瞳は黒だ。 黒の力は冬であり水を操ることが出来る。 シユラ様の今の瞳と同じだね。
話を戻すよ。 セイハやアマフウと違って、シユラ様の青の力は春を持っているって分かる?」
「・・・分かりません」
「強情だね」
「私にそんな力なんてないんですから」
「さっき、単刀直入に言うって言ったよな?」
「はい」
「シユラ様には力があるんだよ。 シユラ様にはオレ達五色を・・・五人を合わせた力を持ってるんだよ」
「は!?」
セイハと表現は違うが、同じことを言っているのだろう。
セイハは
『自分に力があるのを認めないってことよね? 言い変えれば自分の力を認めたってことよね?』
セイハだけならず、アマフウにも似たことを言われていた。
「どうしてそうなるの・・・」
何度も否定していた思いながらも、セイハの言葉が頭に浮かぶ。
『 「シユラは・・・理解できないかもしれないけど、シユラはムラサキなの。 あ、シユラはシユラよ。 でもね、ムラサキの血を引いているの。 ムラサキの力をね」
「シユラの知らない血がムラサキにはあるの。 シユラが理解できないことがあるかもしれないけど、それはムラサキの血のなせる業。 それは・・・ムラサキが受け継ぐ者に伝えなければいけなかったんだけどね」 』
そう言っていた。
セイハの言ったことを信じるわけでもないし、信じたいわけでもない。 だが、ここにきてトウオウも同じようなことを言う。
「シユラ様に力の有ることを自覚してもらわなくっちゃ困るんだけど?」
「・・・前にもそんなことを言われましたよね」
「うん。 言ったよ。 困るから」
「もし私に力があるとして、どうしてトウオウさんが困るんですか?」
「だよね。 そう思うよね。 でもよく考えてみろよ。 他から見て芝生しかなかったところに花が咲くって、当たり前?」
「・・・あ」
「さっきまで枯れた芝生だったのが緑を取り戻すって、どう?」
「・・・でも」
「でもじゃないよ。 芝生しかない所に花を咲かせたのも、枯れていた芝生を青々とさせたのもシユラ様の力だよ。 春の力を使ったんだよ」
「そんなことを言われても・・・」
「今のシユラ様は自分では分からないって言いたいよな。 でもこれは間違いなくシユラ様の力。 そしてさっき言った青の力は春だけじゃない。 雷であり風であり破壊である。 覚えてる?」
「・・・はい」
「シユラ様はその力を持ってるんだよ。 自分で制御できなきゃ、後々困ることは目に見えてる。 春の力で花を咲かせて人を癒すはいいよ。 その種明かしをしてほしいと言われても、何なりと考えられるだろう。 でも雷と風は違う。 分かる?」
「・・・」
「シユラ様から発せられる破壊がシユラ様の自覚なしにアチコチで力を発せられたら、一番に困るのはシユラ様でしょ?」
誰もから 『自覚』 と言われたのがコレかと、今更にして分かった。 が、分かりたくない。
「・・・トウオウさんの言うそれって、私の事じゃない―――」
「シユラ様のことだよ」
「・・・どうしてそんなことを言うんですか・・・」
トウオウになら訊ける。
「シユラ様、シユラ様はまだ未開なんだよ。 でも、シユラ様にはオレ達五人の力がシユラ様一人の力にあるんだよ」
「・・・そんなことって。 ・・・ない! 絶対ない!」
「言い切れる?」
紫揺が頭を下げる。
「花を咲かせたよね・・・心当たりがあるだろ?」
「でも!―――」
「シユラ様。 諦めようよ。 オレたちの運命としようよ。 ね、心当たりがあるならハッキリ言って欲しい。 その対処をしなくちゃ・・・力の使い方を覚えなくちゃ、北の領土以外では生きていけないよ」
「え?」
「力の使い方も勿論だけど、一番に自覚を持ってほしい。 でなきゃ、これからシユラ様の周りで起こることは自分には関係ないと思ってしまうかもしれない。
シユラ様が誰かに怒ってカッとした時、その人に雷が落ちたらどうする? 自覚が無いと自分のせいではない。 自然現象だからで終らせるだろ。
誰かがカマイタチのような傷を負った。 へぇー、カマイタチって本当にあるんだ。 って、それでいいのか? それは全部シユラ様の力なんだよ。 シユラ様がやったことなんだよ」
「・・・有り得ない」
「有り得るんだよ。 シユラ様の力を自覚してほしい」
「・・・」
「まずは実践してみないか?」
「・・・?」
「春の力は充分に見ただろうから、一番分かりやすい赤の力を試してみないか?」
「・・・赤の力って?」
「アマフウの袂を燃やしただろ? あれだよ」
「・・・私じゃない」
「んじゃ、やってみて出来なければシユラ様に力がないとしよう。 どう? 挑戦してみる? シユラ様に力がないとオレに証明してくれる?」
「・・・今ですか?」
「今すぐ」
「どうやって?」
「あの時と同じシチュエーションが良いな」
「どういうことですか?」
「おあつらえ向きに、此処に来る前にアマフウがあの使用人を睨みつけてた。 虫の居所が悪いみたいだね」
さっきは言い過ぎた。 その事に気付いて話に乗ってこないかもしれないが、アマフウと段取りをつけた以上は言ってみるしかない。
「えっ!?」
「洗濯女の子供・・・セキ」
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訊きたい事というのが、トウオウからの質問である北の領土のことであろうとなかろうと、トウオウは答えてくれるはず。
「ア、アマフウさん・・・」
「へっ!?」
どんな質問にも答える気でいたが、それにしてもアマフウの事? 思わず間の抜けた声が出ても仕方がない。
「アマフウが? なに?」
組んでいた足を解いて両肘をテーブルに乗せ手の指を組むと、その上に顎を乗せた。
「ア・・・アマフウさんはどうして・・・じゃない、アマフウさんって気に入らなければすぐに切るって・・・あっちに居る時に、ヒオオカミが現れればその身を二つに切るだろうなとか、それまでにも馬とか野犬とか切ったって・・・」
「それが何?」
「・・・それって本当なんですか?」
「ふぅーん、オレが嘘を言ってるってか?」
組まれた手の上に乗っていた顎を傾げる。
「いえ! 決してそういう意味じゃなくて・・・あの、セキちゃんが・・・」
「セキ?」
「はい、その・・・」
「どうしてここでセキの名前が出てくるのかな?」
「え? トウオウさんはセキちゃんを知っているんですか?」
「勿論。 領土の人間だからな、知ってるよ。 ついでにアマフウもね」
「え? アマフウさんはセキちゃんのことをよく知らないみたいだったけど・・・」
「そんなことはないだろ。 セキが小さい時に野犬に喰われそうになったのを助けたのはアマフウなんだから」
「え?」
「その時に野犬を切った。 その血を浴びてしまったセキの身体をすぐに洗ったのもアマフウだし。 まぁ、そのお蔭でっていうか・・・アマフウが冷血漢の鬼のように言われるようになったんだけどな」
「セキちゃんを助けたのに?」
「うー・・・ん。 人それぞれなんだろうね。 ほら、シユラ様は今の話を聞いてアマフウのことを冷血漢の鬼とは思わなかったから、そうやって言うんだろ? まぁ、現場に居合わせたかどうかで違ってくるのかもしれないけど。 ほら、狩りって男が行くだろ? それは分かるよな?」
「バカにしてます?」
「してない、してない」
組んでいた手を解くと片手を軽く振って続ける。
「じゃさ、そう考えると分かんない?」
紫揺が首を傾げるのを見て小さく笑う。
「女が見るのは狩りをしてきた後の血抜きをされた息のない動かない鳥だったり獣だったりだろ?」
トウオウが何を言いたいのかまだ分からず、返事の代わりにコクリと小さく頷くだけ。
「さっきセキが小さな時だって言っただろ? ってことは、女たちが周りにいた。 どんな年齢層が居たかまではオレも知らないけど、野犬に襲われるってことは外に居るわけだよな。
北の領土の中心では女たちが外仕事をしている時は、こっちで言う小学校低学年くらいが小さな子の面倒を女たちの近くでまとめて見てるんだ。
その輪からセキが離れたのかどうかまでは知らないけど、目の前で獣が真っ二つになるところを見てごらんよ、どう思うか分かるだろ? 女たちも子供たちも男たちが狩りをしてきた動かない生き物しか見ないんだから、それに真っ二つになんてなってないし、血を出し切って蔵物も出してある。 それだけでも刺激が大きいのに、それだけじゃなく、獣そっちのけでセキを抱えて井戸まで洗いに行ったんだから、冷血漢と思われても仕方がない」
にわかに納得できないが、これ以上、贓物とか真っ二つとか聞きたくない。 犬のことは分かったことにする。
「じゃ・・・馬の時は?」
「馬? ああ、あの時は放牧されてた馬が何か良からぬものを食べたみたいだったんだ。 それを偶然見ていたアマフウがその馬を注視してたら、馬が暴れ出して馬番を蹴りそうになったから切った」
「良からぬもの?」
「うん、外に出てないんだったら分からないだろうけど、あっちって色んな茸や草が生えてんだよね。 こっちで言うところのいい気持にさせるものとか、凶暴にさせるものとか色々。 ヤクってやつの元ね。 馬にも影響を与える草もあるわけ」
「・・・」
「他に訊きたいことは?」
「・・・」
「無ければ話を戻していい?」
「・・・アマフウさんは」
「うん?」
「誤解を受けているんですか?」
「誤解? 誰から?」
「少なくともセキちゃんから」
それどころではない。 五色も北の領土の人々から誤解を受けているのではないだろうか。
「うーん、ま、あんなアマフウだからね。 誤解も本当だったりするんじゃないか? それにあったことは一つでも、理解する人の数だけ事は運ばれるだろ? 二人が同じものを見ても理解の仕方で、ことは二つに分かれるだろ? それが極端だったら正反対に理解される」
そういう事じゃない? と、首を傾げながら眉を上げる。
「納得できません」
「そう言われてもなぁ」
「アマフウさんはそれでいいんですか?」
「いいんじゃないか? いいから放っているっていうか。 そうだな、少なくとも今はいいんだと思うよ。 アマフウが分かっていて欲しいって人間は分かってるから」
「トウオウさんだけじゃなくて?」
「ここじゃ、セノギもアマフウのことを分かってるよ」
「え? でもアマフウさんが外に居るとセキちゃんに動かないようにって、角を曲がるとアマフウさんが居るからジッとしているようにって・・・」
セキからそう聞いた。
「ああ、あれはアマフウが居る自体を言ってるんじゃなくて、どっちかって言えばセイハだよ」
「え?」
「セイハがアマフウにちょっかいをかけてくるから、それに巻き込まれないようにってこと」
「え?」
「ついでに言うと、アマフウが必要以上にセキにキツク言うだろ? 目の前に出るなとか。 あれってセキに甘く言うと、セキがセイハに必要以上にやられることを懸念してるわけ」
言ってから、これからのことを思うと言い過ぎたかと思った。 失敗した。 アマフウから言われた増えた願い事を潰してしまうかもしれない。
「それじゃ! 余計にセキちゃんの誤解を!」
今にも席を立ち上がろうとする勢いで言うのを、背もたれにもたれながらトウオウが応える。
「いいんだよ。 いつかは分かる事かもしれないし、分からないかもしれないけどアマフウがそれでいいんだから」
あ、これも失敗かと、言葉を継ぎ足した。
「それにさ、あんなアマフウだろ? いつヘソを曲げるかわかりゃしないしね。 そこんところもセノギは分かってるからじゃない?」
「そう言われれば分からなくもないですけど」
心当たりが無いわけではない。 だがそんなことを聞けば、アマフウはいきり立つだろう。
「なに? アマフウのことがそんなに心配なの?」
「いえ、そういうわけでは・・・」
「あら、残念」
おちょくるように言うと腕を組み、最初と同じように足を組んだ。
「他に質問は?」
「・・・今のところは」
急に言われて思い出すことも難しい。 宿題じゃないけど、いついつ質問を受け付けますから、それまでに質問をまとめておくこと。 などと先触れを出していて欲しかった。
「んじゃ、オレの話していいかな?」
「・・・はい」
何を言われるのだろうと、眉根が寄る。 それを見たトウオウが薄く笑うと一呼吸置き、さっきまでと声音を変えて口を動かした。
「単刀直入に言う」
異なる双眸が紫揺を捉える。
「シユラ様、まだ自分の力を分かってない?」
「え?」
「今日も花を咲かせたよな?」
「え、だって・・・それは―――」
単刀直入とは言われたが、余りにも唐突な話。
「シユラ様が咲かせたんだよ。 花を咲かせたのは、今回だけじゃないのは分かってるよな?」
その問いにハッキリと言い返せない。 枯れた色の芝生が緑を増したり、花を咲くところを少なくとも二度は見たのだから。
「・・・花が咲いたところは見ましたけど、私が咲かせたとは限りません」
「シユラ様が咲かせたんだよ。 それはね、シユラ様の青の力なんだ」
「青の力?」
何のこと?
「アマフウって、白目じゃないだろ? 白目が青だろ? それと、セイハの瞳が青だろ? セイハが風を操れるのも、アマフウが破壊を操ることも、その青の力があるから。 そしてシユラ様も同じ青の力を持っている。 青だけじゃないんだけどな」
何を突然に言うのか? たしかに、再度思うが単刀直入とは聞いた。 だが意味が全く分からない。 前置きか何かをしてもらいたい。
「待って下さい。 意味が全然分かりません。 何の話ですか?」
「シユラ様が花を咲かせたって話」
「私がそれをしたっていうんですか?」
「そう。 だからこうして話に来てる」
「それって有り得ないんですけど・・・」
次の言葉が出てこない。
「有り得なくってなに?」
「いえ・・・」
トウオウの言うことを否定したい。 だからまずトウオウの話す事を飲もう。 そして否定しよう。
「もし、もしその青っていう力で私が花を咲かせたならば、同じ青の力を持つセイハさんの風を操れるとか、アマフウさんの破壊とかとはかけ離れています」
「青の力はね春なんだよ。 春であり雷であり風であり破壊である。 ね? セイハは青の力で風を操ることが出来る。 アマフウは雷も風も破壊も操ることが出来る。
ちなみに言うとアマフウの瞳は黒だ。 黒の力は冬であり水を操ることが出来る。 シユラ様の今の瞳と同じだね。
話を戻すよ。 セイハやアマフウと違って、シユラ様の青の力は春を持っているって分かる?」
「・・・分かりません」
「強情だね」
「私にそんな力なんてないんですから」
「さっき、単刀直入に言うって言ったよな?」
「はい」
「シユラ様には力があるんだよ。 シユラ様にはオレ達五色を・・・五人を合わせた力を持ってるんだよ」
「は!?」
セイハと表現は違うが、同じことを言っているのだろう。
セイハは
『自分に力があるのを認めないってことよね? 言い変えれば自分の力を認めたってことよね?』
セイハだけならず、アマフウにも似たことを言われていた。
「どうしてそうなるの・・・」
何度も否定していた思いながらも、セイハの言葉が頭に浮かぶ。
『 「シユラは・・・理解できないかもしれないけど、シユラはムラサキなの。 あ、シユラはシユラよ。 でもね、ムラサキの血を引いているの。 ムラサキの力をね」
「シユラの知らない血がムラサキにはあるの。 シユラが理解できないことがあるかもしれないけど、それはムラサキの血のなせる業。 それは・・・ムラサキが受け継ぐ者に伝えなければいけなかったんだけどね」 』
そう言っていた。
セイハの言ったことを信じるわけでもないし、信じたいわけでもない。 だが、ここにきてトウオウも同じようなことを言う。
「シユラ様に力の有ることを自覚してもらわなくっちゃ困るんだけど?」
「・・・前にもそんなことを言われましたよね」
「うん。 言ったよ。 困るから」
「もし私に力があるとして、どうしてトウオウさんが困るんですか?」
「だよね。 そう思うよね。 でもよく考えてみろよ。 他から見て芝生しかなかったところに花が咲くって、当たり前?」
「・・・あ」
「さっきまで枯れた芝生だったのが緑を取り戻すって、どう?」
「・・・でも」
「でもじゃないよ。 芝生しかない所に花を咲かせたのも、枯れていた芝生を青々とさせたのもシユラ様の力だよ。 春の力を使ったんだよ」
「そんなことを言われても・・・」
「今のシユラ様は自分では分からないって言いたいよな。 でもこれは間違いなくシユラ様の力。 そしてさっき言った青の力は春だけじゃない。 雷であり風であり破壊である。 覚えてる?」
「・・・はい」
「シユラ様はその力を持ってるんだよ。 自分で制御できなきゃ、後々困ることは目に見えてる。 春の力で花を咲かせて人を癒すはいいよ。 その種明かしをしてほしいと言われても、何なりと考えられるだろう。 でも雷と風は違う。 分かる?」
「・・・」
「シユラ様から発せられる破壊がシユラ様の自覚なしにアチコチで力を発せられたら、一番に困るのはシユラ様でしょ?」
誰もから 『自覚』 と言われたのがコレかと、今更にして分かった。 が、分かりたくない。
「・・・トウオウさんの言うそれって、私の事じゃない―――」
「シユラ様のことだよ」
「・・・どうしてそんなことを言うんですか・・・」
トウオウになら訊ける。
「シユラ様、シユラ様はまだ未開なんだよ。 でも、シユラ様にはオレ達五人の力がシユラ様一人の力にあるんだよ」
「・・・そんなことって。 ・・・ない! 絶対ない!」
「言い切れる?」
紫揺が頭を下げる。
「花を咲かせたよね・・・心当たりがあるだろ?」
「でも!―――」
「シユラ様。 諦めようよ。 オレたちの運命としようよ。 ね、心当たりがあるならハッキリ言って欲しい。 その対処をしなくちゃ・・・力の使い方を覚えなくちゃ、北の領土以外では生きていけないよ」
「え?」
「力の使い方も勿論だけど、一番に自覚を持ってほしい。 でなきゃ、これからシユラ様の周りで起こることは自分には関係ないと思ってしまうかもしれない。
シユラ様が誰かに怒ってカッとした時、その人に雷が落ちたらどうする? 自覚が無いと自分のせいではない。 自然現象だからで終らせるだろ。
誰かがカマイタチのような傷を負った。 へぇー、カマイタチって本当にあるんだ。 って、それでいいのか? それは全部シユラ様の力なんだよ。 シユラ様がやったことなんだよ」
「・・・有り得ない」
「有り得るんだよ。 シユラ様の力を自覚してほしい」
「・・・」
「まずは実践してみないか?」
「・・・?」
「春の力は充分に見ただろうから、一番分かりやすい赤の力を試してみないか?」
「・・・赤の力って?」
「アマフウの袂を燃やしただろ? あれだよ」
「・・・私じゃない」
「んじゃ、やってみて出来なければシユラ様に力がないとしよう。 どう? 挑戦してみる? シユラ様に力がないとオレに証明してくれる?」
「・・・今ですか?」
「今すぐ」
「どうやって?」
「あの時と同じシチュエーションが良いな」
「どういうことですか?」
「おあつらえ向きに、此処に来る前にアマフウがあの使用人を睨みつけてた。 虫の居所が悪いみたいだね」
さっきは言い過ぎた。 その事に気付いて話に乗ってこないかもしれないが、アマフウと段取りをつけた以上は言ってみるしかない。
「えっ!?」
「洗濯女の子供・・・セキ」