--- 映ゆ --- 第65回
『---映ゆ---』 目次
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「チッ、面白くない」
「言ってみれば我らを呼んだ都のお偉いさんがシノハだ。 そのお偉いさんは派手を好まない。 穏便に済ませたいと思っている。 それに従うのが我らだろうが」
サラニンが穏便に済ませたいと考えたのは、シノハと長、そして才ある婆様しか知らない話があるという事からだ。 ソイツはそれが何かを知っている。 下手をうってソイツが喋ってしまえば、シノハの顔が立たない。
「シノハがお偉いさんねぇ・・・」 ゴンドューの三人の会話を聞いて目が点になりかけたシノハを横目で見た。
「・・・え」 思いもかけないバランガの視線に思わずシノハが声を漏らす。
そのシノハにサラニンが言う。
「シノハ、一連の話とは別に、明日そのドンダダってヤツに勝て。 負けることも身体に傷を入れることも許されない。 それがゴンドューで戦いを身に付けた者の戦いだ。 分かるか?」
「はい」 シノハの返事にサラニンが頷くと言葉を続けた。
「よし、それでは後のことは我らに任せろ。 とは言っても、我らが動いている所を表立たせたくない。 我らが情報を集め、シノハにそをれを流す」 シノハが頷き、次に何か言おうとした時、その前にバランガが言う。
「お前はドンダダってヤツのことしか頭になかったみたいだからな。 ドンダダってヤツのことは表立っては明日ケリがつくだろう。 お前と長、才ある婆様が何を考えておられるのかは知らんが、それはドンダダってヤツのことほぼ全部だろう。 それはお前の好きなようにすればいい。 だが、その後ろでチョロチョロ動いてるヤツのことは我らに任せろ」
「オイ、バランガ。 我らが手を出してはならんぞ」
「顔を見られなきゃいいんだろ?」
「ダメだ。 シノハがどうしたいのかで変わってくる。 シノハに情報を流してその上で我らがどうするのかが決まる。 それにいくら顔を隠してもここは都じゃないんだ。 小さな村だ。 簡単に手を出したら余所者がしたとすぐにバレるだろう」
「チッ、面白くない」 言うとサラニンから目を外し、今度はタイリンに視線を移した。
「我らは顔を見たが、そいつの名を知らない。 どこの小屋に居るのかも知らない。 まずはそいつが誰かだ。 心当たりはないか?」 口元に手をやると、恐く楽しそうな目でタイリンを見る。
「全然ありません。 それに皆に聞いてまわっても、誰も何処かから聞こえてきた噂が、誰が流したものかも知らないって」
「ドンダダ側の奴らには聞いたのか?」
焚き火の周りには小屋に入らなかったドンダダ側の男たちも居た。 が、小屋に入った者はまだドンダダ側に厚くついているが、焚き火の周りにいた者はドンダダを信用しなくなってきていた者だった。
「ジャンムが聞いてくれたけど、誰も知らないってことでした」
「それじゃあ」 とサラニンが言う。
「手っ取り早く・・・そうだな、今日の事から考えよう。 噂を流したのが誰か分からないんだったら、シノハが何故ドンダダと向かい合ったかだ。 何故急に森の中に入ったか、それは分かるか?」
「はい。 分かります」 今日の自分の見たことを全て子細に話し、二人からも少しの質問を受け、それに答えた。
「ふ・・・ん。 と言う事は」 サラニンがここまで言うと
「ああ、そいつだな」 バランガが言う。
「え?」 タイリンが目を丸くする。
タイリンは自分が見た事を言っただけだ。 そこから何が分かると言うのか、全く分からない。
「そのガガンリってヤツだ」 サラニンがタイリンを見て言った。
「なぜですか? さっきも言いましたけど、あの時はサンノイたちを遊んでくれてただけなんですよ?」
「ああ、わざわざシノハやタイリンたちに見えるようにな」 タイリンがその言葉に納得が出来ないという顔をする。
「ああ、クソ好かねぇヤツだ。 コソコソとしやがって」
そこに三人の会話を聞いていたシノハが口をはさんだ。
「待ってください。 ガガンリはあまりドンダダについていません、ファブアにだって。 一緒に居るからって悪い事を考えるような男じゃなさそうですし、コソコソもしていません」
「けど? 日頃子供の相手をしないんだろう? それなのに今日に限って子供を遊ばせていたんじゃないのか?」
「それに、タイリンの話では、そいつはナカナカに戦えるそうじゃないか。 ドンダダってヤツが目の上のたんこぶだったんじゃないのか?」
二人の言葉にシノハが渋面を作る。
「まぁ、相手はわかった。 俺たちに任せな」 言うと、タイリンにどの小屋にいるのかを聞いた。
ガガンリ。 ファブアとシノハが戦った時、タム婆が現れたのに気付かなかったファブアを止めた男。 ファブアよりずっと体格が良かった男。
シノハが夜中にふと目を覚ますと、寝ているはずのサラニンとバランガがいなかった。
「あれ?」
纏っていた織物を撥ね、身体を起こすと目を凝らして辺りを見た。 クジャムとタイリンは寝ている。 話し終えた後、全員でこの小屋で寝ることにしたのだ。
(こんな夜中にいったいどこに行ったんだろう・・・) 思いながらも、寒さに身を織物に包みゴロンと横になると、話し疲れていたのか、またウトウトとしていつしか寝入ってしまった。
声がしたような気がして目が覚めた。 身体を起こすと既にクジャムがいなかった。
「クジャムまで・・・」 まだ寝ているタイリンを起こさないようにソロっと小屋の戸を開けた。
「寒っ・・・」
今まで、織物を纏いミノムシの様にタム婆の小屋の前で寝ていた時には緊張からなのか、これほど寒さを感じなかったが、安心して小屋の中で寝てしまっては寒さが身に染みる。
マントを取ろうとして小屋の中を振向いたが、衣は持っていたものに着替えたものの、マントの替えはない。 ドンダダの槍で切り裂かれたままだった。
(マントは着られないか・・・」 寒さに負けないようにと腹に力を込めて、そっと戸を閉めた。
小屋を出ると、夕べ皆で囲っていた焚き火のあとがうっすらと遠めに見える。
(もう少しで夜が明けるか) と、その時、僅かに何かの音が聞こえた。 空(くう)を切るような音。
その音の先にゆっくりと歩を進めた。
するとクジャムの姿が目に入った。 冷たい空気の中、身体からは白い湯気が上がっている。
まるでそこに相手がいるかのように、水牛のような大きな身体を軽々と空に舞わせながら、一人力強く剣を振っていたが、その湯気を纏った姿が屈強な身体をなんとも優美に見せる。 薄暗い中でもハッキリとそれが見て取れる。
その姿に思わず思うことがある。
(どうすればあんな風に身をこなせるんだろうか・・・)
クジャムが誰かを教えるところは何度も見た。 だが、一人鍛える姿を見たのは初めてだった。
「起きたのか」 剣を鞘に収めると後ろに居るシノハを振り返った。
(あの集中している中、後ろに居る我が分かったのか・・・) 驚きを隠せない。
「どうした」
「あ、いえ、何でもありません」 言いながらも、己の考えの浅さを見透かされたな、と思った。
「弓馬(ゆんば)に決まるみたいだ」
「え?」 突然に言われ何がなんだか分からない。
「今日の勝負だ」
「え? あ? 弓馬ですか?」 今のクジャムの姿を見た思いに、弓馬と言う言葉が心に染みない。 まるで人事の様に返事をした。
「ああ。 シノハが馬を使うかズークを使うか・・・朝になったときが面白い」 シノハは言葉の意味が分からない。
シノハの顔を見て片方の口の端を上げると
「ああ、今日は邪魔が入った」 邪魔したのは己だとすぐに分かった。
「あ・・・すみません」
「我が鍛錬する時はこの時だけだ。 見事お前に邪魔をされたな」
「クジャムはいつもこんなに早くから鍛錬をしていたのですか?」
「ああ、でなければ教える時がなくなるからな」 クジャムの言葉にささくれを感じる。
「ドンダダがそんな風に考えてくれるといいのですが」
シノハの言葉にクジャムが片眉を上げた。
「お前、ドンダダってヤツをどうしたいんだ?」 上げた眉根を寄せる。
「我が勝って、我の申し出を聞いてもらいます。 その申し出に、ドンダダが考えを変えてくれるといいのですが」 シノハの言葉に思わずクジャムが溜息を吐いた。
「言って分かるやつなら、とうに変わっているだろう。 無理だ」
「ですが、他に方法が思いつきません。 いや、ありません」
長い目で見れば今、男たちが変わってきたのだ、他に方法があるだろう。 だが、トデナミのことがある。 今何かをしなければ。 待ってはいられない。
「ふっ、まぁお前の気の済むようにすればいいさ。 だが、オロンガへ帰るのが遅くなることは許さんからな」
「はい」
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- 映ゆ - ~Shinoha~ 第65回
「チッ、面白くない」
「言ってみれば我らを呼んだ都のお偉いさんがシノハだ。 そのお偉いさんは派手を好まない。 穏便に済ませたいと思っている。 それに従うのが我らだろうが」
サラニンが穏便に済ませたいと考えたのは、シノハと長、そして才ある婆様しか知らない話があるという事からだ。 ソイツはそれが何かを知っている。 下手をうってソイツが喋ってしまえば、シノハの顔が立たない。
「シノハがお偉いさんねぇ・・・」 ゴンドューの三人の会話を聞いて目が点になりかけたシノハを横目で見た。
「・・・え」 思いもかけないバランガの視線に思わずシノハが声を漏らす。
そのシノハにサラニンが言う。
「シノハ、一連の話とは別に、明日そのドンダダってヤツに勝て。 負けることも身体に傷を入れることも許されない。 それがゴンドューで戦いを身に付けた者の戦いだ。 分かるか?」
「はい」 シノハの返事にサラニンが頷くと言葉を続けた。
「よし、それでは後のことは我らに任せろ。 とは言っても、我らが動いている所を表立たせたくない。 我らが情報を集め、シノハにそをれを流す」 シノハが頷き、次に何か言おうとした時、その前にバランガが言う。
「お前はドンダダってヤツのことしか頭になかったみたいだからな。 ドンダダってヤツのことは表立っては明日ケリがつくだろう。 お前と長、才ある婆様が何を考えておられるのかは知らんが、それはドンダダってヤツのことほぼ全部だろう。 それはお前の好きなようにすればいい。 だが、その後ろでチョロチョロ動いてるヤツのことは我らに任せろ」
「オイ、バランガ。 我らが手を出してはならんぞ」
「顔を見られなきゃいいんだろ?」
「ダメだ。 シノハがどうしたいのかで変わってくる。 シノハに情報を流してその上で我らがどうするのかが決まる。 それにいくら顔を隠してもここは都じゃないんだ。 小さな村だ。 簡単に手を出したら余所者がしたとすぐにバレるだろう」
「チッ、面白くない」 言うとサラニンから目を外し、今度はタイリンに視線を移した。
「我らは顔を見たが、そいつの名を知らない。 どこの小屋に居るのかも知らない。 まずはそいつが誰かだ。 心当たりはないか?」 口元に手をやると、恐く楽しそうな目でタイリンを見る。
「全然ありません。 それに皆に聞いてまわっても、誰も何処かから聞こえてきた噂が、誰が流したものかも知らないって」
「ドンダダ側の奴らには聞いたのか?」
焚き火の周りには小屋に入らなかったドンダダ側の男たちも居た。 が、小屋に入った者はまだドンダダ側に厚くついているが、焚き火の周りにいた者はドンダダを信用しなくなってきていた者だった。
「ジャンムが聞いてくれたけど、誰も知らないってことでした」
「それじゃあ」 とサラニンが言う。
「手っ取り早く・・・そうだな、今日の事から考えよう。 噂を流したのが誰か分からないんだったら、シノハが何故ドンダダと向かい合ったかだ。 何故急に森の中に入ったか、それは分かるか?」
「はい。 分かります」 今日の自分の見たことを全て子細に話し、二人からも少しの質問を受け、それに答えた。
「ふ・・・ん。 と言う事は」 サラニンがここまで言うと
「ああ、そいつだな」 バランガが言う。
「え?」 タイリンが目を丸くする。
タイリンは自分が見た事を言っただけだ。 そこから何が分かると言うのか、全く分からない。
「そのガガンリってヤツだ」 サラニンがタイリンを見て言った。
「なぜですか? さっきも言いましたけど、あの時はサンノイたちを遊んでくれてただけなんですよ?」
「ああ、わざわざシノハやタイリンたちに見えるようにな」 タイリンがその言葉に納得が出来ないという顔をする。
「ああ、クソ好かねぇヤツだ。 コソコソとしやがって」
そこに三人の会話を聞いていたシノハが口をはさんだ。
「待ってください。 ガガンリはあまりドンダダについていません、ファブアにだって。 一緒に居るからって悪い事を考えるような男じゃなさそうですし、コソコソもしていません」
「けど? 日頃子供の相手をしないんだろう? それなのに今日に限って子供を遊ばせていたんじゃないのか?」
「それに、タイリンの話では、そいつはナカナカに戦えるそうじゃないか。 ドンダダってヤツが目の上のたんこぶだったんじゃないのか?」
二人の言葉にシノハが渋面を作る。
「まぁ、相手はわかった。 俺たちに任せな」 言うと、タイリンにどの小屋にいるのかを聞いた。
ガガンリ。 ファブアとシノハが戦った時、タム婆が現れたのに気付かなかったファブアを止めた男。 ファブアよりずっと体格が良かった男。
シノハが夜中にふと目を覚ますと、寝ているはずのサラニンとバランガがいなかった。
「あれ?」
纏っていた織物を撥ね、身体を起こすと目を凝らして辺りを見た。 クジャムとタイリンは寝ている。 話し終えた後、全員でこの小屋で寝ることにしたのだ。
(こんな夜中にいったいどこに行ったんだろう・・・) 思いながらも、寒さに身を織物に包みゴロンと横になると、話し疲れていたのか、またウトウトとしていつしか寝入ってしまった。
声がしたような気がして目が覚めた。 身体を起こすと既にクジャムがいなかった。
「クジャムまで・・・」 まだ寝ているタイリンを起こさないようにソロっと小屋の戸を開けた。
「寒っ・・・」
今まで、織物を纏いミノムシの様にタム婆の小屋の前で寝ていた時には緊張からなのか、これほど寒さを感じなかったが、安心して小屋の中で寝てしまっては寒さが身に染みる。
マントを取ろうとして小屋の中を振向いたが、衣は持っていたものに着替えたものの、マントの替えはない。 ドンダダの槍で切り裂かれたままだった。
(マントは着られないか・・・」 寒さに負けないようにと腹に力を込めて、そっと戸を閉めた。
小屋を出ると、夕べ皆で囲っていた焚き火のあとがうっすらと遠めに見える。
(もう少しで夜が明けるか) と、その時、僅かに何かの音が聞こえた。 空(くう)を切るような音。
その音の先にゆっくりと歩を進めた。
するとクジャムの姿が目に入った。 冷たい空気の中、身体からは白い湯気が上がっている。
まるでそこに相手がいるかのように、水牛のような大きな身体を軽々と空に舞わせながら、一人力強く剣を振っていたが、その湯気を纏った姿が屈強な身体をなんとも優美に見せる。 薄暗い中でもハッキリとそれが見て取れる。
その姿に思わず思うことがある。
(どうすればあんな風に身をこなせるんだろうか・・・)
クジャムが誰かを教えるところは何度も見た。 だが、一人鍛える姿を見たのは初めてだった。
「起きたのか」 剣を鞘に収めると後ろに居るシノハを振り返った。
(あの集中している中、後ろに居る我が分かったのか・・・) 驚きを隠せない。
「どうした」
「あ、いえ、何でもありません」 言いながらも、己の考えの浅さを見透かされたな、と思った。
「弓馬(ゆんば)に決まるみたいだ」
「え?」 突然に言われ何がなんだか分からない。
「今日の勝負だ」
「え? あ? 弓馬ですか?」 今のクジャムの姿を見た思いに、弓馬と言う言葉が心に染みない。 まるで人事の様に返事をした。
「ああ。 シノハが馬を使うかズークを使うか・・・朝になったときが面白い」 シノハは言葉の意味が分からない。
シノハの顔を見て片方の口の端を上げると
「ああ、今日は邪魔が入った」 邪魔したのは己だとすぐに分かった。
「あ・・・すみません」
「我が鍛錬する時はこの時だけだ。 見事お前に邪魔をされたな」
「クジャムはいつもこんなに早くから鍛錬をしていたのですか?」
「ああ、でなければ教える時がなくなるからな」 クジャムの言葉にささくれを感じる。
「ドンダダがそんな風に考えてくれるといいのですが」
シノハの言葉にクジャムが片眉を上げた。
「お前、ドンダダってヤツをどうしたいんだ?」 上げた眉根を寄せる。
「我が勝って、我の申し出を聞いてもらいます。 その申し出に、ドンダダが考えを変えてくれるといいのですが」 シノハの言葉に思わずクジャムが溜息を吐いた。
「言って分かるやつなら、とうに変わっているだろう。 無理だ」
「ですが、他に方法が思いつきません。 いや、ありません」
長い目で見れば今、男たちが変わってきたのだ、他に方法があるだろう。 だが、トデナミのことがある。 今何かをしなければ。 待ってはいられない。
「ふっ、まぁお前の気の済むようにすればいいさ。 だが、オロンガへ帰るのが遅くなることは許さんからな」
「はい」