僕と僕の母様 第13回

大福りす
僕と僕の母様 第13回



「はぁ? それにこれだけ?」 自販機を見ながら呆れたように言った。

「何? これだけって、何?」 言葉の意味が分からない。

「普通学校の自販機と言えど、一つだけって事ないんじゃない?」 僕の方を見た。

「一つあれば充分じゃない。 じゃあ、お母さんの学校には幾つあったのよ」 また女言葉になってしまった。

「何台だったかしら・・・でもカップの自販機だけでも 幾つかあったし、缶のも幾つかあったから それこそその時代は ペットボトルなんて無かったけど 少なくとも五、六台はあったわよ」

「うそ・・・」 僕の目の前にあるのは カップの自販機一つだけだ。

「それにこんな食堂の裏みたいな所で 3畳そこらくらいのスペースに 足場にセメントもしてもらえないで 不安定な土の上に木を敷かれてるだけだし ゴミ箱の奥に押し込まれたように設置して・・・これじゃあ自販機自体が ゴミ扱いされてるみたいじゃない。 かなり古そうだし 可哀想な自販機」 

確かに自販機に お金を入れようとか、ボタンを押そうとして 自販機の前に立とうと ボーっと歩いていると 土の上がデコボコで、特に悲しくなるスリッパを履いていると しょっちゅう転けそうになるのだ。

陽も当たらないから 雨が降った後は なかなか乾かないものだから 長い間足元に 水たまりが出来て困っていたので 食堂のおばさんが 簀の子を置いてくれたような所だ。

それに古さで言えば この自販機はよく誤操作をする。

でも そのおかげで 僕はこの自販機に 一杯のコーヒー代で二杯おごって貰ったことが よくある。 お金のない僕の良き友なのだ。



母様は僕に「何飲む?」 と聞きながら、自販機の方に歩き出し 鞄からお財布を出そうとしていた。

「足元に気を付けて」 何せ母様は張り切って ヒールを履いている。 車を降りる時に運転用の靴から 履き替えたのだ。 後一歩で足元は簀の子だ。

「うっ、こけそう。 陵ちゃん自分で買って。 ついでにお母さんは コーヒー、お砂糖無しね」 そう言って僕に二人分のお金を手渡した。

僕はお金を入れて まずは母様のコーヒーのボタンを押した。

カップがおりてきて 次にコーヒーが注がれる。 注がれ終わって それを母様に渡して 次に僕の分だ。

お金を入れようとすると 勝手にまたカップが出てきて コーヒーを注ぎだした。

誤作動だ。 それとも自販機が母様へ 挨拶をしているのだろうか。

でもそれより何より 自販機君よ 僕にはお砂糖を入れて欲しかったな。 

きょとんとしている母様に向かって「自販機のおごりだって。 こういう良いところは お母さんの学校の自販機には無かったでしょ」 僕の分のお金を返しながら 自慢げに言った。

「完全に壊れてるんじゃない」 冷めた返事だ。



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