みち ~未知~ 第22回
『みち』 目次
第 1回・第 2回・第 3回・第 4回・第 5回・第 6回・第 7回・第 8回・第 9回・第10回
第11回・第12回・第13回・第14回・第15回・第16回・第17回・第18回・第19回・第20回
『みち』 ~未知~ 第22回
琴音はそのまま誰とも話をせず帰ったのだが 家に帰る道中もあの言葉が気になって仕方が無い。
玄関の前で塩を振り、着替えて化粧を落とし一息つくためのコーヒーを入れた。
課長が亡くなったのを 自分が会社を辞めたせいだと 責める心もまだあるが そんな所とは考える、思うとは違った場所で
「志半ばって、どういう意味? 言っちゃうと悪いけど あの課長に志があったの?」 単にこういうときに使う言葉だという事は 重々分かってはいるがどうも腑に落ちない。
「その志があったとしてその途中で・・・私のせいで 亡くなったの?」 頭の中が混乱しだしたようだ。
「課長は何をしたかったの? 何をしようとして生まれてきたの?」 自分に対してそんなことを考えることが多かった為だろうか 他人である課長にまでも考え出していた。
「いやだ、何を考えてるのかしら。 課長には課長のやりたい事があったはずじゃない。 他人の私がそれを考えてどうするのよ。 それに考えても もうどうにもならないじゃない」 考えないようにと考えると それは考えていることになる。
「あーダメダメ お風呂に入って流そう」 心の中や頭の中はそう簡単には流れないと思うけどね。 でも自分を責めることは流す方が良い。
冷めたコーヒーを一気に飲み 風呂の準備をし、湯に浸り目を閉じた。
琴音は物心ついたころから 目をつぶると瞼の裏に 動く模様のようなものが黒っぽい中に薄く白く見えていた。
その動く模様を見ながら 心を落ち着かせていた。 眠るとき、退屈になった時なども このやり方は小さいころからの癖でもあった。
一晩寝なかった上に暖まった身体は眠気を誘う その日は早々に床についた。
翌日も森川から仕事を教えてもらっていたが 毎日の業務は完璧だ。 ただ、月に1回という締め業務は まだ1回しか経験していない。 琴音はそれが不安でたまらない。
「森川さん、私に締め業務 出切るでしょうか?」 森川に聞いてみた。
「大丈夫よ、事細かにメモを取ってたじゃない」 たしかに要らない事までメモをしていた。 だが 琴音にすれば どれが要る事でどれが要らない事かすら分からない状態だ。
「今度の締めはそのメモを見ながら 織倉さんが一人でやってみて。 横でずっと見てるから」
「はい。 あの、注意深く見ていて下さいね。 私何するか分かりませんから」 1円でも間違えられない。
「ふふふ、大丈夫よ 自信を持ちましょう」 琴音はまた笑窪に魅せられた。
ずっと年齢の高い森川が経理をしていたせいか いわゆるソロバン経理なのだ。 伝票も帳簿も何もかも全部手書きである。 PCに打ち込むであろうと思っていた琴音には 大きな計算違いであった。
会社ではまだ白いものがみんなに見える。 それに毎日感じる斜め前のビルからの視線。 仕事への不安、課長への自責の念もあり 日頃そんなに起伏が激しく無いほうなのに イライラしたり落ち込んだりと 精神的に疲れてきていた。
そしてつい ある日の朝、会社の掃除をするために窓を開けたとき いつも見ている山に向かって
「山のバカ!」 と叫んでしまったのだ。
するとその時から白いものは全く見えなくなってしまった。
「え? 今日一日誰にも白いものが見えなかったわ」 だがその日だけではない その日を境にずっと見えなくなったのだ。
悠森製作所で初めて窓を開けたときに 言った台詞を思い出してごらん 「まるで山の空気が入ってくるみたい」 そう言ったじゃないか。
悠森製作所に来た意味が無くなるじゃないか。 今の琴音にとって山がどれだけ大切か分かっていないようだ。 二度とそんな言葉を言っては駄目だ。 山への感謝を忘れないようにしなければ。
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琴音はそのまま誰とも話をせず帰ったのだが 家に帰る道中もあの言葉が気になって仕方が無い。
玄関の前で塩を振り、着替えて化粧を落とし一息つくためのコーヒーを入れた。
課長が亡くなったのを 自分が会社を辞めたせいだと 責める心もまだあるが そんな所とは考える、思うとは違った場所で
「志半ばって、どういう意味? 言っちゃうと悪いけど あの課長に志があったの?」 単にこういうときに使う言葉だという事は 重々分かってはいるがどうも腑に落ちない。
「その志があったとしてその途中で・・・私のせいで 亡くなったの?」 頭の中が混乱しだしたようだ。
「課長は何をしたかったの? 何をしようとして生まれてきたの?」 自分に対してそんなことを考えることが多かった為だろうか 他人である課長にまでも考え出していた。
「いやだ、何を考えてるのかしら。 課長には課長のやりたい事があったはずじゃない。 他人の私がそれを考えてどうするのよ。 それに考えても もうどうにもならないじゃない」 考えないようにと考えると それは考えていることになる。
「あーダメダメ お風呂に入って流そう」 心の中や頭の中はそう簡単には流れないと思うけどね。 でも自分を責めることは流す方が良い。
冷めたコーヒーを一気に飲み 風呂の準備をし、湯に浸り目を閉じた。
琴音は物心ついたころから 目をつぶると瞼の裏に 動く模様のようなものが黒っぽい中に薄く白く見えていた。
その動く模様を見ながら 心を落ち着かせていた。 眠るとき、退屈になった時なども このやり方は小さいころからの癖でもあった。
一晩寝なかった上に暖まった身体は眠気を誘う その日は早々に床についた。
翌日も森川から仕事を教えてもらっていたが 毎日の業務は完璧だ。 ただ、月に1回という締め業務は まだ1回しか経験していない。 琴音はそれが不安でたまらない。
「森川さん、私に締め業務 出切るでしょうか?」 森川に聞いてみた。
「大丈夫よ、事細かにメモを取ってたじゃない」 たしかに要らない事までメモをしていた。 だが 琴音にすれば どれが要る事でどれが要らない事かすら分からない状態だ。
「今度の締めはそのメモを見ながら 織倉さんが一人でやってみて。 横でずっと見てるから」
「はい。 あの、注意深く見ていて下さいね。 私何するか分かりませんから」 1円でも間違えられない。
「ふふふ、大丈夫よ 自信を持ちましょう」 琴音はまた笑窪に魅せられた。
ずっと年齢の高い森川が経理をしていたせいか いわゆるソロバン経理なのだ。 伝票も帳簿も何もかも全部手書きである。 PCに打ち込むであろうと思っていた琴音には 大きな計算違いであった。
会社ではまだ白いものがみんなに見える。 それに毎日感じる斜め前のビルからの視線。 仕事への不安、課長への自責の念もあり 日頃そんなに起伏が激しく無いほうなのに イライラしたり落ち込んだりと 精神的に疲れてきていた。
そしてつい ある日の朝、会社の掃除をするために窓を開けたとき いつも見ている山に向かって
「山のバカ!」 と叫んでしまったのだ。
するとその時から白いものは全く見えなくなってしまった。
「え? 今日一日誰にも白いものが見えなかったわ」 だがその日だけではない その日を境にずっと見えなくなったのだ。
悠森製作所で初めて窓を開けたときに 言った台詞を思い出してごらん 「まるで山の空気が入ってくるみたい」 そう言ったじゃないか。
悠森製作所に来た意味が無くなるじゃないか。 今の琴音にとって山がどれだけ大切か分かっていないようだ。 二度とそんな言葉を言っては駄目だ。 山への感謝を忘れないようにしなければ。