--- 映ゆ --- 第88回
『---映ゆ---』 目次
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耳につく蝉の声もなくなり、涼やかな風が肌に優しい季節となった。
渉は真名の言葉、ご縁があれば頑張らなくても逢えるということを信じて、神社に行くことも巫女装束を買うこともなく、ひたすらに毎日辺りをキョロキョロしていた。
「トンデン村からここに来てるかもしれないし、駅だもん。 どこかにシノハさんが居るかもしれないもんね」
「渉! お早う」 渉の背中をポンと叩いた。
「あ、お早う、樹乃」
「毎日毎日、その不審な行動どうにかならない?」
「え?」
「後ろから見てたらイタイ人に見えるわよ」
「あ・・・」
「ドタバタと走らなくなったと思ったら、今度はキョロキョロ。 いったい何がしたいの?」
「えへへ・・・って、気付いてたら教えてよ」
「すれ違う人の顔を見ればわかるでしょうに」 腰に手を当て溜息をついた。
「え? 樹乃だけじゃなく他の人も見てたの?」
「救いようがないわ」 巻雲が美しく伸びるその高い空を仰いだ。
「もしもーし、渉ちゃん?」
「なに? 翼君。 カケルに何かあった?」
「どうして姉ちゃんのことで何度も渉ちゃんに連絡しなきゃいけないんだよ」
「カケルちゃんとしてる?」
「渉ちゃん! 今は俺と話してんの!」
「だって、神社のバイトにも行ってないんでしょ?」
「渉ちゃん・・・」
「カケルどうしちゃったのかしら。 奏ちゃんがちゃんとしてくれてるはずなのに」
カケルとの話で、暫くは神社に行かないと聞いた。 カケルにしてみればそれは奏和から言われたことであったが、渉との話で奏和の名前を出すと何もかもを説明しなくてはならないと思い、単純に実家にいる間は神社には行かないと、説明していた。
「もぉ! その奏兄ちゃんの話だけど!」
「奏ちゃんの話? 奏ちゃんが何かカケルのこと言ってたの?」
「ちーがーうー。 渉ちゃん、いい? 渉ちゃんは今、俺と話してんだよ。 翼と話してんだよ。 それは分かってるよね」
「バカじゃない? それくらい知ってるわよ」
「そっ。 それは良かった。 って、そんな言い方ないだろー!」
「いいから、奏ちゃんの話ってなに?」
「もう! 奏兄ちゃんの行ってる専門学校の文化祭に行かないかってデートに誘おうとしてんの。 って、姉ちゃん付きだけど」
「え?! カケルが外に出る気になったの?」
「うん。 そうなんだよね」
「行く!行く! 絶対に行く!! いつ?!」
「渉ちゃん・・・デートって分かってる?」
「まるでオフィスのビルみたいね」
屹立する高層ビルの中の一つ、それを見上げる。
「ホント。 奏兄ちゃんこんな所に通ってたんだ」
「ふーん・・・奏ちゃんがねぇ・・・」 3人で並んでオフィスビルと思える専門学校の前に立って、下から上に舐めるように眺めている。
「とにかく行こうか」 翼が言うと、サッと歩き始めかけた。
「あ、やっぱ姉ちゃん先に歩いて」
「なんでよ」
「渉ちゃんの横に立ってないと、いつ転ぶかわかんないでしょ」
「転ぶわけないっ!」 言うと、一人さっさと渉が歩いていった。
オフィスビルと思えるような専門学校の中に入ると、すぐに受付で数人がパンフレットを配っていた。
「こんにちは! いらっしゃいませ」 次々と入ってくる来場者と一緒にまぎれて入る渉を見て言ったが、次の瞬間
「こんにちはー、いらっしゃいま・・・」 受付でパンフレットを配る受付男子の手が止まった。 いや、何もかもが止まった。
「あの? いただけませんか?」 カケルが言う。
「あ、あ・・・はい。 はい、は、はい」 言うが、表情筋は全く動かず口をパクパク声だけしか出ていない。
「俺にも欲しいんだけど?」 カケルの後ろから翼が言うと、受付女子の声が「キャッ!」 っと上がった。
これだけの美男美女だ。 男子はフリーズし、女子は上気するだろう。
横から女子が翼の手にパンフレットを渡すと、次にカケルにもパンフレットを差し出した。
「あの、すみません。 どうぞ」 やっとカケルの手にもパンフレットが渡される。
受付全員、そして勿論その周辺に居る生徒や来場者が皆、カケルと翼を見ている。
「私にもパンフレットください」 渉が言うと、声のする方に受付男子が目線を下げて渉を見た。
「あ、ごめんね。 はい」 渉にパンフレットを渡すとカケルと翼に視線を戻した。
翼がパンフレットを手にした渉の背中を押し「行こうか」 と、鼻高々に言う。 皆の視線の中、俺はこの可愛い渉のナイトだと言わんばかりに。 が、誰も渉を見ていない。 カケルと翼、二人しか見ていない。
全員がボォーっとする中、カケルと翼の後姿を見送る。
「え? なに、今の・・・今の、美男美女!」配らなければならないパンフレットをギュッと握り締め、正気を戻した女子が叫んだ。
「誰かの知り合い?!」 女子につられあちこちから声が上がる。
「誰かの兄弟姉妹とか、友達とか?!」
「誰の?!」
「オマケにくっ付いてたのは?」
「あのコバンザメみたいなのも関係あるの?」
暫くの間、受付ではカケルと翼の話で持ちきりだった。
パンフレットを片手にホールへ向かうカケルと渉と翼。
カケルと翼が歩くとすれ違った人が皆振り返る。 長身の冷凍美人のカケルに、それに劣らぬ目のクリッとした背の高い甘いマスクの翼。
「結構人がいるのね」 カケルが辺りをキョロキョロする。
「カケル、人ごみ大丈夫?」 受付が言ったように、カケルの周りをコバンザメのようにウロウロする渉。
「何ともないわよ」
「だって、久しぶりの外なんだし、疲れたらすぐに言ってよ」
「分かったって」 少し呆れたような顔で、でも心配してくれる嬉しさを隠せず渉を見る。
「ウーンと・・・渉ちゃん、姉ちゃんあっちだ」 翼がパンフレットに書かれているホールへの行き道を指さした。
「ここは迷路みたいだな。 あ、渉ちゃん迷子になったら大変だから手、繋ぐ?」 手を差し出した。
「子供じゃないしっ! 行こ、カケル」 カケルの腕をとり歩き出した。
「あーあ・・・デートだって言ったのに・・・」 二人の後姿を見ながら呟くと慌てて大きな声を出した。
「渉ちゃん! そっちじゃないから! 真っ直ぐじゃなくて曲がるのー!」
翼のリードでホール前のロビーにやってきた。
「ここでするのね」
「奏ちゃんがねー」
「ほら、始まっちゃうから入るよ」 翼が防音の重い扉を開けた。
ホールの中に入るとビルの中だというのに広さがある。 そして殆どの席が埋まっていた。
「こんなに沢山の人の前で奏和、ちゃんと演奏できるのかしら」
カケルが誰に問うこともなく独り言の様に言う横で、翼が空いている席を探している。
「あ、あそこ空いてる。 あそこに座ろう」 後ろから2列目、ステージに向って一番右側の席から丁度3つ空席になっていた。
渉を真ん中に席に着くと、話をする間もなくアナウンスが流れて携帯電話への注意事項がながれ、いつの間に人が立っていたのか、ステージ中央にマ
イクを持った人物から演奏を聞きにきたことに対する謝辞があった。
「奏ちゃんって何番目だったっけ?」 前半はもう終わっている。
「えっと・・・」 翼がパンフレットを見る。
「え!・・・まさかの一番じゃん」
「それって、後半のトップってこと? 奏和、大丈夫かしら」
「奏ちゃんなら大丈夫よ」
「ね、渉ちゃんの言う、奏兄ちゃんなら大丈夫ってどこから出てくるの?」
「え? 翼君は思わないの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「そうね、渉の言う通りかもしれない。 奏和なら大丈夫かもね」 事務所に乗り込んだときの奏和を思い出す。
(あの社長にどれだけ啖呵をきられようが、脅しをかけられようが、ビクともしなかった)
「姉ちゃんまでなんだよ」
ブーと大きな音が鳴った。
「それでは後半を始めたいと思います」 アナウンスが流れた。
ライトが消され、辺りが暗くなる。
ざわついていた会場内が徐々に静かになっていく。 ステージの上からなにやら音がする気がするが、そちらに視線を向けても何も見えない。 隣の人間の顔はかろうじて見える程度の暗さであって、全くの暗闇と言っていい状態ではないが、それでも数メートル先までは何も見ることが出来ない。
少しするとドラムのシンバルの音が聞こえてきた。 リズムを刻む音。 途端、ライトがステージを照らした。
ドラマーがシンバルやタムを使ってドラムイントロが始まった。 激しい音に客席から歓声が上がる。
「奏・・・和」 見たこともない奏和がスティックを振るっている。
「奏兄ちゃん、スンゲー」
一瞬にして盛り上がった若者の中、保護者であろうか少々年配の夫婦が耳を塞ぐ。 何故か年配でない渉も同じように耳を塞いでいる。
続いてギター、ベースが入ってマイクを通したボーカルまで入ると、渉の頭の中は奏和の二日酔いで鳴った鐘楼どころではない、頭の髄を叩かれているような気分になった。
「バカバカ! 奏ちゃんのバカ・・・!」 耳を塞いだ渉の顔が、これ以上なく歪んでいる。
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- 映ゆ - ~Shou~ 第88回
耳につく蝉の声もなくなり、涼やかな風が肌に優しい季節となった。
渉は真名の言葉、ご縁があれば頑張らなくても逢えるということを信じて、神社に行くことも巫女装束を買うこともなく、ひたすらに毎日辺りをキョロキョロしていた。
「トンデン村からここに来てるかもしれないし、駅だもん。 どこかにシノハさんが居るかもしれないもんね」
「渉! お早う」 渉の背中をポンと叩いた。
「あ、お早う、樹乃」
「毎日毎日、その不審な行動どうにかならない?」
「え?」
「後ろから見てたらイタイ人に見えるわよ」
「あ・・・」
「ドタバタと走らなくなったと思ったら、今度はキョロキョロ。 いったい何がしたいの?」
「えへへ・・・って、気付いてたら教えてよ」
「すれ違う人の顔を見ればわかるでしょうに」 腰に手を当て溜息をついた。
「え? 樹乃だけじゃなく他の人も見てたの?」
「救いようがないわ」 巻雲が美しく伸びるその高い空を仰いだ。
「もしもーし、渉ちゃん?」
「なに? 翼君。 カケルに何かあった?」
「どうして姉ちゃんのことで何度も渉ちゃんに連絡しなきゃいけないんだよ」
「カケルちゃんとしてる?」
「渉ちゃん! 今は俺と話してんの!」
「だって、神社のバイトにも行ってないんでしょ?」
「渉ちゃん・・・」
「カケルどうしちゃったのかしら。 奏ちゃんがちゃんとしてくれてるはずなのに」
カケルとの話で、暫くは神社に行かないと聞いた。 カケルにしてみればそれは奏和から言われたことであったが、渉との話で奏和の名前を出すと何もかもを説明しなくてはならないと思い、単純に実家にいる間は神社には行かないと、説明していた。
「もぉ! その奏兄ちゃんの話だけど!」
「奏ちゃんの話? 奏ちゃんが何かカケルのこと言ってたの?」
「ちーがーうー。 渉ちゃん、いい? 渉ちゃんは今、俺と話してんだよ。 翼と話してんだよ。 それは分かってるよね」
「バカじゃない? それくらい知ってるわよ」
「そっ。 それは良かった。 って、そんな言い方ないだろー!」
「いいから、奏ちゃんの話ってなに?」
「もう! 奏兄ちゃんの行ってる専門学校の文化祭に行かないかってデートに誘おうとしてんの。 って、姉ちゃん付きだけど」
「え?! カケルが外に出る気になったの?」
「うん。 そうなんだよね」
「行く!行く! 絶対に行く!! いつ?!」
「渉ちゃん・・・デートって分かってる?」
「まるでオフィスのビルみたいね」
屹立する高層ビルの中の一つ、それを見上げる。
「ホント。 奏兄ちゃんこんな所に通ってたんだ」
「ふーん・・・奏ちゃんがねぇ・・・」 3人で並んでオフィスビルと思える専門学校の前に立って、下から上に舐めるように眺めている。
「とにかく行こうか」 翼が言うと、サッと歩き始めかけた。
「あ、やっぱ姉ちゃん先に歩いて」
「なんでよ」
「渉ちゃんの横に立ってないと、いつ転ぶかわかんないでしょ」
「転ぶわけないっ!」 言うと、一人さっさと渉が歩いていった。
オフィスビルと思えるような専門学校の中に入ると、すぐに受付で数人がパンフレットを配っていた。
「こんにちは! いらっしゃいませ」 次々と入ってくる来場者と一緒にまぎれて入る渉を見て言ったが、次の瞬間
「こんにちはー、いらっしゃいま・・・」 受付でパンフレットを配る受付男子の手が止まった。 いや、何もかもが止まった。
「あの? いただけませんか?」 カケルが言う。
「あ、あ・・・はい。 はい、は、はい」 言うが、表情筋は全く動かず口をパクパク声だけしか出ていない。
「俺にも欲しいんだけど?」 カケルの後ろから翼が言うと、受付女子の声が「キャッ!」 っと上がった。
これだけの美男美女だ。 男子はフリーズし、女子は上気するだろう。
横から女子が翼の手にパンフレットを渡すと、次にカケルにもパンフレットを差し出した。
「あの、すみません。 どうぞ」 やっとカケルの手にもパンフレットが渡される。
受付全員、そして勿論その周辺に居る生徒や来場者が皆、カケルと翼を見ている。
「私にもパンフレットください」 渉が言うと、声のする方に受付男子が目線を下げて渉を見た。
「あ、ごめんね。 はい」 渉にパンフレットを渡すとカケルと翼に視線を戻した。
翼がパンフレットを手にした渉の背中を押し「行こうか」 と、鼻高々に言う。 皆の視線の中、俺はこの可愛い渉のナイトだと言わんばかりに。 が、誰も渉を見ていない。 カケルと翼、二人しか見ていない。
全員がボォーっとする中、カケルと翼の後姿を見送る。
「え? なに、今の・・・今の、美男美女!」配らなければならないパンフレットをギュッと握り締め、正気を戻した女子が叫んだ。
「誰かの知り合い?!」 女子につられあちこちから声が上がる。
「誰かの兄弟姉妹とか、友達とか?!」
「誰の?!」
「オマケにくっ付いてたのは?」
「あのコバンザメみたいなのも関係あるの?」
暫くの間、受付ではカケルと翼の話で持ちきりだった。
パンフレットを片手にホールへ向かうカケルと渉と翼。
カケルと翼が歩くとすれ違った人が皆振り返る。 長身の冷凍美人のカケルに、それに劣らぬ目のクリッとした背の高い甘いマスクの翼。
「結構人がいるのね」 カケルが辺りをキョロキョロする。
「カケル、人ごみ大丈夫?」 受付が言ったように、カケルの周りをコバンザメのようにウロウロする渉。
「何ともないわよ」
「だって、久しぶりの外なんだし、疲れたらすぐに言ってよ」
「分かったって」 少し呆れたような顔で、でも心配してくれる嬉しさを隠せず渉を見る。
「ウーンと・・・渉ちゃん、姉ちゃんあっちだ」 翼がパンフレットに書かれているホールへの行き道を指さした。
「ここは迷路みたいだな。 あ、渉ちゃん迷子になったら大変だから手、繋ぐ?」 手を差し出した。
「子供じゃないしっ! 行こ、カケル」 カケルの腕をとり歩き出した。
「あーあ・・・デートだって言ったのに・・・」 二人の後姿を見ながら呟くと慌てて大きな声を出した。
「渉ちゃん! そっちじゃないから! 真っ直ぐじゃなくて曲がるのー!」
翼のリードでホール前のロビーにやってきた。
「ここでするのね」
「奏ちゃんがねー」
「ほら、始まっちゃうから入るよ」 翼が防音の重い扉を開けた。
ホールの中に入るとビルの中だというのに広さがある。 そして殆どの席が埋まっていた。
「こんなに沢山の人の前で奏和、ちゃんと演奏できるのかしら」
カケルが誰に問うこともなく独り言の様に言う横で、翼が空いている席を探している。
「あ、あそこ空いてる。 あそこに座ろう」 後ろから2列目、ステージに向って一番右側の席から丁度3つ空席になっていた。
渉を真ん中に席に着くと、話をする間もなくアナウンスが流れて携帯電話への注意事項がながれ、いつの間に人が立っていたのか、ステージ中央にマ
イクを持った人物から演奏を聞きにきたことに対する謝辞があった。
「奏ちゃんって何番目だったっけ?」 前半はもう終わっている。
「えっと・・・」 翼がパンフレットを見る。
「え!・・・まさかの一番じゃん」
「それって、後半のトップってこと? 奏和、大丈夫かしら」
「奏ちゃんなら大丈夫よ」
「ね、渉ちゃんの言う、奏兄ちゃんなら大丈夫ってどこから出てくるの?」
「え? 翼君は思わないの?」
「いや、そういう訳じゃないけど」
「そうね、渉の言う通りかもしれない。 奏和なら大丈夫かもね」 事務所に乗り込んだときの奏和を思い出す。
(あの社長にどれだけ啖呵をきられようが、脅しをかけられようが、ビクともしなかった)
「姉ちゃんまでなんだよ」
ブーと大きな音が鳴った。
「それでは後半を始めたいと思います」 アナウンスが流れた。
ライトが消され、辺りが暗くなる。
ざわついていた会場内が徐々に静かになっていく。 ステージの上からなにやら音がする気がするが、そちらに視線を向けても何も見えない。 隣の人間の顔はかろうじて見える程度の暗さであって、全くの暗闇と言っていい状態ではないが、それでも数メートル先までは何も見ることが出来ない。
少しするとドラムのシンバルの音が聞こえてきた。 リズムを刻む音。 途端、ライトがステージを照らした。
ドラマーがシンバルやタムを使ってドラムイントロが始まった。 激しい音に客席から歓声が上がる。
「奏・・・和」 見たこともない奏和がスティックを振るっている。
「奏兄ちゃん、スンゲー」
一瞬にして盛り上がった若者の中、保護者であろうか少々年配の夫婦が耳を塞ぐ。 何故か年配でない渉も同じように耳を塞いでいる。
続いてギター、ベースが入ってマイクを通したボーカルまで入ると、渉の頭の中は奏和の二日酔いで鳴った鐘楼どころではない、頭の髄を叩かれているような気分になった。
「バカバカ! 奏ちゃんのバカ・・・!」 耳を塞いだ渉の顔が、これ以上なく歪んでいる。