--- 映ゆ --- 第83回
『---映ゆ---』 目次
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諦めきれない渉、週末に神社へ向かった。 誰にも告げず、こっそりと。
神社に入ると辺りをキョロキョロしながら、宮司や雅子に見つからないように、こっそりと山の中へ入り、磐座の前に立った。
まずはいつも通り二礼二拍手をして小さな声で「有難うございます」 と言うと、一礼した。
「ふぅー、良かった。 小父さんにも小母さんにも見つからなくて」
数日前に来たばかりなのに、また来たなんてバレたら変に思われると思っていた。 それに磐座の所にばかり来て、不審がられても言い訳ができない。
磐座への挨拶をするとじっと磐座を見た。
「磐座さん、どうしたらトンデン村に行けますか?」 磐座からの返事はない。
「・・・そうですよね。 返事なんてしてもらえませんよね」 磐座から目を外して下を見た。
連休中も何度も何度も磐座に問うた言葉だった。
「無駄なことだったな・・・」
山の中を歩く楽しそうな人の声が聞こえてきた。
「連休じゃないのに来る人がいるんだ」 切り株に座ると入口となる坂に目をやった。
「あ、ここいいんじゃない?」
「危ないよ。 ほら、手をかして」
男性が女性の手を引いて少し急な坂を下りてきた。 楽しそうなカップルを横目に見ると磐座に向き合い、頬杖をついた。
「翼君がゲームが出来たって言ってた」
翼の友達が作ったロールプレイングゲーム。 その主役は巫女姿の渉だが、それは翼だけが持つキャラクターだった。
「私にもゲームを作ってもらおうかな。 そしてどこかの土地にトンデン村を作ってもらおうかな・・・そしたらトンデン村に行けるもんね」 言ってため息をついた。
「・・・バカみたい」 目を落とすとふと気づいたことがあった。
「あ・・・あの時、 ・・・そうだ。 雅な、って言ってた。 雅な衣って」 顔を上げた。
「もしかしたら・・・巫女装束になったら」 一瞬、目に光が差す。
「でも、どうやって・・・私から巫女の服を着たいなんて言ったら、小母さんに不自然に思われちゃう」
「ねっ、ねっ。 綺麗な小川ね」 カップルの声が近くなってきた。
「今日はもう帰ろう」 切り株から腰を上げ、周りに注意しながら山を下り、境内を出た。
バス停に着くと万が一にも、宮司か雅子が車で通るとも限らない。 隠れるところはない。 停留所を示すポールの後ろに屈んで丸くなった。 渉にすれば隠れたつもりだったが、反対に気分でも悪くしたのかと声をかけられる可能性の方が高い。 ここは見て見ぬ振りをする都会ではなく、他人事は自分事と考える心優しい田舎なのだから。 が、上手い具合に一台も車は通らなかった。
家に帰るとすぐに自分の部屋に籠った。 いつもならリビングで母娘の会話を楽しむのに。
「渉ちゃんったら・・・」 どうしたものかと考えたが、今はまだそっとしておいた方が良いかと、父親には何も言わないでおこうと思った。
「巫女装束・・・どうしたらいいのかなぁ・・・小母さんには言い辛いし。 どこかに売ってるかな? それとも本物でないとダメなのかなぁ?」 ベッドで折った膝を抱え、ウーンと頭を悩ます。
「あ、でもどこかで買えても、誰にもバレずにどこで着替えるの? それに巫女の格好をしたからって必ず逢えるとは考えられないし・・・でも、それ以外思いつかない・・・」 ゴロンとそのまま横になる。
「トンデン村・・・聞いたこともない。 何処にあるんだろう」
スマホが鳴った。
「ん? 翼君?」 メロディが翼からの着信であった。
ベッドを下りると机に置いていたスマホを手に取る。
「もしもし」
「あ、渉ちゃん? 何してるの?」
「何って・・・ベッドに転がってた」
「あ、いいな。 俺が添い寝してあげたい」
「ばか」
「ね、姉ちゃんから連絡あった?」
「カケル? 何もないけど?」
「そっか・・・」
「どうしたの?」 ベッドに腰かける。
「うん・・・急にさ、こっちに帰ってきたから」
「帰ってきた?」
「連休が開けてから、ずっとこっちに泊まってんの。 だから何かあったのかなって。 渉ちゃんなら知ってるかなって思ったんだけどさ」
「・・・何も聞いてない」 自分がシノハの事にうつつを抜かしていて、様子のおかしいカケルのことを気遣えなかったと改めて気づいた。
「カケルは家で何をしてるの?」
「なにも。 ただ、部屋でボォーっとしてるみたい。 けど・・・」
「けど何?」
「ラインの着信音はよく鳴ってるかな?」
「誰からの?」
「わかんない。 ほら、これが渉ちゃんなら、スマホを取り上げてでも見るけど、姉ちゃんだろ?」
「イミ分かんないんだけど」 翼に聞こえるくらいの大きな溜息をつくと続けた。
「カケルは今も家にいるの?」
「うん。 部屋に籠ってる」
「じゃ、カケルに連絡入れる」
「うん。 何だか分かんないけど励ましてやって」
翼との会話を終えると、すぐにカケルに電話を入れた。 そして渉の部屋の前で、コーヒーとクッキーをお盆に乗せていた真名が、そのまま階段を下りて行った。
3度目のコールでカケルがスマホに出た。
「渉?」
「あ、カケル? 今どこ?」 白々しく聞く。
「あ・・・えっと・・・実家」 正直に言ってくれたことに安堵を覚える。
「そうなんだ。 ねぇ、体調悪そうだったけど、あんまり良くないから実家にいるの?」
「そう言うわけじゃないんだけど」
「体調はどう?」
「大丈夫よ。 頭痛もなくなった」 自分の身体の心配をしてくれているんだと思うと笑みがこぼれる。
「良かった。 顔色はどう?」
「大丈夫だってば。 渉ったら」 スマホの向こうでクスッと笑うカケルの声が聞こえた。
「ね、今から外に出られる?」
「え?」
「用がある?」
「そんなんじゃないけど・・・外に出る気分じゃないって言うか」
奏和に暫く家から出ないように言われている。 それに自分でも誰かに逢うかもしれない怖さがあった。
あの日、社長に連絡を入れて奏和と事務所に行くと、契約をかわそうとしていたようで契約書が用意されていた。
「ミオンの知り合い?」 奏和を見て不機嫌そうな顔をする。
「まぁ、いいわ。 ねっ、バイトじゃなくて本格的に契約をしましょう」
そう言われたときに奏和が間に入った。 何の契約もしていないバイト。 今日で辞めますと。
社長はいきり立ったが、そこは神職で鍛えられた腹の座った態度を微塵も崩すことはなかった。
カケルとしては既に入っている仕事だけは、投げ出すようなことをしたくなかったが
「何の契約もしていないバイトのお前でなくちゃいけないはずがないだろ」 と、社長の前で言われてしまった。
「そっか・・・じゃ、そっちに行っていい?」
「来てくれるの?」 パッと明るい声が聞こえた。
(良かった、イヤがられたらどうしようかと思った) 心の中で呟いた。
「今から行く。 待っててね」
「うん」
スマホをバッグに入れると階段をトントントンと降りた。
「ママ、カケルの実家に行ってくる」
「え? 翔ちゃんの実家?」
「うん。 カケルが実家に帰ってるんだって」 嬉しそうな渉の顔だ。
(反抗期はお休みかしら?) 真名の口角が上がる。
「ママが送って行こうか?」
「あ、嬉しい」
今日は神社に行くのに朝早くから電車とバスに乗った。 たとえ二つ隣の駅と言えど、出来ればもう電車に乗りたくない。 渉の言葉にソファーから立ち上がると、車のキーを取った。
ガレージから車を出すと数日ぶりの母娘の会話が始まった。
「翔ちゃんにも、翼君にも長いこと会ってないけど、希美さんはどうしてるのかしら」 カケルと翼の様子は、5月の連休に神社で会っていた渉から聞いていた。
「小母さんかぁ・・・私も随分と久しぶりにカケルの実家に行くからなぁ。 それにカケルからも小母さんの話を聞かないしなぁ」
「翔ちゃんは、一人暮らしだものね」
「小母さんが居たら、ママもお邪魔しちゃったら? 小母さんが居るかカケルに聞いてみようか?」
「いいわよ。 事前に何もしなくても、会える時には会えるものよ」
「え?」
「なに? そんなに驚いて」
「逢える時には逢えるの?」
(あ・・・もしかして反抗期じゃなくて・・・) 真名が心で呟くと少し眉を顰めた。
(もしそうだったら、パパになんて言おうかしら)
「ママ?」
「あ、ごめん。 そうよ、会える時には会えるものよ。 何も頑張らなくてもね」
「頑張らなくても?」
「そう。 ご縁があればね」 話を少し大きい括りにした。
「そうなんだ・・・」
「なぁに? どうしたの?」
「もし・・・」
「もし?」
「うん・・・もし“どこでもドア” があったら、行きたいところがあるんだけど、そこにご縁があると行けるのかなぁ?」
「“どこでもドア”? ドラえもんの?」 うっかりハンドルをおかしくしそうになった。
「ママにはそれが一番わかりやすいかなと思って。 でも“どこでもドア” なんてあるはずないし」
「・・・そう。 そんなに行きたいところがあるの。 そこは遠い所なの?」
「多分」 答える渉をチラッと見た。
(誤魔化して言ってる風ではないわね・・・どういうことなのかしら)
「あれ? ママ、道が違うわよ」
「ふふ、ケーキでも買っていきましょうよ」
「あ、JonJonのケーキ?」
「そう。 みんな好きでしょ?」
「きっとカケルが喜ぶわ」
「ふふ、渉ちゃんは翔ちゃんのことが大好きね。 その渉ちゃんの行きたいところに、翔ちゃんも一緒に行けるといいわね」
「・・・う・・ん」
(翔ちゃんとは行きたくないところ?)
ハンドルを切ってケーキ店JonJonの駐車場に入れた。
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- 映ゆ - ~Shou~ 第83回
諦めきれない渉、週末に神社へ向かった。 誰にも告げず、こっそりと。
神社に入ると辺りをキョロキョロしながら、宮司や雅子に見つからないように、こっそりと山の中へ入り、磐座の前に立った。
まずはいつも通り二礼二拍手をして小さな声で「有難うございます」 と言うと、一礼した。
「ふぅー、良かった。 小父さんにも小母さんにも見つからなくて」
数日前に来たばかりなのに、また来たなんてバレたら変に思われると思っていた。 それに磐座の所にばかり来て、不審がられても言い訳ができない。
磐座への挨拶をするとじっと磐座を見た。
「磐座さん、どうしたらトンデン村に行けますか?」 磐座からの返事はない。
「・・・そうですよね。 返事なんてしてもらえませんよね」 磐座から目を外して下を見た。
連休中も何度も何度も磐座に問うた言葉だった。
「無駄なことだったな・・・」
山の中を歩く楽しそうな人の声が聞こえてきた。
「連休じゃないのに来る人がいるんだ」 切り株に座ると入口となる坂に目をやった。
「あ、ここいいんじゃない?」
「危ないよ。 ほら、手をかして」
男性が女性の手を引いて少し急な坂を下りてきた。 楽しそうなカップルを横目に見ると磐座に向き合い、頬杖をついた。
「翼君がゲームが出来たって言ってた」
翼の友達が作ったロールプレイングゲーム。 その主役は巫女姿の渉だが、それは翼だけが持つキャラクターだった。
「私にもゲームを作ってもらおうかな。 そしてどこかの土地にトンデン村を作ってもらおうかな・・・そしたらトンデン村に行けるもんね」 言ってため息をついた。
「・・・バカみたい」 目を落とすとふと気づいたことがあった。
「あ・・・あの時、 ・・・そうだ。 雅な、って言ってた。 雅な衣って」 顔を上げた。
「もしかしたら・・・巫女装束になったら」 一瞬、目に光が差す。
「でも、どうやって・・・私から巫女の服を着たいなんて言ったら、小母さんに不自然に思われちゃう」
「ねっ、ねっ。 綺麗な小川ね」 カップルの声が近くなってきた。
「今日はもう帰ろう」 切り株から腰を上げ、周りに注意しながら山を下り、境内を出た。
バス停に着くと万が一にも、宮司か雅子が車で通るとも限らない。 隠れるところはない。 停留所を示すポールの後ろに屈んで丸くなった。 渉にすれば隠れたつもりだったが、反対に気分でも悪くしたのかと声をかけられる可能性の方が高い。 ここは見て見ぬ振りをする都会ではなく、他人事は自分事と考える心優しい田舎なのだから。 が、上手い具合に一台も車は通らなかった。
家に帰るとすぐに自分の部屋に籠った。 いつもならリビングで母娘の会話を楽しむのに。
「渉ちゃんったら・・・」 どうしたものかと考えたが、今はまだそっとしておいた方が良いかと、父親には何も言わないでおこうと思った。
「巫女装束・・・どうしたらいいのかなぁ・・・小母さんには言い辛いし。 どこかに売ってるかな? それとも本物でないとダメなのかなぁ?」 ベッドで折った膝を抱え、ウーンと頭を悩ます。
「あ、でもどこかで買えても、誰にもバレずにどこで着替えるの? それに巫女の格好をしたからって必ず逢えるとは考えられないし・・・でも、それ以外思いつかない・・・」 ゴロンとそのまま横になる。
「トンデン村・・・聞いたこともない。 何処にあるんだろう」
スマホが鳴った。
「ん? 翼君?」 メロディが翼からの着信であった。
ベッドを下りると机に置いていたスマホを手に取る。
「もしもし」
「あ、渉ちゃん? 何してるの?」
「何って・・・ベッドに転がってた」
「あ、いいな。 俺が添い寝してあげたい」
「ばか」
「ね、姉ちゃんから連絡あった?」
「カケル? 何もないけど?」
「そっか・・・」
「どうしたの?」 ベッドに腰かける。
「うん・・・急にさ、こっちに帰ってきたから」
「帰ってきた?」
「連休が開けてから、ずっとこっちに泊まってんの。 だから何かあったのかなって。 渉ちゃんなら知ってるかなって思ったんだけどさ」
「・・・何も聞いてない」 自分がシノハの事にうつつを抜かしていて、様子のおかしいカケルのことを気遣えなかったと改めて気づいた。
「カケルは家で何をしてるの?」
「なにも。 ただ、部屋でボォーっとしてるみたい。 けど・・・」
「けど何?」
「ラインの着信音はよく鳴ってるかな?」
「誰からの?」
「わかんない。 ほら、これが渉ちゃんなら、スマホを取り上げてでも見るけど、姉ちゃんだろ?」
「イミ分かんないんだけど」 翼に聞こえるくらいの大きな溜息をつくと続けた。
「カケルは今も家にいるの?」
「うん。 部屋に籠ってる」
「じゃ、カケルに連絡入れる」
「うん。 何だか分かんないけど励ましてやって」
翼との会話を終えると、すぐにカケルに電話を入れた。 そして渉の部屋の前で、コーヒーとクッキーをお盆に乗せていた真名が、そのまま階段を下りて行った。
3度目のコールでカケルがスマホに出た。
「渉?」
「あ、カケル? 今どこ?」 白々しく聞く。
「あ・・・えっと・・・実家」 正直に言ってくれたことに安堵を覚える。
「そうなんだ。 ねぇ、体調悪そうだったけど、あんまり良くないから実家にいるの?」
「そう言うわけじゃないんだけど」
「体調はどう?」
「大丈夫よ。 頭痛もなくなった」 自分の身体の心配をしてくれているんだと思うと笑みがこぼれる。
「良かった。 顔色はどう?」
「大丈夫だってば。 渉ったら」 スマホの向こうでクスッと笑うカケルの声が聞こえた。
「ね、今から外に出られる?」
「え?」
「用がある?」
「そんなんじゃないけど・・・外に出る気分じゃないって言うか」
奏和に暫く家から出ないように言われている。 それに自分でも誰かに逢うかもしれない怖さがあった。
あの日、社長に連絡を入れて奏和と事務所に行くと、契約をかわそうとしていたようで契約書が用意されていた。
「ミオンの知り合い?」 奏和を見て不機嫌そうな顔をする。
「まぁ、いいわ。 ねっ、バイトじゃなくて本格的に契約をしましょう」
そう言われたときに奏和が間に入った。 何の契約もしていないバイト。 今日で辞めますと。
社長はいきり立ったが、そこは神職で鍛えられた腹の座った態度を微塵も崩すことはなかった。
カケルとしては既に入っている仕事だけは、投げ出すようなことをしたくなかったが
「何の契約もしていないバイトのお前でなくちゃいけないはずがないだろ」 と、社長の前で言われてしまった。
「そっか・・・じゃ、そっちに行っていい?」
「来てくれるの?」 パッと明るい声が聞こえた。
(良かった、イヤがられたらどうしようかと思った) 心の中で呟いた。
「今から行く。 待っててね」
「うん」
スマホをバッグに入れると階段をトントントンと降りた。
「ママ、カケルの実家に行ってくる」
「え? 翔ちゃんの実家?」
「うん。 カケルが実家に帰ってるんだって」 嬉しそうな渉の顔だ。
(反抗期はお休みかしら?) 真名の口角が上がる。
「ママが送って行こうか?」
「あ、嬉しい」
今日は神社に行くのに朝早くから電車とバスに乗った。 たとえ二つ隣の駅と言えど、出来ればもう電車に乗りたくない。 渉の言葉にソファーから立ち上がると、車のキーを取った。
ガレージから車を出すと数日ぶりの母娘の会話が始まった。
「翔ちゃんにも、翼君にも長いこと会ってないけど、希美さんはどうしてるのかしら」 カケルと翼の様子は、5月の連休に神社で会っていた渉から聞いていた。
「小母さんかぁ・・・私も随分と久しぶりにカケルの実家に行くからなぁ。 それにカケルからも小母さんの話を聞かないしなぁ」
「翔ちゃんは、一人暮らしだものね」
「小母さんが居たら、ママもお邪魔しちゃったら? 小母さんが居るかカケルに聞いてみようか?」
「いいわよ。 事前に何もしなくても、会える時には会えるものよ」
「え?」
「なに? そんなに驚いて」
「逢える時には逢えるの?」
(あ・・・もしかして反抗期じゃなくて・・・) 真名が心で呟くと少し眉を顰めた。
(もしそうだったら、パパになんて言おうかしら)
「ママ?」
「あ、ごめん。 そうよ、会える時には会えるものよ。 何も頑張らなくてもね」
「頑張らなくても?」
「そう。 ご縁があればね」 話を少し大きい括りにした。
「そうなんだ・・・」
「なぁに? どうしたの?」
「もし・・・」
「もし?」
「うん・・・もし“どこでもドア” があったら、行きたいところがあるんだけど、そこにご縁があると行けるのかなぁ?」
「“どこでもドア”? ドラえもんの?」 うっかりハンドルをおかしくしそうになった。
「ママにはそれが一番わかりやすいかなと思って。 でも“どこでもドア” なんてあるはずないし」
「・・・そう。 そんなに行きたいところがあるの。 そこは遠い所なの?」
「多分」 答える渉をチラッと見た。
(誤魔化して言ってる風ではないわね・・・どういうことなのかしら)
「あれ? ママ、道が違うわよ」
「ふふ、ケーキでも買っていきましょうよ」
「あ、JonJonのケーキ?」
「そう。 みんな好きでしょ?」
「きっとカケルが喜ぶわ」
「ふふ、渉ちゃんは翔ちゃんのことが大好きね。 その渉ちゃんの行きたいところに、翔ちゃんも一緒に行けるといいわね」
「・・・う・・ん」
(翔ちゃんとは行きたくないところ?)
ハンドルを切ってケーキ店JonJonの駐車場に入れた。