--- 映ゆ ---  第90回

大福りす
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shou~  第90回




連休に入った。
翼から連絡があり、神社に向かうため渉と翼が駅に居る。

「やっぱりカケルは来ないんだ」

「うん。 誘ったんだけどね」 下を向く渉を見ると続けて言った。

「ねぇ渉ちゃん、明るく行こうよ。 せっかく奏兄ちゃんとドンチャンするんだからさ」

「うん。 あの時の仕返しをしてやるから気合は入ってるよ」

あの時、奏和の演奏する頭の中にガンガンなるドラムの音を聞いた時、挙句にギターやヴォーカルのマイクを通した文化祭の雑爆音ことを言っている。

「仕返しって・・・あの時いっぱいチケット貰ってけっこう美味しい目をしたじゃん」

「酔い潰してやる」 二日酔いで頭を抱えている奏和の姿を思い浮かべる。

「こわっ・・・」

電車を降り、駅を出るとそろそろ待ち合わせの時間になる。

「奏兄ちゃんに連絡してみる」 翼がスマホを持ち奏和に電話をかけた。

「奏兄ちゃん? え? もう来てるの? うん、うん。 ああ、あった。 分かった、今から行くよ」 スマホをポケットに入れた。

「渉ちゃん、あそこの居酒屋にいるんだって」 指差されたのは奏和が前に順也と来た事のある居酒屋だった。

「ふーん・・・オッサンみたいなお店」

「渉ちゃん・・・徹底的に奏兄ちゃんにケンカ売ってるよね」

「そんなことない。 ほら、行こう」


「いらっしゃいませー」 店員の声に奏和が入り口をみて手を上げた。
前と同じく、カウンターではなく細かく仕切られた座敷に上がっている。 渉と翼がその座敷に上がり、二人並んで座った。

「なに呑む?」 奏和の前には既にジョッキが置かれていた。

「取り敢えずビール。 渉ちゃんもそれでいい?」

「うん」

「生中ふたつー」 奏和が大声で注文を入れた。

「奏兄ちゃん、毎週神社に来てるんだって?」

「ああ、一応な」 カケルへ神社に来ないように言った以上、それなりに責任を感じている。

「なんで姉ちゃん急に家に帰ってきたんだろ」

「まぁ、色々あるさ。 暫くは放っておいてやれよ」

つきだしと共にジョッキが運ばれてきた。 三人で乾杯をすると今日の本題、文化祭の話となった。

「俺、奏兄ちゃんがあんな風にドラムを叩いてたなんて知らなかったよ。 もうビックリ」

「ア・タ・シ・もー」 スンゴク嫌味に言う。

「渉、生音を聞きに来てたんだろ? いい加減、機嫌直せよ」

「別に機嫌が悪いわけじゃないもん。 ホッケが食べたい」

「渉ちゃん、オッサンみたいって言いながら、大概ホッケもオッサンだけど?」

「まぁ、いいじゃん。 それで機嫌が直るんならさ。 はい、はい。 渉はホッケね。 翼は?」

「うーん、じゃ、ポテトとピザ」

「子供かよっ。 ホッケとポテトそれとピザ、1つづつ、お願いしますー」 カウンターに居る店員に言うと顔を戻した。

「姉ちゃんも感心してたよ」 つきだしの切り干し大根を箸に取った。

「翔が?」 思いもしない言葉だった。

「うん。 あんな奏兄ちゃん初めて見たって」

「だよねー。 いーっつもヘラヘラしてるだけだもんねー」

「これ、渉ちゃん!」

「いい、いい。 放っておいたらそのうち機嫌も直るさ」

「うん、まぁ・・・奏兄ちゃんがいいなら。 で、奏兄ちゃんは音楽やっていくの?」

「まぁなぁ・・・」

「なに? 迷ってるの?」

「ちょっと前まではこんな事なかったのになぁ・・・」

「どうしたのさ」

「いやさ、前まではどんな事をしても、バンドで成功させたいなんて思ってたんだけどさ」 クイっとビールを呑んだ。

「うん、それで?」 翼も同じようにジョッキを傾ける。

渉が二人が話すたび、横の翼を見たり前の奏和を見たり顔を動かしている。

「色々感じることがあるんだよ」 ジェネレーションギャップもそうだが、あの時、文化祭のステージ上からカケルを見止めた一瞬にミスった事も大きな原因だった。

「色々ってなに?」

「まぁな、前に比べて集中力も切れるしさ、俺も歳を取ったのかなってさ。 生中ひとつー」 話の最後に店員に言う。

ジョッキを両手で持ち、チビチビとやっていた渉が(少なくとも2杯目~) と奏和を見ている。

「姉ちゃんから聞いたけど、途中でミスったんだって?」

「ああ。 あんな場所でミスるなんて初めてだよ」 刺身を口に入れた。

(食べてないで呑みなさいよ) 渉がじっと奏和を見る。

「ふーん、ステージだからミスったの?」

「んな分けない。 俺って緊張しないタイプだし」

「ああ、そう言えば俺、あの時思ったんだよね」 

「うん? なに?」 運ばれてきたビールをすぐに一口呑んだ。

(チマチマ呑んでんじゃないわよ。 グビグビ呑みなさいよ)

「っと、その前に」 言うと、目の前に座る渉に目を遣った。

「渉、さっきから何?」

「な・・・何って?」

「なにをガン見してくれてんの?」

「してない」 プイと横を向くと、丁度ホッケとポテトとピザが運ばれてきた。

「あ、ホッケー」 前に置かれるとすぐに箸で突きだした。

「まぁ、大人しく食べてたらいいけど。 で? 翼が何を思ったって?」

「うん、奏兄ちゃんって興奮しないのかなって」 ホッケを突いている渉を見ながら言う。

「興奮?」

「ほら、あの時、演奏が終わって間もないのに、俺達のところにいつも通りに来たじゃん。 普通だったらあの歓声の中だよ、興奮覚めやらぬってなりそうなものなのに」 ピザを一枚手に持った。

「ああ、そういうことか。 わりといつもあんな感じかな。 そう言えばメンバーは興奮してるな」 自分も若い頃は些細なことにでも感情の起伏があったな、とここでまたメンバーとの差を再認識してしまいビールをあおった。

「ふーん。 そうなんだ」

「翼、ビール呑んじゃえよ。 日本酒飲もうぜ」

(そうだ、そうだ。 呑んじゃえ呑んじゃえ。 チャンポンしちゃえ)

翼が一気にジョッキを飲み干すと、二人で日本酒を飲み始めた。

「そうだ、お前たちの噂が持ちきりでさ」 クイっと日本酒を口に入れた。 すかさず渉が酌をする。

「おっ、なんんだよ」 さっきまでの態度と違う渉を見た。

「文句あるの?」

「いえ、有難うございます」 不思議がりながらもまた呑むと、またもや渉が注いだ。

「お前たちって?」 こちらも同じく日本酒を呑むと、お猪口を振って渉に見せる。

「翼君はあんまり呑んじゃだめだよ」 でないと銚子の酒がすぐに無くなってしまう。

「なんでだよー。 注いでよー」 仕方ないという感じでしぶしぶ渉が注いだ。

「翔と翼。 お前ら姉弟」 二人を見ながら奏和が話を進めた。

「え? 俺と渉ちゃんのお似合いカップルじゃなくて?」 渉が呆れて徳利を置くと、翼が頼んだもう冷めた最後のピザの一枚を手に取った。

「ああ、渉のことはお前たちにくっ付いてたお子様とか、コバンザメって言われてるよ」

「ぶー、なによそれ!」 ピザを口に入れようとした手が止まった。

「言っとくけど、俺が言ったんじゃないからな」 これ以上渉を怒らせないように念を押した。

「奏兄ちゃんの学校の人たちって見る目がないな。 ねー、渉ちゃん」 渉を見るが完全にブータレて、一気にピザを一枚口に入れてしまい喋ることの出来ない状態だ。

「なに言ってんだよ。 お前たち二人にまた会わせろって、あちこちから突かれてんだぜ」

「なんで? 俺らが奏兄ちゃんと知り合いって、バンドのメンバー以外誰も知らないはずじゃん」

「メンバーがあっちこっちに言いまくったんだよ。 翔と話したのは自分達だけだって」

「ああ、姉ちゃんね。 まっ、姉ちゃんの顔の良さは分からなくもないからな」

「お前だってだよ」 お猪口に残ってた酒を一気に呑むと、手酌をしかけて空になっているのが分かった。 「日本酒お替りー」


「明日が楽しみだなぁー。 奏ちゃん、あの時の私の頭の痛みを思い知るがいい」 言うとビールをチビチビ呑みながら、もう一度二人を見遣った。

「さーて、どうしようかな?」 

渉の目の前で二人が完全に潰れている。 奏和も翼も話が段々と盛り上がると、日本酒から焼酎に切り替えて何杯も呑んでいた。

「小父さんに電話して迎えに来てもらおうかな」 翼の食べ残しの、もう冷めたポテトを口に入れると二人の会話を思い出していた。

「カケルは神職の道に行くのかなぁ・・・」 

二人の最後の会話がそれであったが、ヨッパライの二人はマトモな事を言っていなかった。

「いらっしゃいませー」 客が入ってきて、渉たちの座る座敷を通り過ぎようとしたとき「あれ?」 と聞こえた。

渉が顔を上げると一人の男が奏和の顔を覗き込んでいる。

「わっ、やっぱり奏和」

「あ・・・たしか奏ちゃんのお友達。 前に奏ちゃんを神社まで運んできてくれましたよね」

「ピンポーン。 って、やっベー、イヤなところを見ちゃったなー」