--- 映ゆ --- 第108回
『---映ゆ---』 目次
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「ん? これって? なんだ?」 一瞬目が止まったが、再度読み進める。
「え? ・・・まさか。 ・・・これが関係あるのか?」 数行書かれている文言に頭を捻る。
伊達に現代を生きているつもりはないが、書かれていることが現実的ではなさすぎる。 あまりにも・・・未来形に近いのではないかと思う。
それとも現代に生きている身から一つのことを見て考えて、未来形じゃないかと思うことが間違っているのだろうか? 自分は時代遅れなのだろうか。
いや、そんなことはないはずだ。
現代という歳にあって、専門学校で若いヤツらと同じ感覚になれない時もたしかにある。 だからと言って、あくまでも平成生まれに違いないのだから。
でも、その平成生まれにしても、あまりに腑に落ちない文言。 古き教えとも思えない、単なる都市伝説のようなモノにしか思えない文字が目の前にある。
「宮司なのにこんな都市伝説みたいなことを事を信じてたのか? それとも単に書いただけで信じているわけじゃなかった?」 顎に手をやり考える。
「ありえない話だよな」 言うと日誌から目を離し、明るく灯るストーブを見た。
ずっと文字を追っていて疲れた。 ふと我が身の周りの顔が頭をよぎる。
「アイツらだったら何ていうのかなぁ・・・」
それは、ボサボサ茶髪のボーカル、ストレートの茶髪を束ねたギタリスト、ボーカルと同じ髪の印象があるが、顎の細いボーカルと違って真四角と言っていいほど顎の張ったボサボサ茶髪のベーシスト。 そう、バンドのメンバーの顔が浮かんだ。
「面白おかしく囃し立てるんだろうな・・・」
小さなことにも囃し立てるメンバー。 そんなところについて行けないと感じていた。 いや、ついて行けない、そうじゃない。 同じ時に立てないと感じたんだ。 どうしてそこで笑うのか? 違うだろ。 今はそうじゃないだろう。 そんなことが積み重なってきていた。
「練習・・・ずっとしてないな・・・」 自分の手に目を落とす。
「いつからスティックを持ってないかな・・・」 一つ息を吐いた。
「自分のことすらマトモに出来てないのに、渉のことを考えられるか・・・?」 渉の歪む姿を思い浮かべた。
「・・・放っておけない・・・だろ。 あんな事を放っておけるわけない。 渉の様子もおかしいのに」 あの時、崩れ落ちていた渉の姿を思い出す。
「ああ・・・」
渉のことを思い、声を漏らすと今を見ることが出来た。 少なくともバンドメンバーのことは今は関係ないと。
「もう少し他の物も読んでみないと・・・な」 手に持っていた日誌を閉じると次の日誌へ手を伸ばした。
神社から家に帰ってくると渉が早速真名に言った。
帰り道々考えていた。 次の満月まで会えない。 その間にシノハに何かを作りたいと。 それが何かを決めた。
「ママ、お裁縫教えて」
「え!? お裁縫?」 反抗期のように帰ってすぐに自分の部屋にこもる事はなかったが、思いもしない言葉に驚きが隠せない。
「うん、お裁縫。 えっと・・・生地を買いに行かなくちゃならないのよね。 今からじゃ遅い?」
「ちょ、ちょっと待って渉ちゃん。 いったいどうしたの?」
「作りたいものがあるの。 だから教えて。 それに生地の選び方も分からない」
「だから、そういうことじゃなくて・・・。 今まで針を持ったことがない渉ちゃんがどうして?」
「家庭科の授業でちゃんと持ったことあるもん」
「それはそうだけど・・・指に針を刺してばかりで、運針練習の生地が血だらけになったわよね?」
「そ・・・それは昔の話よ。 今はもう出来るはず」
「ハサミで糸を切るはずが、指を切ったわよね?」
「会社でハサミを使ってるけど、もう指なんて切らないもん」
「ママは渉ちゃんにお裁縫を教えられるのは嬉しいんだけど・・・」 久しぶりに会話を出来る事も嬉しい。
「だけど、なに?」
「きっとパパに怒られるわ」
「パパには自分で言う。 だから先に生地を買いに連れて行って」
「お裁縫って、いったい何を作る気なの?」 父親が卒倒しそうな顔が浮かぶ。
駅で渉と分かれたカケルと翼。 駅を降り、道々少々のバトルがあったが、家に着くなり具体的に玄関からバトルが再燃した。
「姉ちゃん、よくも渉ちゃんからのデートのお誘いをぶっ潰してくれたな!」
「アンタが渉の買い物に付き合って、その後ろくでもないところに引き込んだりしたら、どう責任取るつもりよ!」
「俺が渉ちゃんの嫌がる事をするわけないだろ! それに万が一そんなことがあっても、ちゃんと責任を取る! ってか、責任取らしてくれるんなら、どこにでも引っ張りこむ!」
「それって、万が一があるってことよね!? そんなヤツに渉を預けられるわけないでしょ! それに言ってる事がおかしいでしょ!」
「それはこっちのセリフ!! 姉ちゃんって、なんでトコトン俺と渉ちゃんの仲を裂くんだよ!」
「最低限、アンタが八岐大蛇をどうにかしない限りはね! 渉と歩いてるところを見られて、大蛇達が渉に嫌がらせをしたらどうするつもり!?」
「彼女達は渉ちゃんとは全然別だっ!」
「アンタがそう思っていても、大蛇たちはどうするか分からないでしょ! アンタ、女の恐さ知らなさ過ぎ!」
「知ってる、誰よりも! 姉ちゃん見てんだからー!」
「つーばーさー! どういう意味よ!」
「ちょっといい加減にしなさいよ。 帰る早々なんなの? それに八岐大蛇ってなんなの?」
家に入るなり姉弟の喧嘩を諫めた希美がお茶を淹れてリビングのテーブルに置く。 カケルと翼も置かれた茶を前にソファーに座ると真っ先にカケルが口を開いた。
「お母さん! 翼って大学で女の子と遊びまくってるのよ!」
カケルの剣幕に希美が円やかな目で答える。
「まぁねぇ。 男の子だからそれくらい仕方ないんじゃない?」
「ですよねー。 ほら、母ちゃんは俺の味方」
「何言ってるの!? お母さん! 甘すぎるわ! 勉強もしないで遊んでばっかりって!」
「そりゃね、大学休んだり成績が悪かったらお母さんも叱るわよ。 でもちゃんと行ってるし、成績もいい方だしね。 それで遊んでるんだからねぇ」
「は? 翼の成績がいいの?」 女の子と遊びまくってる翼の成績がいい? どういうこと? そのカケルの疑問に翼が答える。
「秀と優、時々良」 鼻高々に答える。
「は!?」
「俺って姉ちゃんと違って頭良いの」
「私と違っては余計でしょ! それに天気予報みたいな言い方をするんじゃないわよ!」
「翔、落ち着きなさいよ。 だからね、翼が少々好きな事をやっても何も言わないの。 ただ、出来ちゃっただけは駄目って言ってあるの」
「で・・・出来ちゃった、って・・・」
「男の子の親だもの。 そんなものよ」
希美の言葉にカケルが蒸気する。
「そんなものじゃないわよ! 絶対に奏和の小母さんはそんなこと言わないわよ!」
「そうねぇ・・・。 雅子さんの所は神社だし、奏ちゃんは一人っ子だからねぇ。 でも、ほら、うちは翼が二人目じゃない?」
希美の呑気な言葉にカケルがイラ立つ。
「そんな呑気な事言って! もし出来ちゃったになったらどうするの!?」
「駄目って言ってあるけど、まぁ・・・その時はその時かな?」
「はぁ!? その時かなって! ・・・私はそんなの絶対にイヤ! そんなのを義理の妹だとは思いたくもないし、言いたくもないからね!」
「だから姉ちゃん。 それはないって。 母ちゃん、帰る前から急に姉ちゃんの機嫌が悪くなったんだよ」
「あら? また奏ちゃんとケンカでもしたのかしら?」
「してない! ・・・もう、知らない!」 あまりにもゆっくりと構えている希美に苛立ちを押さえることが出来ず、ドンドンと足音を鳴らして二階に上がっていった。
その姿を見送った希美。
「翼、翔じゃないけど出来ちゃっただけはやめてよ」
「分かってまーす」
真名と車でデパートへ来た渉。
「青色がいいの?」
「うん。 とっても綺麗な青色がいいの」
「一色? 模様なし?」
「あ・・・」
(ホッペとくちばしが赤だった・・・)
「赤が混じってもいい」
「ん? 水玉とか、チェック柄とか色々あるけど、どうするの?」
「うわぁ・・・迷う」
「それに渉ちゃんが言うほど丈夫に作ろうと思ったら、硬い生地になっちゃうけど、それじゃあ作れないわよ。 せめてそこまで硬くない、木綿の生地でないと」
「えー・・・」
生地など見に来たことがない。 そこで木綿の生地と言われても、余りに漠然としてしまって具体的に分からない。 焦点が絞れないまま店の中を見渡していると、何か思いついたように真名が小さく声を上げた。
「あ、そう言えば・・・」
「なに?」
「青に赤・・・」 真名が頬に手を当てる。
「ママ?」
「渉ちゃんが小さい時に作った着物。 正絹の着物。 青地に赤の模様の入った。 アレじゃ駄目? 正絹だから丈夫よ」
「え? 着物を破くの?!」 目を大きく開けて驚く。
「そんなことしないわ。 端切れがあるの」 人差し指を口に当て、どんな青だったかを思い出そうとする。
「綺麗な青だった?」
「着物だから洋服の様に綺麗って聞かれたら困っちゃうけど、素敵な色だったわよ。 パパが女の子なのに青の着物だなんて、って言ったけど、それを押してでも作りたかった色だったから」
「でも、端切れでしょ? それで作れるの?」
「渉ちゃんは小さかったから、端切れっていっても結構大きいのよ」
(そっか・・・私が着た着物の生地か・・・。 もし、綺麗な青だったらそれが一番いい)
「ね、ママ。 一度帰ってその生地が気にいらなかったら、また一緒に来てくれる?」
「いくらでも付き合うわよ」 久しぶりに見る渉の笑顔。
「ありがとう。 じゃ、一度家に帰って見てみる」
「そうしましょうか。 でも帰る前にお茶なんてどう?」
「早く着物を見て見たい」
「そう? じゃ、帰りましょうか」 フラれちゃった、と心で呟いた。
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「ん? これって? なんだ?」 一瞬目が止まったが、再度読み進める。
「え? ・・・まさか。 ・・・これが関係あるのか?」 数行書かれている文言に頭を捻る。
伊達に現代を生きているつもりはないが、書かれていることが現実的ではなさすぎる。 あまりにも・・・未来形に近いのではないかと思う。
それとも現代に生きている身から一つのことを見て考えて、未来形じゃないかと思うことが間違っているのだろうか? 自分は時代遅れなのだろうか。
いや、そんなことはないはずだ。
現代という歳にあって、専門学校で若いヤツらと同じ感覚になれない時もたしかにある。 だからと言って、あくまでも平成生まれに違いないのだから。
でも、その平成生まれにしても、あまりに腑に落ちない文言。 古き教えとも思えない、単なる都市伝説のようなモノにしか思えない文字が目の前にある。
「宮司なのにこんな都市伝説みたいなことを事を信じてたのか? それとも単に書いただけで信じているわけじゃなかった?」 顎に手をやり考える。
「ありえない話だよな」 言うと日誌から目を離し、明るく灯るストーブを見た。
ずっと文字を追っていて疲れた。 ふと我が身の周りの顔が頭をよぎる。
「アイツらだったら何ていうのかなぁ・・・」
それは、ボサボサ茶髪のボーカル、ストレートの茶髪を束ねたギタリスト、ボーカルと同じ髪の印象があるが、顎の細いボーカルと違って真四角と言っていいほど顎の張ったボサボサ茶髪のベーシスト。 そう、バンドのメンバーの顔が浮かんだ。
「面白おかしく囃し立てるんだろうな・・・」
小さなことにも囃し立てるメンバー。 そんなところについて行けないと感じていた。 いや、ついて行けない、そうじゃない。 同じ時に立てないと感じたんだ。 どうしてそこで笑うのか? 違うだろ。 今はそうじゃないだろう。 そんなことが積み重なってきていた。
「練習・・・ずっとしてないな・・・」 自分の手に目を落とす。
「いつからスティックを持ってないかな・・・」 一つ息を吐いた。
「自分のことすらマトモに出来てないのに、渉のことを考えられるか・・・?」 渉の歪む姿を思い浮かべた。
「・・・放っておけない・・・だろ。 あんな事を放っておけるわけない。 渉の様子もおかしいのに」 あの時、崩れ落ちていた渉の姿を思い出す。
「ああ・・・」
渉のことを思い、声を漏らすと今を見ることが出来た。 少なくともバンドメンバーのことは今は関係ないと。
「もう少し他の物も読んでみないと・・・な」 手に持っていた日誌を閉じると次の日誌へ手を伸ばした。
神社から家に帰ってくると渉が早速真名に言った。
帰り道々考えていた。 次の満月まで会えない。 その間にシノハに何かを作りたいと。 それが何かを決めた。
「ママ、お裁縫教えて」
「え!? お裁縫?」 反抗期のように帰ってすぐに自分の部屋にこもる事はなかったが、思いもしない言葉に驚きが隠せない。
「うん、お裁縫。 えっと・・・生地を買いに行かなくちゃならないのよね。 今からじゃ遅い?」
「ちょ、ちょっと待って渉ちゃん。 いったいどうしたの?」
「作りたいものがあるの。 だから教えて。 それに生地の選び方も分からない」
「だから、そういうことじゃなくて・・・。 今まで針を持ったことがない渉ちゃんがどうして?」
「家庭科の授業でちゃんと持ったことあるもん」
「それはそうだけど・・・指に針を刺してばかりで、運針練習の生地が血だらけになったわよね?」
「そ・・・それは昔の話よ。 今はもう出来るはず」
「ハサミで糸を切るはずが、指を切ったわよね?」
「会社でハサミを使ってるけど、もう指なんて切らないもん」
「ママは渉ちゃんにお裁縫を教えられるのは嬉しいんだけど・・・」 久しぶりに会話を出来る事も嬉しい。
「だけど、なに?」
「きっとパパに怒られるわ」
「パパには自分で言う。 だから先に生地を買いに連れて行って」
「お裁縫って、いったい何を作る気なの?」 父親が卒倒しそうな顔が浮かぶ。
駅で渉と分かれたカケルと翼。 駅を降り、道々少々のバトルがあったが、家に着くなり具体的に玄関からバトルが再燃した。
「姉ちゃん、よくも渉ちゃんからのデートのお誘いをぶっ潰してくれたな!」
「アンタが渉の買い物に付き合って、その後ろくでもないところに引き込んだりしたら、どう責任取るつもりよ!」
「俺が渉ちゃんの嫌がる事をするわけないだろ! それに万が一そんなことがあっても、ちゃんと責任を取る! ってか、責任取らしてくれるんなら、どこにでも引っ張りこむ!」
「それって、万が一があるってことよね!? そんなヤツに渉を預けられるわけないでしょ! それに言ってる事がおかしいでしょ!」
「それはこっちのセリフ!! 姉ちゃんって、なんでトコトン俺と渉ちゃんの仲を裂くんだよ!」
「最低限、アンタが八岐大蛇をどうにかしない限りはね! 渉と歩いてるところを見られて、大蛇達が渉に嫌がらせをしたらどうするつもり!?」
「彼女達は渉ちゃんとは全然別だっ!」
「アンタがそう思っていても、大蛇たちはどうするか分からないでしょ! アンタ、女の恐さ知らなさ過ぎ!」
「知ってる、誰よりも! 姉ちゃん見てんだからー!」
「つーばーさー! どういう意味よ!」
「ちょっといい加減にしなさいよ。 帰る早々なんなの? それに八岐大蛇ってなんなの?」
家に入るなり姉弟の喧嘩を諫めた希美がお茶を淹れてリビングのテーブルに置く。 カケルと翼も置かれた茶を前にソファーに座ると真っ先にカケルが口を開いた。
「お母さん! 翼って大学で女の子と遊びまくってるのよ!」
カケルの剣幕に希美が円やかな目で答える。
「まぁねぇ。 男の子だからそれくらい仕方ないんじゃない?」
「ですよねー。 ほら、母ちゃんは俺の味方」
「何言ってるの!? お母さん! 甘すぎるわ! 勉強もしないで遊んでばっかりって!」
「そりゃね、大学休んだり成績が悪かったらお母さんも叱るわよ。 でもちゃんと行ってるし、成績もいい方だしね。 それで遊んでるんだからねぇ」
「は? 翼の成績がいいの?」 女の子と遊びまくってる翼の成績がいい? どういうこと? そのカケルの疑問に翼が答える。
「秀と優、時々良」 鼻高々に答える。
「は!?」
「俺って姉ちゃんと違って頭良いの」
「私と違っては余計でしょ! それに天気予報みたいな言い方をするんじゃないわよ!」
「翔、落ち着きなさいよ。 だからね、翼が少々好きな事をやっても何も言わないの。 ただ、出来ちゃっただけは駄目って言ってあるの」
「で・・・出来ちゃった、って・・・」
「男の子の親だもの。 そんなものよ」
希美の言葉にカケルが蒸気する。
「そんなものじゃないわよ! 絶対に奏和の小母さんはそんなこと言わないわよ!」
「そうねぇ・・・。 雅子さんの所は神社だし、奏ちゃんは一人っ子だからねぇ。 でも、ほら、うちは翼が二人目じゃない?」
希美の呑気な言葉にカケルがイラ立つ。
「そんな呑気な事言って! もし出来ちゃったになったらどうするの!?」
「駄目って言ってあるけど、まぁ・・・その時はその時かな?」
「はぁ!? その時かなって! ・・・私はそんなの絶対にイヤ! そんなのを義理の妹だとは思いたくもないし、言いたくもないからね!」
「だから姉ちゃん。 それはないって。 母ちゃん、帰る前から急に姉ちゃんの機嫌が悪くなったんだよ」
「あら? また奏ちゃんとケンカでもしたのかしら?」
「してない! ・・・もう、知らない!」 あまりにもゆっくりと構えている希美に苛立ちを押さえることが出来ず、ドンドンと足音を鳴らして二階に上がっていった。
その姿を見送った希美。
「翼、翔じゃないけど出来ちゃっただけはやめてよ」
「分かってまーす」
真名と車でデパートへ来た渉。
「青色がいいの?」
「うん。 とっても綺麗な青色がいいの」
「一色? 模様なし?」
「あ・・・」
(ホッペとくちばしが赤だった・・・)
「赤が混じってもいい」
「ん? 水玉とか、チェック柄とか色々あるけど、どうするの?」
「うわぁ・・・迷う」
「それに渉ちゃんが言うほど丈夫に作ろうと思ったら、硬い生地になっちゃうけど、それじゃあ作れないわよ。 せめてそこまで硬くない、木綿の生地でないと」
「えー・・・」
生地など見に来たことがない。 そこで木綿の生地と言われても、余りに漠然としてしまって具体的に分からない。 焦点が絞れないまま店の中を見渡していると、何か思いついたように真名が小さく声を上げた。
「あ、そう言えば・・・」
「なに?」
「青に赤・・・」 真名が頬に手を当てる。
「ママ?」
「渉ちゃんが小さい時に作った着物。 正絹の着物。 青地に赤の模様の入った。 アレじゃ駄目? 正絹だから丈夫よ」
「え? 着物を破くの?!」 目を大きく開けて驚く。
「そんなことしないわ。 端切れがあるの」 人差し指を口に当て、どんな青だったかを思い出そうとする。
「綺麗な青だった?」
「着物だから洋服の様に綺麗って聞かれたら困っちゃうけど、素敵な色だったわよ。 パパが女の子なのに青の着物だなんて、って言ったけど、それを押してでも作りたかった色だったから」
「でも、端切れでしょ? それで作れるの?」
「渉ちゃんは小さかったから、端切れっていっても結構大きいのよ」
(そっか・・・私が着た着物の生地か・・・。 もし、綺麗な青だったらそれが一番いい)
「ね、ママ。 一度帰ってその生地が気にいらなかったら、また一緒に来てくれる?」
「いくらでも付き合うわよ」 久しぶりに見る渉の笑顔。
「ありがとう。 じゃ、一度家に帰って見てみる」
「そうしましょうか。 でも帰る前にお茶なんてどう?」
「早く着物を見て見たい」
「そう? じゃ、帰りましょうか」 フラれちゃった、と心で呟いた。