--- 映ゆ ---  第100回

大福りす
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shou~  第100回




「小父さん、小母さん、こんばんはー」 宮司の家の玄関を開けると、カケルが大きな声で言った。

台所から出てきた雅子。

「まぁ、まぁ、翔ちゃん!」

「小母さん、ご迷惑をおかけしちゃってすみません」 申し訳なげに言うが、雅子の顔を見てカケルの顔が今まで以上にほころんだ。

「そんなことはいいのよ。 いやだわ、奏和ったら渉ちゃんと翼君がくるって言ってたのに翔ちゃんのことまで言ってなかったわ。 さぁさぁ、上がって。 渉ちゃんも翼君も」

「翔か?」 奥の部屋から宮司が顔を出した。

「あ、小父さん」 丁度玄関を上がったカケルが顔を上げた。

「翔! 元気だったか?」 目を大きく開けて、満面笑みである。

「はい。 その、ご迷惑をおかけしてすみません」

「ああ、そんなことはいい。 翔の顔を見られただけでうれしいよ」 宮司のその言葉にカケルが満面の笑みを返す。

カケルの様子を見ていた渉と翼が目を合わせた。

「カケルの元気の素はここかもしれないね」

「うん、そうかもね」

「よっ、やっと着いたか」 奏和が部屋から出てきてそのまま和室に入った。

和室ではいつも上座に宮司。 そしてその左手にカケル、翼、雅子と順に座り、右手に奏和、その隣に渉が座る。
奏和がいつも通り座ると翼が奏和を押した。

「奏兄ちゃん、席変わろうよ」

「あん?」

「俺が渉ちゃんの横に座るから、奏兄ちゃんは姉ちゃんの隣に座って。 ほら、早く」

「お前、まだそんなお子様ランチみたいなことを言ってるのか?」

「姉ちゃんの邪魔が多すぎるんだよ。 それに渉ちゃんも姉ちゃんがいないと相手してくれないし」

「ハッ、徹底的に邪魔されろ。 ほら、あっちに行け。 渉、早くここに座れよ」 奏和が自分の座る横をパンパンと叩いた。

「え? だってお手伝い」

カケルはすぐに台所に入り手伝っている。

「渉が何を出来るわけないだろうが」 奏和のその声を聞いたカケルがすかさず言う。

「奏和、渉にだって配膳くらい出来るわよ」 沢山のおかずを乗せたお盆をテーブルの上に置いた。

「カケル・・・その言い方オカシクナイ?」 言いながらも、奏和の隣に座る。

「あー! 渉ちゃんが座った。 奏兄ちゃんどいてよ!」

「うっさいなー。 あっちで姉弟仲良く座っとけ!」

「あー、意味分んない。 なんでそんなに渉ちゃんの横がいいんだよ!」

「だれも渉の横がいいなんて言ってないだろが。 ここが俺の席なの!」

「なに? 奏ちゃんのその言い方? それって私を無視してない?」

「え? なに? 俺の横に座ってほしいって言ってほしいの?」

「バッカじゃない?」

奏和、渉、翼のやり取りを見ていて、宮司と雅子に笑みがこぼれる。

「奏和に兄弟姉妹がいたらこんな感じだったのかしら」 瓶ビールを適当に置きながら雅子が言う。

「だったら毎日騒々しいな」 宮司も言う。

「え? やめてくれよ。 こんなにうるさい妹も弟もいらないよ。 もっと・・・そうだな、淑やかな妹が欲しいかな?」

「奏ちゃん、どういう意味よ!」

「右に同じ!」 翼が奏和の手を引っ張りながら言う。

「翼・・・しつこいんだよ。 離せよ!」 。

「翔ちゃんはどう? 奏和の妹とか―――」 三人のやり取りを見て、雅子がカケルに聞いた言葉の途中でカケルが答えた。

「有り得ません」 一刀両断とはこのことだろうか。

「ああ、とにかく座ろう。 ほら、翼、諦めろ」 宮司に言われ渋々翼が席に着いた。

「母さん、翼にビールを注いでやって」 その言葉が始まりとなって、カケルが宮司にビールを注ぐ。

「奏ちゃんは自分で注いでね」 毎度のことかと、奏和が手酌でビールを注ぎ、渉も自分のコップにビールを注いだ。

「全員が揃ったのは半年ぶりくらいだな」 

乾杯をすると、雅子の料理を食べながらそれぞれの雑談が続く。

「翔、ずっと何してたんだ?」

「家事ばっかりしてました」

「小父さん、そのお蔭で俺肩身が狭かったんだよ」

「アンタがキチンとしないからでしょ!」

「翔ちゃんは綺麗好きだからね。 だから授与所も社務所もいつも綺麗にしてくれてたものねぇ」

「言われるほどは出来てないですけど」

向かいで話す様子を見ていた奏和が少し声を低めて渉に話しかけた。

「渉」

「ん? なに?」

「あんまり食べてないけど、どうした?」 いつもならどれを食べようかと目を皿にしているはずだ。

「そう? そんなことないよ」 箸を泳がす。

「な、俺がメールした時、本当に家にいた?」

「え? ・・・ああ、あの時ね。 居たよ。 なに? 返事が遅かったからそう思うの? あの時は奏ちゃんの着信した途端、翼君から電話が入って話してたんだもん。 って、あんな夜遅くに私がどこへ行くって言うのよ」 口を尖らせて聞き返す。

「あ、ああ、そうだな。 家にいたんだよな」

「何言ってんの? メールでもそう書いたでしょ? 変な奏ちゃん」

「・・・一人で神社に来たことある?」 およがしていた渉の箸が止まった。

「なんでそんなこと聞くの?」 平静を装おうと、慌てて動作を続けた。

「いや、なんとなく渉が一人で神社に来られるのかなって? ほら、いつも誰かと一緒じゃん?」

「そんなことないよ。 カケルと神社で待ち合わせしてる時は一人で来てるもん」 

(一人で来てたのがバレてたの?) 心臓が躍ってしまいそうだ。

「あ、そうなんだ・・・じゃ、翔がいないときに一人で来たりする?」

「なに?」 思わず奏和の目を見て、何が聞きたいの、と言いたかったが、何かを聞かれても困る。

「ああ、なんでもない。 渉も大きくなったんだな」 渉の返事の仕方がおかしい。 勘繰ってしまう。
(おかしい・・・順也の見間違えか、勘違いでもなさそうだな。 俺もやっぱり見間違えじゃなかったんだろう。 それにしてもなんで神社に来たことを、隠さなきゃいけないんだ?)

「なにそれ?」 
(バレてない?)

「だから、そんなに大きくなったんなら料理も出来なくちゃな、ってことだよ」

「奏ちゃんが食べるって言うなら作るけど?」 泳がしていた箸を何を取ることもなく置いた。
(良かった、バレてなかった・・・)

「あ・・・遠慮します」

渉のバッグの中でメールの着信音が鳴った。 バッグからスマホを出す。

「あ・・・樹乃。 そう言えば返信するのを忘れてた」 

「だれ? 彼氏?」 奏和の言葉にすかさず翼が席を立った。

「んなわけない。 会社の友達」 返信を打ち始めた。

《ゴメン、返事するの忘れてた。 元気だよ。 何ともない。 連休明けには出勤するから》

「なに? 渉ちゃん会社休んでたの?」

「げっ! なんで見るのよ!」 思わずスマホを隠した。

「渉、どうしたんだ? 会社を休んでいたのか? 具合でも悪かったのか?」 宮司が声をかける。 奏和はそのまま皆の声を聞いておくことにした。

「そうなの? 渉ちゃん、具合が悪いのに今日来てもよかったの?」

「うううん、具合が悪いんじゃなくて・・・有給消化」

「渉、ホントに何でもないの?」

「カケルまで何を言うのよ。 あんまり有給を持ってるとうるさく言われるんだもん」 嘘ではないと自分に言いきかせる。

「だったら、遊びに来てくれたらよかったのに」

「あ・・・ごめん。 ちょっと用があって」

(用? その用ってなんだ?) 奏和が心の中で問う。

「渉ちゃん! その用って何だよ。 俺以外の男と逢ってたんじゃないだろうな。 それに今送った相手は誰だよ。 会社の友達って男じゃないんだろうな」

「だから翼君・・・バカ?」

「また言うー!!」

(ったく、翼のヤツ要らないことを!) 奏和がどこかにヒントが見えないかと探っていたのに、翼がぶっ壊してくれた。

実は、前日最後の有休をとって神社に来ていた。 が、宮司と雅子の目をかいくぐることが出来なかった。