--- 映ゆ --- 第80回
『---映ゆ---』 目次
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足早に家に向かうと、ソロっと縁側のある方を覗いた。 すると、縁側の窓越しに部屋の中を覗いている。 ましてやカメラをその目に当てた。
「オイ!」 奏和が大声で怒鳴った。 三日酔いがなくてよかった。
その声に男が大きく肩をビクつかせた。
「何してんだ!」 歩み寄る。
「あ・・・えっと、ここ社務所ですよね」 白々しい言い訳にしか聞こえない。
「どう見たって宮司の家だろうが。 何をコソコソ撮ってるんだ」
「あ、社務所だと思って」
「巫女も撮ってたよな」 奏和の言葉に、粗忽な振りをしていた男が態度を変えた。
「アンタ誰?」 男が声音を変えて怪訝そうな顔を向ける。
「宮司の息子だ」 その言葉に一瞬驚いた顔を隠せない。
「ああ・・・ここの息子か。 悪かったなここを社務所だと思っていた俺の勘違いだ」 言うと、立ち去ろうと一歩出した。
「待てよ。 白々しいことを言ってんじゃないよ。 何度も来て巫女の写真を撮ってるだろう」
「そりゃ、カメラを持ってると美人さんの写真は撮りたいさ」
「去年から通い詰めでか?」
男が奏和を睨んだ。
「町で週刊誌の記者とも会ってたな。 フリーのカメラマンさんよ」
フッと鼻を鳴らすと男が横を向いた。
「そこまで知ってんのか」
「残念だがそこまでだ。 アンタが何のために巫女を撮っているのかは知らない。 でもアンタが話さないんだったら、この状況をそのまま警察に言うまでだ」
「社務所と勘違いしただけでか?」
「地元の神社、舐めんなよ」
面倒臭そうに持っていたカメラを下すと、奏和の言葉にふてぶてしい態度で答える。
「ミオンって知ってるか?」
「ミオン?」 何のことかと眉を顰める。
「知らないか。 今話題のモデル・・・とまではいかないが、これから売れるだろうモデルだ」
(・・・ミオン・・・あれ? どこかで聞いたことがあるなぁ。 ・・・俺がモデルなんて知ってるはずないか。 気のせいか)
気のせいなんかではない。 しっかりとミオンと名乗っている翔と会っていた。 が、何の興味も示さなかったのだから、覚えているはずはないであろう
「それが?」
「アンタんとこの巫女さんが、そのミオンだろうと俺は踏んでる」
「は?」 思わず素っ頓狂な声が出た。
「モデルの時と、巫女の時では全然違うからな、一見ではわからないし、事務所もミオンを囲ってて住まいも分からないから、ミオンのモデル以外の顔が見られない。
あの巫女さん、ここへは通いだろ? 後をつけようとしたけど、車でバスは追えるけど、その後は細い道を走る自転車が追えなくてな、失敗ばかりしてさ。 で、ここに何かないかと思ったってわけだ」
「残念ながらここには何もない。 それに、アンタの勘違いだろう」
「あの巫女さん、バーガーショップのバイトも辞めてるぜ。 親に仕送りでもしてもらってるのか?」
「え? バイトを辞めてる?」
「とっくにな」
「・・・」 考える。
「さ、これが全部だ。 もういいだろ」
「アンタ・・・もし巫女がそのミオンってモデルったらどうしようと思ってんだ?」
「そりゃ、スクープさ。 まだこれからのモデルだから、大スクープとまではいかないけどな。 モデル同士の争いに勝った人気モデルが本物の巫女だぜ」 嫌な口元をする。
「争い?」
「ああ、売れる者は叩かれるからな。 実際やられてるみたいだしな」
奏和が口を閉じた。
「まぁ、慰めてやれば? 女って陰湿で怖いからな。 もう少し固めてこれが記事になったら、この神社にも参拝者が増えるぜ。 その時には俺に感謝しろよな」 言うとサッサと歩いて行った。
カメラマンは色々調べたようだったが、大切な事を調べていなかった。 カケルが単なる巫女助勤ではないという事を。 そしてそんな事で参拝者が増えて喜ぶ神社ではないということも。
男の後姿を見送った。 今日は諦めたのか、鳥居をくぐって出て行った。 その姿を見届けるとふと思い出したことがあった。
(あの時・・・) 磐笛を初めて教えた日。
(ダイエットししてると言ってた。 それに『仕方な・・・ダイエットは女の永遠の課題なの!』 と言ってた。 仕方ない、と言いかけていたのはモデルの仕事があったからなのか? それでダイエットだったのか?)
その時のことを想起し、一人佇む奏和。 鳥居をくぐる人が目には映っているが、その姿は目の奥には入ってこない。 騒めきも聞こえない。
夕方、カケルが授与所から帰ってきた。 そのカケルを台所で待ち構えていた奏和。
「翔・・・」 まで言うと、タタタと廊下を走ってくる音がする。
「カケルお帰り」 台所に飛び込んできた。
「渉、まだ居たの?」
「なに? その言い方」
「いや、だって、今日で連休終わりでしょ? いつもならお昼頃に帰るのに」
「カケルに何も言わないで帰るわけないでしょ。 今朝、カケルが疲れた顔してたから心配で待ってたのに」
「え? 疲れてないよ」
「だって、朝早くから頭痛薬も飲んでたし」
ケロッと色んなことを奏和に伝えている。 罪がないっていうのは、こういうことなのだろうか。
「そう言えば俺が二日酔いの時、頭痛薬くれたよな。 頭痛薬、持ち歩いてんの? 翔って、頭痛持ち?」
「そんなわけじゃないけど、最近ちょっとね」
「ふーん」 今は渉が居る、知らない振りをしておこう
「ね、カケルは何時に帰るの? 一緒に駅まで帰らない? 私、付き添ってあげるから」
「いやね、足腰の悪い老人じゃないんだから一人で帰るわよ。 それより、渉は今日も磐座に行ってたの?」
「え? ・・・まぁ・・・。 でも、山の掃除をしてた」 何をしても、シノハに逢えなかった。
「へっ!? 山の掃除?」 二人の会話を聞いていた奏和が何のことかと渉を見た。
「うん。 結構ごみがあったよ。 奏ちゃん、たまにしか帰ってこないんだから、知らないおじさんと話している時間があったら、山の掃除くらいしなくっちゃ」
「え!?」 奏和が息を飲んだ。
「知らない人だったんでしょ?」
(この間の抜けた、イヤ、料理も出来ない、こけてばかりの渉が何を聞いていたんだろう) 奏和が焦る。
「ちょっと話してただけで、そっか、忘れてた掃除サンキュ」
「どういたしまして。 私だって、ただ飯食べてるわけにはいかないもんね。 で、奏ちゃんはなんで座ってるの?」
「なんでって・・・俺の家じゃん?」
(渉って、本当に天然か? 全部わかってるのか? 計算ずく・・・いや、渉に限ってそれはあり得ない)
「小母さんに台所にある瓶類をゴミ置き場に出すように言われてたじゃないの? 小母さんが言ってたよ。 やっと台所が片付くって。 座ってていいの?」
「わっ! 忘れてた!」 慌てて沢山の瓶が入った大きな籠を抱えてゴミ置き場に走った。
奏和を見送ったカケル。
「そういう所はしっかりしてるのよね。 渉って」
「そういう所は、ってどういう事よ」
「やっぱ、そんなところが社会人・・・って言うか、会社勤めなのかなぁ」
「だから何?」
「広い目で見てるのよね。 それでそれを記憶してる。 ウッカリなんてないのよね」
「なに? あるわよ。 ウッカリだらけよ。 それに、今の話ってゴミの話ばっかりじゃない。 ゴミのことくらい出来るわよ。 ってか、そんなことばっかりやってる雑用が多いんだもん」
「社会人が雑用? ゴミの?」
「そうよ。 ビルの掃除のおじさんとおばさんは要るけど、些細なゴミなんて雑用ペーペーの仕事。 その些細なゴミが多いんだけどね」
と、そこに雅子が帰ってきた。
「遅くなっちゃった。 すぐに夕飯の用意をするからね。 渉ちゃんも食べて帰るでしょ?」
「あ・・・どうしようかなぁ。 あんまり遅くなると明日厳しいし」
「いいじゃない。 あとで奏和と一緒にお父さんに駅まで送ってもらいなさいよ。 翔ちゃんは今日は泊まるでしょ?」
「あ、明日用があるから帰ります」
「え? そうなの? 急に寂しくなるわねぇ。 でも、二人とも夕飯は食べて帰ってね」 前掛けを頭からかぶりながら言う。
「じゃ、着替えてきます」 カケルが泊まっている部屋に急いで戻った。
「小母さん、何か手伝おうか?」
雅子がギョッとした。
「いい、いい。 渉ちゃんは何もしなくていいから。 ゴミの掃除で疲れたでしょ、座って小母さんの話し相手になって」 以前、渉のその言葉に甘えてとんでもないことがあった。
「あれ? 母さん帰ってきてたの?」 勝手口から奏和が入ってきた。
「空瓶ありがとう。 スッキリとしたわ」 渉が奏和に笑みを向ける。
(これが翔だったら嫌味に見えるんだろうけど、不思議だな、渉にはそんな風に感じないんだよな)
「あれ? 翔は?」
「カケルは今着替えてる」
「そっか。 で、渉は何をしてるの?」
「小母さんの話し相手」
「今日は夕飯まで付き合ってもらうの。 お愛想なしになっちゃうけど、大急ぎで作るから」
「あ、そういうこと。 渉、ついでに料理教えてもらえば?」
驚きの一言に、渉の後ろで雅子が要らないことを言うな、と手でバツを作っている。 それを目に入れた奏和が何となく悟った。
「・・・あ、はい。 渉、今日で帰るんだから、たーっくさん話し相手してあげて。 俺、部屋に戻ってるから飯出来たら呼んで」
渉が頷き、すぐに椅子を動かして雅子の方に向けた。 本腰を入れて話し相手になるようだ。
台所を出た奏和がすぐにカケルのいる部屋に足を向けた。 部屋の前に立つ。
「翔、聞こえるか?」 閉められた襖の向こうに小声で話しかける。
「なに?」
「着替えが終わったら俺の部屋に来てくれ。 晩飯までに話があるから出来るだけ早くな」 返事はないが、聞こえただろう。
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- 映ゆ - ~Shou~ 第80回
足早に家に向かうと、ソロっと縁側のある方を覗いた。 すると、縁側の窓越しに部屋の中を覗いている。 ましてやカメラをその目に当てた。
「オイ!」 奏和が大声で怒鳴った。 三日酔いがなくてよかった。
その声に男が大きく肩をビクつかせた。
「何してんだ!」 歩み寄る。
「あ・・・えっと、ここ社務所ですよね」 白々しい言い訳にしか聞こえない。
「どう見たって宮司の家だろうが。 何をコソコソ撮ってるんだ」
「あ、社務所だと思って」
「巫女も撮ってたよな」 奏和の言葉に、粗忽な振りをしていた男が態度を変えた。
「アンタ誰?」 男が声音を変えて怪訝そうな顔を向ける。
「宮司の息子だ」 その言葉に一瞬驚いた顔を隠せない。
「ああ・・・ここの息子か。 悪かったなここを社務所だと思っていた俺の勘違いだ」 言うと、立ち去ろうと一歩出した。
「待てよ。 白々しいことを言ってんじゃないよ。 何度も来て巫女の写真を撮ってるだろう」
「そりゃ、カメラを持ってると美人さんの写真は撮りたいさ」
「去年から通い詰めでか?」
男が奏和を睨んだ。
「町で週刊誌の記者とも会ってたな。 フリーのカメラマンさんよ」
フッと鼻を鳴らすと男が横を向いた。
「そこまで知ってんのか」
「残念だがそこまでだ。 アンタが何のために巫女を撮っているのかは知らない。 でもアンタが話さないんだったら、この状況をそのまま警察に言うまでだ」
「社務所と勘違いしただけでか?」
「地元の神社、舐めんなよ」
面倒臭そうに持っていたカメラを下すと、奏和の言葉にふてぶてしい態度で答える。
「ミオンって知ってるか?」
「ミオン?」 何のことかと眉を顰める。
「知らないか。 今話題のモデル・・・とまではいかないが、これから売れるだろうモデルだ」
(・・・ミオン・・・あれ? どこかで聞いたことがあるなぁ。 ・・・俺がモデルなんて知ってるはずないか。 気のせいか)
気のせいなんかではない。 しっかりとミオンと名乗っている翔と会っていた。 が、何の興味も示さなかったのだから、覚えているはずはないであろう
「それが?」
「アンタんとこの巫女さんが、そのミオンだろうと俺は踏んでる」
「は?」 思わず素っ頓狂な声が出た。
「モデルの時と、巫女の時では全然違うからな、一見ではわからないし、事務所もミオンを囲ってて住まいも分からないから、ミオンのモデル以外の顔が見られない。
あの巫女さん、ここへは通いだろ? 後をつけようとしたけど、車でバスは追えるけど、その後は細い道を走る自転車が追えなくてな、失敗ばかりしてさ。 で、ここに何かないかと思ったってわけだ」
「残念ながらここには何もない。 それに、アンタの勘違いだろう」
「あの巫女さん、バーガーショップのバイトも辞めてるぜ。 親に仕送りでもしてもらってるのか?」
「え? バイトを辞めてる?」
「とっくにな」
「・・・」 考える。
「さ、これが全部だ。 もういいだろ」
「アンタ・・・もし巫女がそのミオンってモデルったらどうしようと思ってんだ?」
「そりゃ、スクープさ。 まだこれからのモデルだから、大スクープとまではいかないけどな。 モデル同士の争いに勝った人気モデルが本物の巫女だぜ」 嫌な口元をする。
「争い?」
「ああ、売れる者は叩かれるからな。 実際やられてるみたいだしな」
奏和が口を閉じた。
「まぁ、慰めてやれば? 女って陰湿で怖いからな。 もう少し固めてこれが記事になったら、この神社にも参拝者が増えるぜ。 その時には俺に感謝しろよな」 言うとサッサと歩いて行った。
カメラマンは色々調べたようだったが、大切な事を調べていなかった。 カケルが単なる巫女助勤ではないという事を。 そしてそんな事で参拝者が増えて喜ぶ神社ではないということも。
男の後姿を見送った。 今日は諦めたのか、鳥居をくぐって出て行った。 その姿を見届けるとふと思い出したことがあった。
(あの時・・・) 磐笛を初めて教えた日。
(ダイエットししてると言ってた。 それに『仕方な・・・ダイエットは女の永遠の課題なの!』 と言ってた。 仕方ない、と言いかけていたのはモデルの仕事があったからなのか? それでダイエットだったのか?)
その時のことを想起し、一人佇む奏和。 鳥居をくぐる人が目には映っているが、その姿は目の奥には入ってこない。 騒めきも聞こえない。
夕方、カケルが授与所から帰ってきた。 そのカケルを台所で待ち構えていた奏和。
「翔・・・」 まで言うと、タタタと廊下を走ってくる音がする。
「カケルお帰り」 台所に飛び込んできた。
「渉、まだ居たの?」
「なに? その言い方」
「いや、だって、今日で連休終わりでしょ? いつもならお昼頃に帰るのに」
「カケルに何も言わないで帰るわけないでしょ。 今朝、カケルが疲れた顔してたから心配で待ってたのに」
「え? 疲れてないよ」
「だって、朝早くから頭痛薬も飲んでたし」
ケロッと色んなことを奏和に伝えている。 罪がないっていうのは、こういうことなのだろうか。
「そう言えば俺が二日酔いの時、頭痛薬くれたよな。 頭痛薬、持ち歩いてんの? 翔って、頭痛持ち?」
「そんなわけじゃないけど、最近ちょっとね」
「ふーん」 今は渉が居る、知らない振りをしておこう
「ね、カケルは何時に帰るの? 一緒に駅まで帰らない? 私、付き添ってあげるから」
「いやね、足腰の悪い老人じゃないんだから一人で帰るわよ。 それより、渉は今日も磐座に行ってたの?」
「え? ・・・まぁ・・・。 でも、山の掃除をしてた」 何をしても、シノハに逢えなかった。
「へっ!? 山の掃除?」 二人の会話を聞いていた奏和が何のことかと渉を見た。
「うん。 結構ごみがあったよ。 奏ちゃん、たまにしか帰ってこないんだから、知らないおじさんと話している時間があったら、山の掃除くらいしなくっちゃ」
「え!?」 奏和が息を飲んだ。
「知らない人だったんでしょ?」
(この間の抜けた、イヤ、料理も出来ない、こけてばかりの渉が何を聞いていたんだろう) 奏和が焦る。
「ちょっと話してただけで、そっか、忘れてた掃除サンキュ」
「どういたしまして。 私だって、ただ飯食べてるわけにはいかないもんね。 で、奏ちゃんはなんで座ってるの?」
「なんでって・・・俺の家じゃん?」
(渉って、本当に天然か? 全部わかってるのか? 計算ずく・・・いや、渉に限ってそれはあり得ない)
「小母さんに台所にある瓶類をゴミ置き場に出すように言われてたじゃないの? 小母さんが言ってたよ。 やっと台所が片付くって。 座ってていいの?」
「わっ! 忘れてた!」 慌てて沢山の瓶が入った大きな籠を抱えてゴミ置き場に走った。
奏和を見送ったカケル。
「そういう所はしっかりしてるのよね。 渉って」
「そういう所は、ってどういう事よ」
「やっぱ、そんなところが社会人・・・って言うか、会社勤めなのかなぁ」
「だから何?」
「広い目で見てるのよね。 それでそれを記憶してる。 ウッカリなんてないのよね」
「なに? あるわよ。 ウッカリだらけよ。 それに、今の話ってゴミの話ばっかりじゃない。 ゴミのことくらい出来るわよ。 ってか、そんなことばっかりやってる雑用が多いんだもん」
「社会人が雑用? ゴミの?」
「そうよ。 ビルの掃除のおじさんとおばさんは要るけど、些細なゴミなんて雑用ペーペーの仕事。 その些細なゴミが多いんだけどね」
と、そこに雅子が帰ってきた。
「遅くなっちゃった。 すぐに夕飯の用意をするからね。 渉ちゃんも食べて帰るでしょ?」
「あ・・・どうしようかなぁ。 あんまり遅くなると明日厳しいし」
「いいじゃない。 あとで奏和と一緒にお父さんに駅まで送ってもらいなさいよ。 翔ちゃんは今日は泊まるでしょ?」
「あ、明日用があるから帰ります」
「え? そうなの? 急に寂しくなるわねぇ。 でも、二人とも夕飯は食べて帰ってね」 前掛けを頭からかぶりながら言う。
「じゃ、着替えてきます」 カケルが泊まっている部屋に急いで戻った。
「小母さん、何か手伝おうか?」
雅子がギョッとした。
「いい、いい。 渉ちゃんは何もしなくていいから。 ゴミの掃除で疲れたでしょ、座って小母さんの話し相手になって」 以前、渉のその言葉に甘えてとんでもないことがあった。
「あれ? 母さん帰ってきてたの?」 勝手口から奏和が入ってきた。
「空瓶ありがとう。 スッキリとしたわ」 渉が奏和に笑みを向ける。
(これが翔だったら嫌味に見えるんだろうけど、不思議だな、渉にはそんな風に感じないんだよな)
「あれ? 翔は?」
「カケルは今着替えてる」
「そっか。 で、渉は何をしてるの?」
「小母さんの話し相手」
「今日は夕飯まで付き合ってもらうの。 お愛想なしになっちゃうけど、大急ぎで作るから」
「あ、そういうこと。 渉、ついでに料理教えてもらえば?」
驚きの一言に、渉の後ろで雅子が要らないことを言うな、と手でバツを作っている。 それを目に入れた奏和が何となく悟った。
「・・・あ、はい。 渉、今日で帰るんだから、たーっくさん話し相手してあげて。 俺、部屋に戻ってるから飯出来たら呼んで」
渉が頷き、すぐに椅子を動かして雅子の方に向けた。 本腰を入れて話し相手になるようだ。
台所を出た奏和がすぐにカケルのいる部屋に足を向けた。 部屋の前に立つ。
「翔、聞こえるか?」 閉められた襖の向こうに小声で話しかける。
「なに?」
「着替えが終わったら俺の部屋に来てくれ。 晩飯までに話があるから出来るだけ早くな」 返事はないが、聞こえただろう。