--- 映ゆ ---  第26回

大福りす
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shou~  第26回





「はぁ、もう話がバラバラね」 雅子が言う。 

その雅子の顔を見ると「今日聞いたんだがな」 と、宮司が前置きをして話しだした。

「2つ隣の村に大掛かりな工事が入ったらしい」

「工事って・・・何かを建てるんですか?」 雅子が思わず聞いた。

「ああ、どこかの保養所らしいんだ」

「保養所?」 聞いていた全員が声を揃えて復唱した。

「保養所自体は問題はないんだがな、その工事にきている人間じゃないかって」

「あ、そういうこと。 今日の奴らもその工事に来てる奴か」 奏和が言う。

「ああ、工事をしている全員がどうのってことじゃないらしいんだが、一部があっちこっちで女の子にチョッカイを出しているって噂らしい」

「ってことは、一昨日見た奴らもその工事の連中で、翔を目当てに来てたってわけ?」 

「まだ分からんが、そうかも知れん」 宮司が奏和に答え、言葉を続けた。

「前にしっかりと言っておいたんだけどな、凝りもせず一昨日もまた来おった」

「姉ちゃんを相手にしても大変なだけなのにな」 言った翼をカケルがジロリと睨む。

「あ、その話のことで今日は小父さん、どこかに行ってたの?」 渉が聞くと宮司が答えた。

「ああ、悪かったね。 最近苦情がよく来るんだけど、神社の方では何かあるか? って村長から連絡があったもんでね。 そんなときに間が悪く渉ちゃんに恐い思いをさせてしまったね」

「あ、もうその事はいいですから・・・」 泣いた理由が正直に言えないし・・・。

「で? 親父だけ村長の所に行ったの?」

「いや、それだけだったら電話ですむ話だ。 うち以外のところも来てたよ。 で、色んな話から保養所の工事の話が出てきたんだ」

「ふーん・・・」 奏和が握った手を顎に当てた。

「なんだ?」

「あ、いや、何でもない・・・です」

「そう思うと翼君と渉ちゃんが遅い時間にバスでやって来て何もなくてよかったわ」 雅子が今更の様に言う。

「小母さん、何かあったら俺が渉ちゃんを守るからぜんっぜん、大丈夫! 何の心配もいらないよ」 

翼のそのセリフに渉が食べていたものを喉に詰めかけ、カケルが溜息をつき、雅子は笑い出し、宮司は何か言おうとして言葉を飲んだ。 
ただ一人奏和が冷たい視線を送りながら言葉を発した。

「おい翼、お前の周りと渉を一緒にするなよ」 その言葉に反応したのは翼ではなくカケルであった。

「翼の周りってどういうこと?」

「コイツの今の生活のこと」

「え? 奏兄ちゃん、渉ちゃんはあの子達とは全然違うよ」

「翼! あの子達って何?!」 カケルが眉間にシワを寄せた。

「翼、お前・・・お前の生活って濁して言ってやってんのに、自分から言うか?」 大きく溜息をついてこめかみに手をやった。

「ちょっと、何のことなの?! 翼か奏和か、ちゃんと説明しなさい!」 

宮司と雅子は若い者の会話を遠巻きに聞いているが、宮司はこの話を知っている。 渉は今日の疲れを思うと、どうでもいいかと寿司を楽しんでいた。

「え? 姉ちゃんに言うような事じゃないし」 悪びれず翼が言ったがその翼をカケルが睨み、奏和が言った。

「お前、今の段階で八岐大蛇だろうが。 これ以上増やすなよ」 何のことかとカケルが首を傾げ、奏和に問うた。

「奏和、何のことなの?」 

「八岐大蛇とは・・・面白い例えだな」 カケルの問いに宮司がクスクスと笑い出して言った。
雅子とダブルショウが何のことかと目を合わせる。
夕べの夕飯のあと、ビールを飲みながら男三人で話していた。 翼の相談事、彼女関係を。

「翔、コイツ八股かけてんだぜ」 

想像もしていない事を言われ、カケルがグッと息を飲んだ。 勿論、渉と雅子は口に入れた寿司を吐き出しそうになった。

「あー! 奏兄ちゃん、秘密だって言ったのに!」

「何が秘密だよ。 お前、9人目に渉を入れて八岐大蛇の上をいこうとしてるのか?」 それを聞いて宮司と雅子、渉が大笑いしたが、カケルの頭からは火山の噴火の如く大火が吹いた。

「翼!! アンタ大学に行って何やってんのよ!!」 

「え? 別に俺から何を言ったわけじゃないし」

「はぁ!? 付き合ってるんでしょ!? その8人とっ!」

「いいかなと思ったんだけど、うざいんだよな・・・顔もスタイルもバッチリなのになぁ」

「つーばーさー!!」 カケルの顔がみるみる般若の面になる。

「うっさいなぁ。 俺は俺の道を行ってんの。 姉ちゃんだって自由にやってんじゃん」

「それとこれは別でしょうが!」

「全然別じゃない。 別って考えるところが姉ちゃんのクセの悪い勝手」 宮司と雅子は二人の掛け合いを楽しんで見ている。

「翔、大蛇の話はお前ら二人でやってくれよ。 ただ、渉を巻き込むなよって話だから」 その奏和の言いように翼が即答した。

「奏兄ちゃん、言っとくけど渉ちゃんは全然別だからね。 小さい時からずっと見てきたんだから」

翼の言葉に奏和が口を開こうとしたが、その前にカケルが口を開いた。

「ずっとって! アンタ高校に行ってからは家にも寄り付かなかったじゃない! 長期休暇のときも家に帰らなかったでしょ! それに渉にも中学を最後に逢ってないでしょ!」

「逢ってたよ」 トーンの低い翼の声。

え? と全員が渉を見た。 すると驚いた渉が思わず言った。

「ちょっと翼君、誤解を招くような言い方をするんじゃないの」 寿司を挟みかけた箸を受け皿に置いた。

「翼と逢ってたの? そんな話、渉から聞いてない」 翼からは聞かなくてもいい。 でも渉からは聞いていない。

「えっとね、就職してから何回か偶然会ったの。 その度にカケルに言おうと思ってたんだけど、会社で色々あって言いそびれてた」 

グッと空気が重くなった。

「なに? 渉ちゃん、会社で嫌なことでもあったの?」 雅子が心配そうに聞いた。

「嫌って言うか・・・多分働いてたら誰も持つものなのかな?」 
うううん、それだけじゃない。 分かっている。 自分の持つ疑問が解決されないのが影響しているのだと。

「相談してちょうだいよ」

「小母さん、有難う。 でも大丈夫だから」

「渉ちゃん・・・そんなに大変な時だったんだ。 俺知らなかった」 渉と逢った事を能天気に考えていた翼が神妙に言う。

「だから言ってるじゃない。 社会に入った壁よ。 きっと誰もが通る道よ」 分からない、結果の出ないことは頭から払拭した。

「渉・・・相談してくれれば良かったのに」 カケルが言う。

「やだ、そんなに深刻なものじゃないわよ。 暗い暗い! 明るくいこうよ」 それをきいた奏和が隣に座る渉に言う。

「驚いた。 お前も一人前の人間だったんだな」

「ちょっと、どういう意味よ」

「で? 翼は何が言いたかったわけ?」 奏和が話を戻した。 奏和から視線を振られ翼が屈託なく答えた。

「渉ちゃんって、小さい時からいっつも姉ちゃんから俺を守ってくれてただろ? だから今度は俺が渉ちゃんを守る」 カケルにとって聞き捨てならない言葉を翼が吐いた。

「なに? 私がアンタになにをしたって言うのよ!」 休火山となっていたカケルが今度は頭から角でも出しそうな勢いで言う。

「下僕の様に扱った」 翼の言葉に、渉以外の全員が下を向いて笑いを噛み殺した。

「翼君、それはないと思うよ」 その渉の言葉にカケルを見ていた翼が目を渉に移した。

「姉ちゃんの事はいいんだ。 二人で幸せな添い寝もしたんだから。 今はそれで幸せ。ね、渉ちゃん」 

カケルがすぐに渉を見たが、何のことかと渉の目が点になる。

「馬鹿か、渉の記憶もないうちに勝手に添い寝して」 奏和が言う。

「ちょっと、何のこと?」 意味が分からないカケルが、奏和と翼を交互に見た。

「だって、渉ちゃん玄関でバテたじゃん。 だから添い寝してあげたの」 

渉には何のことか全く分からない。 奏和を見た。 その奏和が仕方なく説明をする。

「今日お前が授与所から家に帰って玄関でぶっ倒れたろ? それを見た翼が授与所の片付けを終わって、俺が帰るまで玄関でお前に添って寝てたってこと」 それを聞いて一番先に声を出したのがカケルだ。

「翼!! あんた馬鹿じゃない!?」 が、先ほどまで若者の会話を面白く聞いていた宮司と雅子が目を合わせ、雅子が口を切った。

「渉ちゃん、そんなに疲れたの? 知らなかったわ。 無理をさせたのね、ごめんなさいね・・・」

「あ、小母さん、全然大丈夫です。 それに初めての巫女装束も楽しかったし」 
言葉がギクシャクしているが、今となっては全て終わったのだからそれでいい。 それに相手は翼。 所詮お子ちゃまだ。


翌日、帰りはバスを乗らず奏和の運転で駅まで行く事になった。
雅子が何かあっては大変と奏和に言ったのだが、言われなくとも送って行くつもりでいたが、気になる事がある。 さっさと送って、夕べ連絡を入れておいた高校時代の地元の友の所に行くつもりだった。 

「そんなこと無理だ。 教えられないよ」 と言われたが、そこで調べるとすぐに戻ってくるつもりでいた。


翼と渉は昼ご飯を食べると連れ立って社務所に行き、宮司に挨拶をした。 勿論、授与所にいるカケルにも。

「カケル、帰るね」 人が引いたときを狙って渉が声をかけた。

「うん、またね」 

「姉ちゃん、磐笛しっかりと吹けるようになれよ」 渉の後ろに立つ翼が言った。

「うっさい!」

「巫女姿の時は、お淑やかにするんじゃなかったのかなぁ?」 両腕を頭の後ろに組んで、もう一つからかおうとしかけたのを渉が止めた。

「翼君、今はそんなこと言わないの」 

「はぁ~い」 その返事にカケルがムカつく。

「調子こいてんじゃないわよ」

「あ・・・カケルも相手にしないの。 じゃ、奏ちゃんが送ってくれるって言ってたから」

「うん、また連絡するね。 嫌な事があったら吐き出すといいからね」

「うん。 ありがとう」

宮司の家に帰ると、既に奏和がスタンバっていた。

「もういいか?」

「うん」

「母さん、帰るって」 台所に居る雅子を呼んだ。

手土産を持って台所から出てくるとそれを二人に渡しながら別れを惜しんだ。

「たった三日だったけど楽しかったわ。 翼君も渉ちゃんもまたいつでも来てね」

「はい」 「うん。 俺、絶対渉ちゃんとまた来る」

「お前一人で来れないのかよ」 玄関に置いていた渉の荷物を持ちながら、呆れて奏和がいう。

「あ、奏兄ちゃん、渉ちゃんの鞄は俺が持つから」

「お前は翔に持たされた荷物があるだろ」 
翼が来ると分かっていたカケルがアパートから持ってきた荷物をボストンバッグに入れ実家に持って帰ってもらうのに翼に預けたのだ。

「だから、奏兄ちゃんが姉ちゃんの荷物を持ってよ」

「何ややこしい事言ってんだよ、ほら行くぞ」 さっさと歩いていった。

「最後まで賑やかね。 じゃあね、二人ともお父さんとお母さんに宜しくね」


駐車場に着くと奏和が足を止めて停まっている車を見渡した。 その姿が渉には不自然であった。 いつもの奏和ではないと思えた。

「奏ちゃん?」

「あ、ああ。 翼、トランクに荷物入れろよ」

「奏ちゃん、なんかおかしい・・・」

「え? おかしいって?」

「あの時の奏ちゃんみたい」 賑やかしい髪の毛の三人組を追いやった時の目。 早い話、渉が泣いた時の奏和の目。

「え?」

「ちょっとー、なに二人でコソコソ話してんのー」 トランクを閉めて荷物を入れ終えた翼が不服いっぱいに言った。

「なんでもないよ」 一瞬翼を見てから、渉を見て両の眉を上げて言うと、反対側に回り、後部座席を開けると渉の荷物を入れた。

「ちょっと、奏兄ちゃん。 そこは俺の席だよ」

「は? お前後ろに乗るの? んじゃ、渉が助手席に乗る?」

「ホンット、気がきかない。 渉ちゃんと二人で後ろに乗るんだろ」

「さっきから面倒臭い事ばっかり言ってんなー」 言うと大きく溜息をつき、助手席側の後ろに立っていた渉のもとに歩き出し、渉の手を取って助手席に乗せた。

「なにすんだよー!」

「お前もさっさと乗らないと置いてくぞ」 すぐに運転席に乗り込むとエンジンをかけた。

結局、駅に着くまで翼が奏和の後頭部に文句をタラタラぶちまけていた。
そして期待していた奏和とカケルの喧嘩を、渉も翼も見る事がなかったことにあとで気付いた。