僕と僕の母様 第25回

大福りす
僕と僕の母様 第25回



「これね、これはアルトサックスと言ってね重いよ、持てるかな? 一度持ってごらん」

簡単に言ってくれましたけど 僕は楽器なんてほとんど持った事がないし こんな大きいのは初めてだから ドキドキです。 

「いいんですか?」 平静を装って聞くと どうぞという感じで部長が僕に手渡した。 思った以上に重い。 部長は軽々持っていたのに。

あのドラマのシーンを思い出したのがきっかけになって 持ってみたときのドキドキ感 そしてこの重さ なぜかワクワクしてくる気持ち 何もかもが僕の頭の中でミックスされて やってみたいという心に火が点いた。 

どう? と部長に聞かれた。 「はい、これをしたいです」 そう返事をした時には もう平静を装っている顔ではいられなかった。 重くてもなんでもやってみたい、そんな心の声が 顔に表れていたはずだ。

そんな顔のまま 部長にアルトサックスを返すと 部長はいとも簡単に スッと僕の手から重いサックスを持ってくれた。 そして 

「いいよ、僕アルトも吹くから教えてあげられるしね」 と、気持ちよく答えてくれた。

取り合えずこれで僕の楽器が決まった。 この日から僕とアルトサックス君の 小さな戦いの日々が始まることとなった。

僕はそれまで楽器の付属品とか、楽器の掃除道具とか色んなものが 必要になってくるとは考えもしなかったので その日も何の用意もして行かなかった。

楽器を吹くには、リードというものが必要らしい。 そういえば聞いたことがある。

その日は勿論部長に借りたと言うか、幾つか部長が僕にくれた。 部長は楽器屋に行って 少なくともリードと掃除をする道具を買うようにと言いながらも 自分ので良かったら要らないのはあげるよ と言ってくれたりもした。

部長は進学を目指していたので もう頻繁に部活にも来られないようなのだ。

でも僕に教えてくれる事は約束してくれた。

「音階にいくまでに先に音を出してみようか」 と本当の初歩から始まった。

この時まで他の人たちは おやつを食べたり お喋りをしていたが 急に話を止めて 僕の方に注目した。

みんなの注目の中 難なく音が出た。 みんな エッ! と言う顔をしている。 勿論部長においてもそうだ。 

「一発目から音が出たねえ」 と少し驚きの顔で僕にそういった。

部長は これなら暇は掛からないと言って すぐに音階を教えてくれた。 音階になるとなかなか上手くは吹けないが これが結構楽しかったりした。

「じゃあ 音階の練習をしておいて 僕は中庭で練習するから 何かあったら中庭に来るといいからね。 おい、他の! 全員! おやつばっかり食べてないで 練習しろよ」

「はーい」 おやつを食べながら皆でそう返事をしていたが 部長が行った後も 誰一人練習をやり初めなかった。

音階と戦い始めて数十分たった時に それまでおやつを食べながら見ていた他の人達が寄ってきた。 その中でフルートを片手に持っていた人が

「初めてにしては音階も結構いけるじゃん。 ちょっとほかの楽器もチャレンジしてみない?」 と言って自分の持っていたフルートを差し出した。

女の人なんだけど、これを吹くと 『間接何とか』 になっちゃうんだけど、どうしたらいいのだ? 恥ずかしいじゃないか。 なんて事を考えていると ふと 今度はそういうことを考えている自分に 恥ずかしくなったりした。

このまま色々な事を考えると 顔が真っ赤になってしまうだけだと思い「はい」 と言って吹いてみた。 フルートは以前に吹いたことがあるので 少しは余裕で音が出せる。 

「えーやるじゃん」 と言われたと同時に「今度は、こっち吹いてみて」 と色々な楽器を次々と手渡されてしまった。

されるがままの状態でみんな吹いてみた。 全部一発目で取り合えずといった感じで音が出た。

「すごい何でも来いじゃない サックス以外もやりなよ」 そう言われながらみんなの歓声を聞いていると 今まで何においても褒められたことのない僕は 褒められ下手である。

さっきとは違う意味で 顔が真っ赤になってしまった。



最後まで読んで頂きまして有難うございます。

参加しております。クリックのご協力をお願い致します。

にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ
にほんブログ村

有難う御座いました。