僕と僕の母様 第71回

大福りす

僕と僕の母様 第71回




ある朝、僕と順平が駅を降り 学校に向かって 登校していると 例のバタフリーが 「先輩お早うございます」 と声をかけながら 走って学校に向かって行った。


あっけにとられた 僕と順平は微動だに出来ず その後姿を追っていた。


暫らくして我を取り戻し そして同時に お互い顔を見合わせ


「今誰に言ったの?」 順平が聞いてきた。


「え・・・」 一瞬考えた。 そして出した答えが


「順平には 何か聞こえたんだ。 僕には 何も聞こえなかったし 何も見えなかった。」 何も無かったことにしたい。


僕の言いたいことが 通じたようで


「・・・あ、そうだよね、そうだよね 何も無かったよね」 苦笑いをして そう返事をしてきたが


その日をきっかけに バタフリーと 廊下ですれ違うと「今日は」 等と声をかけるようになってきた。


勿論僕達は 知らない振りを していたのだが 一人で居る時は ついうっかり 「ああ」 と返事をしてしまうこともあった。


そして それが頻繁になってきたのだ。


「ちょっと怖くない?」 順平が言い出した。 認めざるを得ない。


「やっぱり?」 僕も怖さを感じていたので 順平がどう出るのか 様子を伺っていたのだ。


「どっちかが あの子の餌食になるの?」 餌食とは・・・と思うが あの積極性には怖さを感じる。


「どっち?」 聞いてみた。 順平に心当たりがあるのなら 何か言うだろう。


「分かんない」 心当たりはなさそうだ。


「どっちにしても 学校にいる間は離れないでいよう」 順平の提案だ。


「賛成」 一人は怖い。




ある日家に帰って 何気なく今まで学校で貰っていた プリントをまとめて リビングの机の上に置いて 点けっぱなしにされていた テレビを見ていた。


洗濯物を畳み終わった母様が 二階から降りてきた。 洗面所にタオルをしまってから リビングに入ってきた。


「お帰り」 「ただいま」 


ちょうど帰ってきて 自転車を止めた時に上を見上げると 母様がベランダで洗濯物を 入れていたので その時にも 「ただいま」 「お帰り」の会話があったのだが もう一度ここでも その会話がリピートされた。


僕を見てすぐに 母様がテーブルのプリントに 目を移した。


「何 このプリント」 


「今まで貰ってたプリント。 もう関係ないから 捨てるだけ」


プリント全部を手にし ソファーに座りながら パラパラとプリントを見だした。 するとその内の一枚を見て


「何? 危険物の試験があるの?」 


「ああ、そうみたい。 危険物以外にも 色々と今まで何度かあったよ」


「えっ、そんな話 今までに一度も聞いてないわよ」


「だって僕には 関係ないもの」


「関係ないって どういう事よ、受けるんでしょ?」


「何で?」


「工業科に行ってて 危険物を受けるのは 当たり前でしょう。 何のための工業科なのよ」


「何言ってるの 知らないの? 危険物って 危険だから危険物って言うんだよ。 そんなもの受けたら 危険じゃないか」 笑って言ったけれども 半分は真剣だ。


「バカじゃない。 ・・・ちょっと、もういくらも 日が無いじゃない。 何で今頃出すのよ」


「だから危険だって・・・」


「いつまで言ってんのよ。 明日申し込んどくのよ。 ちゃんと先生に 提出しなさいよ。」 そう言って 申込書に記入をしだした。


母様が降りてくる前に 捨てておけばよかった。




次の日、順平について来て貰って 職員室に行った。 順平は外で待ってると言ったので 僕一人で入って行き 仕方なく先生に 申込書を出した。


「おお、お前も受けるのか? 何を受けるんだ?」 申込書に漏れがないか見ながら 聞いてきた。


「危険物です」 申込書を見て分かるだろう。


「だから何を受けるんだ って聞いてるんだよ」 教師として やる気があるのか? 何を言いたいんだ。


「何って、何ですか?」 意味が分からない。


「何類を受けるんだ って聞いてるんだよ」 初めっからそう言えば いいじゃないか。


「何の意味か分かりません」 何類って 何だよ。


「お前受けるんだろう 俺はお前が分からん。 それじゃあみんなと一緒でいいか?」


「はい」 分からないままに 返事をしておいた。


だけど この時に先生に言われて 気付いたのだが 僕は問題集や参考書を 持っていない。


その日帰って この事を母様に言った。





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