僕と僕の母様 第154回
僕と僕の母様 第154回
卒業式
仕事を休んでいる母様と 朝早く家を出て 学校に向かった。
この日も順平は欠席だ。 この三年間、ここぞという日に 欠席することを 貫き通したようだ。 早い話、結局追認が 卒業式までに間に合わなかったのだ。 何と言っても 電子回路以外にも 追認があるのだから 簡単には無理だったんだろう。
学校に入り 体育館での卒業式。
母様は そのまま体育館へ 僕は教室へと向かった。
教室では相変わらず みんな騒いでいる。 先生も声を荒げながら 今日の進行を もう一度全員に確認させようとしているが 誰一人として聞いていない。 あ、クラスで一番頭のいい奴だけは ちゃんと前を向いて 聞いていた。
ざっと 教室を見回したのだが 欠席は順平だけだ。 意外とみんな 試験をちゃんと クリアー出来ていたようだ。
式の準備をするようにと 放送が鳴った。 僕たちは教室の廊下に 2列に並び 体育館めがけて移動して行くのだが その道中もウルサイ、ウルサイ。
しかし体育館の前に整列しだした途端 ピタッと私語が無くなった。 生活指導の怖い先生や 体育の先生が いるわけでもない。 どうしたんだろう。 キョロキョロと見渡すと どうしてだか みんな下を向いて 神妙な顔をしている。
もしかしたら 卒業式ということに 今気付いたのか? いくら何でも そんなことは無いだろう。 急に緊張してきたか、コイツ等にはあり得ないだろうが 悲しみという感情が 出てきたのか? どちらにしても 僕にはこの3年間で コイツ等の頭の中は 理解できなかった。
式なんて決まりきったもの。 中学の卒業式と同じように 小難しい話を 小難しい顔をした大人が 話しているだけだ。
そして 名前を呼ばれると 返事をし起立。 卒業証書をクラス代表が受ける。 これだけのことを 何度練習したことか。
式が終わって 体育館を出る時に 出入り口で ブラバンが演奏をしていた。 知った顔があったが 目も合わせずに 体育館を出ていった。
僕自身は 何の感動もない卒業式だったが これで高校生が終わるのだ。
体育館を出て そのまま教室に行かなくてはならないが 帰りのことを 母様と話していない 母様が心配だ。
皆でゾロゾロと 教室へ向かう途中に それに気付いた。 僕はUターンをして 体育館に戻り 母様を捜した。
まだ保護者で ごった返している中に 母様を見つけた。 案の定、母様も僕を探していた。
「お母さん」 大きな声を出すのは 恥ずかしい。 母様の近くに行き 母様を呼び止めた。
「あ、陵ちゃん。 お母さんどうすればいいの?」 やっぱりな。 約束というものをしないと 融通が利かないのだ。
「僕はこれから教室に帰って ホームルームがあるんだけど お母さんはどうする?」 帰っていいよ。
「お母さんもついて行く。 先生にもご挨拶したいし」 そう言うと思った。 ご挨拶一番の 母様だもんな。
二人で人の波の間をくぐり 教室に向かって 歩いて行った。
僕は少し母様から離れるように 歩きたかったのだが 母様は腕でも組もうかというほど 至近距離に来る。 頼む 誰も気付かないでくれ。
教室に着き 母様を後ろのドアから 入るように促し 僕は前のドアから 入って行った。
教室では さっきの神妙な顔は無く また皆で大騒ぎだ。
チラッと母様の顔を見た。 目が点になっていた。
先生が入ってきて 教室の後ろに並んでいる 数人の保護者へ挨拶をし 今度は僕たちに 話をしだしたが みんな全くと言っていいほど 聞いていない。 いつもの図だ。
ヤツラの声で 先生が何を言っているのか 聞き取れなかったが どうも話が終わったようだ。 卒業証書も貰って 色んなプリントも貰い もう一度先生が 保護者に挨拶をして これで終わりのようだ。
あっけに取られている母様を横目に 僕も帰る準備をしだした。 準備が終わって母様の方を見ると 母様がいない。 何処へ行ったんだ 廊下に出てみると そこに先生と話している母様がいた。
何かいらないことを 言っているのか心配になり 僕は母様の横に立ち 話を聞いた。
「先生、あの いつもこんな風だったんですか?」 まだ目が点になってるよ。
「ああ、賑やかでしょう」 先生は満足といった顔で答えている。
「三年間こんなですか?」 信じられないといった感じだ。
「はい、可愛い奴等です」 本当かい?
「三年間も申し訳ありません。 何と言っていいのか 大変お世話になりました」 ひたすらに頭を下げていた。
駅までの道々で 母様が言うには 教師が話している時に 生徒が後ろを向いたり ギャーギャーと騒いでるなんて事が 信じられなかったらしい。 そして 母様とあと一人の保護者が 挨拶しただけで 他の保護者は 知らない顔で帰っていたり それ以前に ホームルームにも来ないということが 信じられないといった 感じであった。
駅に着き 電車に乗った。
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