--- 映ゆ --- 第85回
『---映ゆ---』 目次
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「母さん、腰に悪いよ。 あとで俺が持っていくからそこに置いてて」
若い衆達が2人組となり2列になって丸太を肩に担ぎ運んでいた。 その最後尾で担いでいるシノハの目の横に、糸が沢山入った木箱を運んでいる母親の姿が目に映った。
「これくらいなんともないわよ」
「ダメだよ。 そんなことは俺がするから」 歩きながら段々と母親の横を通り過ぎようとする。
「相変わらずだな」 シノハと同じ木を肩に乗せている若い衆の一人が言う。
「お前だったら見てみぬ振りだな」 隣に歩くもう一人が言うのを聞いてケッ、と言うと「お前もだろ」 と言い返した。
「俺だったら大丈夫かって声くらいかけるさ。 ・・・先頭のトワハなんて知らんぷりなのにな」 先頭に聞こえないように、こそっと言う。
「これを運び終わったらすぐに帰ってくるから置いておいてよ」 シノハが母親に言う。
「わかったわ」 言うと木箱を下して腰をトントンと叩いた。
「機織りの糸か」 シノハの隣で肩に木を担ぎながらポツンとハシルが言った。
「多分な。 女たちが張り切ってるみたいだな」
「ああ、お前は居なかったけど“糸の村” から帰ってきた使いが、色んな糸を持って帰った日にはうるさいほどキャーキャー叫んでたんだぜ」
「『月夜の宴』 に着ていく衣を織るのか?」
「そうだろうな。 いつになく早くからの用意だな。 今度はお前も行くのか?」
「え? 行かないよ」
「だって、リンラニが運んでるってことは衣を織るからだろ?」 リンラニとはシノハの母親のことだ。
「俺は行かないよ。 トワハのだろ」 トワハは歳の離れたシノハの兄である。
シノハの返事にハシルが両の眉を上げた。
「お前、どうしたいんだ?」
「どうって?」
「俺もお前も、もう嫁を貰ってないといけない歳じゃないか」
「俺は・・・トワハがまだ嫁を貰ってないんだから・・・。 ハシルの方こそ、どうなんだよ。 ベリシダが心配してるって母さんが言ってたぞ」
ベリシダとはオロンガの男の嫁になったハシルの姉のことであった。
「お前と違って嫁を貰う気はマンマンだよ! でもなー、コレって思う娘がいないんだよな」
「毎回『月夜の宴』 に行ってるのにか?」
「そうなんだよなぁ」
「いいところで妥協しろよ」
「それは出来ない! って、嫁を貰ってないお前に言われたくない!」 言うハシルにシノハが薄い笑みを向けた。
(精霊・・・どうすればお逢いできるのですか) 夜な夜な精霊という事を否定されたとはいえ、それでも精霊と思う渉のことを考えている。
数日前
オランガの村では皆が仕事を終え、家で夕食を食べ終えているだろう刻限、ラワンと共にシノハがトンデン村から帰ってきた。
ラワンの小屋の前で手綱と鞍を外し荷を下すと、ラワンが横にあった水桶からザブザブと水を飲みサッサとねぐらへ駆け込んで行った。
「さすがのラワンも疲れたか」 ラワンの姿を追ってから鞍を小屋の中の鞍立に置きなおし、手綱を引っ掛けると小屋を出てラワンの寝姿を見た。
「まぁ、一晩寝れば疲れも取れるだろう」
荷を小屋の戸の端へやるとまずは長に報告だ。 あまり遅くなっては訪ねられない刻限になってしまう。
すぐに長の家を訪ね帰ってきた挨拶をすると、トンデン村の様子を報告し『薬草をたんと貰った、それだけで充分だと村長に伝えてくれ』 という伝言を間違えなく伝えた。 そして帰って来るのがこれほど遅くなったのは“才ある者” 才ある婆様の怪我を“薬草の村” の者として投げ出ずことは出来ず、トンデン村の薬草師と共に才ある婆様の看護についていたということにした。
(決して嘘ではないものな) 心の中で一人ごちる。
「そうか。 それでは才ある婆様はご無事なのだな?」 “才ある者” がどれほど村に必要であるかを物語るように長が問う。
「はい。 まだ歳浅い“才ある者” が婆様に代わって村のことをよくしておりましたから、これからも大丈夫でしょう」
「“才ある者” はいくつくらいなのだ?」 才ある婆様に代わって出来るほどの“才ある者” がどれ程の歳の頃だろうと長が問う。
「我とそんなにかわらないと思います」
「ほぅー。 シノハと変わらんのか・・・。 それでは才ある婆様にはまだまだお元気でいて頂かなくてはならんな」 シノハと同じ年くらいであったのなら、それはまだ歳浅い“才ある者” だ。
「はい 」
「では、他に何も要りようなどないのだな?」
「はい。 何よりも薬草が必要だったようですから」
「そうか・・・薬草は足りたか?」
「十分かと思います」
「まぁ、その様子では足りなければ、たとえトンデンであろうと使いが来るだろうな」 言うと間をおいて言葉をつないだ。
「セナ婆様が心配をしておられた。 報告はこれまででいい、婆様の所に行ってご心配を取ってさしあげろ」
「はい」 一つ返事をすると、その場を立って一礼し、すぐにセナ婆の家に向かった。
「婆様、シノハです」 セナ婆の家の木戸の前で大きな声で言う。
トンデン村の家は木で出来ているが、このオロンガ村は石で出来た家に木戸がついている。
木戸が開くと中から“才ある者” が出てきた。
「シノハ」 目を見開き、口元に嬉しさが表れている。
「よく帰ってきました。 ・・・怪我はなさそうね」 シノハの身体を下から上に見る。
「はい」 ドンダダにつけられた傷はザワミドがすぐに薬草をつけてくれたおかげで傷跡は残っていない。
「婆様がご心配をされていたのですよ。 さ、中に入って」
木戸を大き開けるとシノハを中に入れた。 “才ある者” がシノハの後姿を見ながら中に入ると木戸を閉めその前に立った。
「婆様、遅くなって申し訳ありませんでした。 ただいま帰りました」
「長へは報告したか?」
「はい」
「ではゆっくりと話が聞けるな。 かたいことは良い、ここに座れ」 タム婆の座る椅子の前にある椅子を目顔で示した。
シノハが両の口の端を上げるとサッと歩いてすぐに椅子に腰かけた。
(シノハったら・・・) “才ある者” の口元が緩んだ。
(村の者が見たら驚くでしょうね) セナ婆とシノハの仲を知っている“才ある者” はさして驚かないが、他の者が見るとあまりの非礼に驚くだろう。
「で? どうじゃった?」
「はい・・・」
トンデン村の“才ある者” 才ある婆様の様子、トンデン村の様子を一通りセナ婆に話した。 勿論、長が襲われたとか、ドンダダのことは話していないが。
トンデン村の才ある婆様という話は、言い換えればこのオロンガ村の才ある婆様セナ婆の姉様の話。 オロンガ村の“才ある者” の居る前でトンデン村の才ある婆様のことをタムシル婆様とは言えない。 木戸の前に立つ“才ある者” に分からぬよう、あくまでもトンデン村の才ある婆様の話として話した。
「そうか。 では、村は落ち着きつつあるのだな?」
「はい。 才ある婆様はもう地の揺れはないはずだと仰っていました」 その言葉でタムシル婆様であり、セナ婆の姉様が元気であることが分かる。
「なによりじゃ」 ずっと前屈みに両の手を杖の上に置き聞いていたが、ホッとしたように椅子の背もたれに背を預けた。
「婆様よろしいでしょうか?」 その時、木戸の前に立ち静かに聞いていた“才ある者” が間を見て歩いて来るとシノハの後ろに立った。
「なんじゃ?」
「シノハは帰ってきたばかりです。 腹が減っておるのではないでしょうか?」
「おお。そうじゃった。 シノハ、腹が減っておるじゃろう?」
「ペコペコです」
(シノハったら・・・) 言葉の使い方に、まるで困った我が子を見るような目で見るとすぐに相好を崩した。
「では、すぐに何か作ってまいります」
「ああ、たのむ。 あ、それとリンラニ達にもシノハが帰ってきたことを言っておいてくれ」
はい。 と一つお辞儀をして“才ある者” がセナ婆の家を出るのを見送ると、シノハがセナ婆に向き直った。
「婆様! 我はどれだけ驚いたことでしょうか!」 両手を太腿につき前屈みになるとセナ婆に少し怒った顔を向けた。
「なんのことじゃ?」
「タムシル婆様のことです」
「おお、そうじゃったな。 じゃが、言ったであろう、姉様の所に行けばシノハの知らぬことがある、それを聞いても驚くなよと」
「だからと言って、タムシル婆様がトンデン村の“才ある者” 才ある婆様だったなんて。 そんな大切なことは教えて頂いておかないと」
「そうか?」
「婆様・・・」 嘆息を吐くと言葉を続けた。
「タムシル婆様が才ある婆様と知らずに最初に色んなことを言いましたから、トンデンの村人にどれだけ睨まれたことでしょうか」
「姉様が“才ある者” だということを、姉様から聞いたのか?」 セナ婆の姉様でありタムシルという名を持つトンデンに行ったタム婆。
「いえ、長です」
「長が?」
「はい。 昔トンデンの村長が何度もこのオロンガに足を運ばれたこと、そして婆様方がその幼き頃、セナ婆様がトンデンに行くとお二人で話されていたところから聞きました」
「長がなぜそんなことを知っておるのだ?」 何故、我らの幼き頃の決め事を知っているのだ。 驚いた目でシノハを見た。
「タムシル婆様・・・いえ、タム婆様と長はうち解けておられましたから、何でも話されているのでしょう」
タム婆から聞いた、我が祖父クラノがその秘、タム婆からの願いを守った。 タム婆の送った苦しい日々のことを微かでも出せばセナ婆は気付くだろう。 ついうっかり、要らないことを言わないように気が張る。
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- 映ゆ - ~Shinoha~ 第85回
「母さん、腰に悪いよ。 あとで俺が持っていくからそこに置いてて」
若い衆達が2人組となり2列になって丸太を肩に担ぎ運んでいた。 その最後尾で担いでいるシノハの目の横に、糸が沢山入った木箱を運んでいる母親の姿が目に映った。
「これくらいなんともないわよ」
「ダメだよ。 そんなことは俺がするから」 歩きながら段々と母親の横を通り過ぎようとする。
「相変わらずだな」 シノハと同じ木を肩に乗せている若い衆の一人が言う。
「お前だったら見てみぬ振りだな」 隣に歩くもう一人が言うのを聞いてケッ、と言うと「お前もだろ」 と言い返した。
「俺だったら大丈夫かって声くらいかけるさ。 ・・・先頭のトワハなんて知らんぷりなのにな」 先頭に聞こえないように、こそっと言う。
「これを運び終わったらすぐに帰ってくるから置いておいてよ」 シノハが母親に言う。
「わかったわ」 言うと木箱を下して腰をトントンと叩いた。
「機織りの糸か」 シノハの隣で肩に木を担ぎながらポツンとハシルが言った。
「多分な。 女たちが張り切ってるみたいだな」
「ああ、お前は居なかったけど“糸の村” から帰ってきた使いが、色んな糸を持って帰った日にはうるさいほどキャーキャー叫んでたんだぜ」
「『月夜の宴』 に着ていく衣を織るのか?」
「そうだろうな。 いつになく早くからの用意だな。 今度はお前も行くのか?」
「え? 行かないよ」
「だって、リンラニが運んでるってことは衣を織るからだろ?」 リンラニとはシノハの母親のことだ。
「俺は行かないよ。 トワハのだろ」 トワハは歳の離れたシノハの兄である。
シノハの返事にハシルが両の眉を上げた。
「お前、どうしたいんだ?」
「どうって?」
「俺もお前も、もう嫁を貰ってないといけない歳じゃないか」
「俺は・・・トワハがまだ嫁を貰ってないんだから・・・。 ハシルの方こそ、どうなんだよ。 ベリシダが心配してるって母さんが言ってたぞ」
ベリシダとはオロンガの男の嫁になったハシルの姉のことであった。
「お前と違って嫁を貰う気はマンマンだよ! でもなー、コレって思う娘がいないんだよな」
「毎回『月夜の宴』 に行ってるのにか?」
「そうなんだよなぁ」
「いいところで妥協しろよ」
「それは出来ない! って、嫁を貰ってないお前に言われたくない!」 言うハシルにシノハが薄い笑みを向けた。
(精霊・・・どうすればお逢いできるのですか) 夜な夜な精霊という事を否定されたとはいえ、それでも精霊と思う渉のことを考えている。
数日前
オランガの村では皆が仕事を終え、家で夕食を食べ終えているだろう刻限、ラワンと共にシノハがトンデン村から帰ってきた。
ラワンの小屋の前で手綱と鞍を外し荷を下すと、ラワンが横にあった水桶からザブザブと水を飲みサッサとねぐらへ駆け込んで行った。
「さすがのラワンも疲れたか」 ラワンの姿を追ってから鞍を小屋の中の鞍立に置きなおし、手綱を引っ掛けると小屋を出てラワンの寝姿を見た。
「まぁ、一晩寝れば疲れも取れるだろう」
荷を小屋の戸の端へやるとまずは長に報告だ。 あまり遅くなっては訪ねられない刻限になってしまう。
すぐに長の家を訪ね帰ってきた挨拶をすると、トンデン村の様子を報告し『薬草をたんと貰った、それだけで充分だと村長に伝えてくれ』 という伝言を間違えなく伝えた。 そして帰って来るのがこれほど遅くなったのは“才ある者” 才ある婆様の怪我を“薬草の村” の者として投げ出ずことは出来ず、トンデン村の薬草師と共に才ある婆様の看護についていたということにした。
(決して嘘ではないものな) 心の中で一人ごちる。
「そうか。 それでは才ある婆様はご無事なのだな?」 “才ある者” がどれほど村に必要であるかを物語るように長が問う。
「はい。 まだ歳浅い“才ある者” が婆様に代わって村のことをよくしておりましたから、これからも大丈夫でしょう」
「“才ある者” はいくつくらいなのだ?」 才ある婆様に代わって出来るほどの“才ある者” がどれ程の歳の頃だろうと長が問う。
「我とそんなにかわらないと思います」
「ほぅー。 シノハと変わらんのか・・・。 それでは才ある婆様にはまだまだお元気でいて頂かなくてはならんな」 シノハと同じ年くらいであったのなら、それはまだ歳浅い“才ある者” だ。
「はい 」
「では、他に何も要りようなどないのだな?」
「はい。 何よりも薬草が必要だったようですから」
「そうか・・・薬草は足りたか?」
「十分かと思います」
「まぁ、その様子では足りなければ、たとえトンデンであろうと使いが来るだろうな」 言うと間をおいて言葉をつないだ。
「セナ婆様が心配をしておられた。 報告はこれまででいい、婆様の所に行ってご心配を取ってさしあげろ」
「はい」 一つ返事をすると、その場を立って一礼し、すぐにセナ婆の家に向かった。
「婆様、シノハです」 セナ婆の家の木戸の前で大きな声で言う。
トンデン村の家は木で出来ているが、このオロンガ村は石で出来た家に木戸がついている。
木戸が開くと中から“才ある者” が出てきた。
「シノハ」 目を見開き、口元に嬉しさが表れている。
「よく帰ってきました。 ・・・怪我はなさそうね」 シノハの身体を下から上に見る。
「はい」 ドンダダにつけられた傷はザワミドがすぐに薬草をつけてくれたおかげで傷跡は残っていない。
「婆様がご心配をされていたのですよ。 さ、中に入って」
木戸を大き開けるとシノハを中に入れた。 “才ある者” がシノハの後姿を見ながら中に入ると木戸を閉めその前に立った。
「婆様、遅くなって申し訳ありませんでした。 ただいま帰りました」
「長へは報告したか?」
「はい」
「ではゆっくりと話が聞けるな。 かたいことは良い、ここに座れ」 タム婆の座る椅子の前にある椅子を目顔で示した。
シノハが両の口の端を上げるとサッと歩いてすぐに椅子に腰かけた。
(シノハったら・・・) “才ある者” の口元が緩んだ。
(村の者が見たら驚くでしょうね) セナ婆とシノハの仲を知っている“才ある者” はさして驚かないが、他の者が見るとあまりの非礼に驚くだろう。
「で? どうじゃった?」
「はい・・・」
トンデン村の“才ある者” 才ある婆様の様子、トンデン村の様子を一通りセナ婆に話した。 勿論、長が襲われたとか、ドンダダのことは話していないが。
トンデン村の才ある婆様という話は、言い換えればこのオロンガ村の才ある婆様セナ婆の姉様の話。 オロンガ村の“才ある者” の居る前でトンデン村の才ある婆様のことをタムシル婆様とは言えない。 木戸の前に立つ“才ある者” に分からぬよう、あくまでもトンデン村の才ある婆様の話として話した。
「そうか。 では、村は落ち着きつつあるのだな?」
「はい。 才ある婆様はもう地の揺れはないはずだと仰っていました」 その言葉でタムシル婆様であり、セナ婆の姉様が元気であることが分かる。
「なによりじゃ」 ずっと前屈みに両の手を杖の上に置き聞いていたが、ホッとしたように椅子の背もたれに背を預けた。
「婆様よろしいでしょうか?」 その時、木戸の前に立ち静かに聞いていた“才ある者” が間を見て歩いて来るとシノハの後ろに立った。
「なんじゃ?」
「シノハは帰ってきたばかりです。 腹が減っておるのではないでしょうか?」
「おお。そうじゃった。 シノハ、腹が減っておるじゃろう?」
「ペコペコです」
(シノハったら・・・) 言葉の使い方に、まるで困った我が子を見るような目で見るとすぐに相好を崩した。
「では、すぐに何か作ってまいります」
「ああ、たのむ。 あ、それとリンラニ達にもシノハが帰ってきたことを言っておいてくれ」
はい。 と一つお辞儀をして“才ある者” がセナ婆の家を出るのを見送ると、シノハがセナ婆に向き直った。
「婆様! 我はどれだけ驚いたことでしょうか!」 両手を太腿につき前屈みになるとセナ婆に少し怒った顔を向けた。
「なんのことじゃ?」
「タムシル婆様のことです」
「おお、そうじゃったな。 じゃが、言ったであろう、姉様の所に行けばシノハの知らぬことがある、それを聞いても驚くなよと」
「だからと言って、タムシル婆様がトンデン村の“才ある者” 才ある婆様だったなんて。 そんな大切なことは教えて頂いておかないと」
「そうか?」
「婆様・・・」 嘆息を吐くと言葉を続けた。
「タムシル婆様が才ある婆様と知らずに最初に色んなことを言いましたから、トンデンの村人にどれだけ睨まれたことでしょうか」
「姉様が“才ある者” だということを、姉様から聞いたのか?」 セナ婆の姉様でありタムシルという名を持つトンデンに行ったタム婆。
「いえ、長です」
「長が?」
「はい。 昔トンデンの村長が何度もこのオロンガに足を運ばれたこと、そして婆様方がその幼き頃、セナ婆様がトンデンに行くとお二人で話されていたところから聞きました」
「長がなぜそんなことを知っておるのだ?」 何故、我らの幼き頃の決め事を知っているのだ。 驚いた目でシノハを見た。
「タムシル婆様・・・いえ、タム婆様と長はうち解けておられましたから、何でも話されているのでしょう」
タム婆から聞いた、我が祖父クラノがその秘、タム婆からの願いを守った。 タム婆の送った苦しい日々のことを微かでも出せばセナ婆は気付くだろう。 ついうっかり、要らないことを言わないように気が張る。